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ゴミ箱勇者の魔道具ハック  作者: そんたく_
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第8話 三人目の異界人

光が消えた。

治療設備も、腕輪も、壁に取り付けた光の球体も。

廃棄工房のすべてが、一瞬で沈黙した。

暗い。

何も見えない。

聞こえるのは、治療台の上で苦しそうに息をするリュシアの声だけ。

「リュシア!」

手探りで治療台へ近づく。

指先が治癒布に触れ、その上にある細い腕を掴んだ。

冷たい。

体温が急激に下がっている。

「カイ……」

リュシアの声は、すぐ近くから聞こえた。

だが同時に、もっと遠い場所からも聞こえた。

『カイ』

同じ声。

でも、リュシアではない。

頭の中に直接響いている。

「誰だ!」

返事の代わりに、暗闇の中で巨大な目が開いた。

縦に裂けた瞳。

黒い四角形の向こうから、こちらを覗き込んでいる。

『ようやく見つけた』

低い声だった。

男にも女にも聞こえる。

複数の声が重なっているような、不快な響き。

『三人目の異界人』

俺は小型杖を構えた。

だが、魔法は発動しない。

全属性アンブレラステッキとの接続が切れている。

光の画面すら出ない。

「三人目って、どういう意味だ」

『言葉の通りだ』

巨大な目が細くなる。

『お前より前に、二人がこちらへ来た』

「勇者が?」

『一人目は、自らを賢者と呼んだ』

黒い画面に映像が浮かんだ。

白衣の男。

知らない顔だった。

異世界の人間とは少し違う服を着ている。

胸元には、見覚えのある文字があった。

英語。

前世の企業ロゴのようなもの。

「こいつも、地球から……」

『彼はこの世界の魔法を理解しようとした』

映像の中で、白衣の男が魔道具を分解している。

水晶の内部へ金属線を繋ぎ、何かの装置を組み立てていた。

俺と同じだ。

魔道具を、機械として扱っている。

『そして理解した。魔力とはエネルギー。魔法とは命令。魔道具とは端末。この世界そのものが、巨大な演算装置であると』

「世界が……コンピューター?」

『近い。だが完全ではない』

映像が切り替わる。

白衣の男が、地下の巨大な扉の前に立っている。

第八層。

扉の奥には、無数の光の線が走っていた。

『彼は世界の管理権限を求めた』

男が扉の中へ入る。

直後、映像が激しく乱れた。

悲鳴。

爆発。

黒い影。

『だが、拒絶された』

画面に一人のアンデッドが映った。

白衣は破れ、顔は崩れ、目だけが光っている。

「まさか……」

『一人目は、今も第八層にいる』

背筋が冷えた。

アンデッド。

魂がログアウトできないまま、今も彷徨っている。

俺が最初に倒したアンデッドとは違う。

もっと強い。

もっと危険なもの。

「じゃあ二人目は?」

巨大な目がわずかに動いた。

『勇者』

映像に、剣を持った男が映る。

黒髪。

若い。

いかにも異世界転生者らしい姿だった。

男は城で歓迎され、大勢の兵士に囲まれていた。

俺とは違う。

強い魔力を持ち、炎も雷も自由に操っている。

『二人目は、この世界に適応した』

男が魔物を斬る。

人々が歓声を上げる。

王が笑う。

姫が男の隣に立っている。

『彼は王国を救い、魔王を殺し、英雄となった』

「成功した転生者か」

『そうだ』

「そいつは今どこにいる?」

巨大な目は答えなかった。

代わりに、映像がさらに切り替わる。

王城。

地下。

大勢の研究者。

中央に立つ、年老いた男。

黒髪には白いものが混じっている。

だが、顔には見覚えがあった。

さっきの勇者だ。

『彼は帰る方法を求めた』

年老いた勇者の前には、巨大な魔道具が置かれていた。

無数の端子。

黒い箱。

リュシアの記録で見た、第八層の装置。

『そして召喚術式を作った』

俺は息を止めた。

「勇者召喚を作ったのは、二人目の異界人?」

『彼は帰還できなかった。代わりに、向こうから新しい異界人を呼び寄せる仕組みを作った』

「なんのために」

『器を探すためだ』

巨大な目が俺を見た。

『世界の管理権限に耐えられる器を』

嫌な予感がした。

俺が魔道具を端末として認識できること。

管理者権限を得たこと。

リュシアが生体端末にされたこと。

全部が一つに繋がっていく。

「俺が、その器だって言いたいのか?」

『候補にすぎない』

「なら、なんで俺を助けるようなことをする」

『助けた覚えはない』

巨大な瞳が細くなる。

『私は、ただ観察している』

その時、リュシアが苦しそうな声を上げた。

「うっ……!」

胸元の黒い回路が強く光る。

彼女の体が再び治療台から浮き上がった。

「リュシアを離せ!」

『この娘は接続端末だ』

「人間だ!」

『同じことだ』

「違う!」

俺は動かない小型杖を投げ捨て、黒い画面へ手を伸ばした。

触れる。

冷たい。

水面のように指が沈む。

その瞬間、腕に激痛が走った。

「ぐっ!」

黒い線が指先から腕へ這い上がってくる。

リュシアの呪いと同じ回路。

画面の向こうにいる何かが、俺の体へ接続しようとしている。

『抵抗する必要はない』

「勝手に……繋ぐな!」

俺はスライム粘液を出した。

魔力は使えない。

だが、これは俺の体に取り込んだ能力だ。

ぬめりで黒い画面との接触を切る。

腕を引き抜く。

皮膚には黒い回路が残っていた。

まずい。

このままでは俺まで端末にされる。

『適応速度が速い』

巨大な目が、楽しそうに細くなる。

『やはり、お前が最も近い』

「何にだよ」

『正式管理者に』

暗闇の中、背後で重い音がした。

ずしん。

ずしん。

ニゴだ。

外で待機していたニゴが、工房の壁に開いた大穴から腕を伸ばしている。

兜の青い光が点滅していた。

電力を失っているのか、動きは鈍い。

それでもニゴは、俺たちを守ろうとしている。

巨大な手が黒い画面を掴んだ。

『低位守衛が、私に触れるか』

黒い光が弾ける。

ニゴの腕が砕けた。

黒い装甲と金属片が床へ散らばる。

「ニゴ!」

それでもニゴは止まらなかった。

残った腕で黒い画面を押さえ込む。

胸の安定魔石が青白く光る。

弱々しい光。

でも、完全には消えていない。

安定魔石。

接続が切れても、自分の中に魔力を保持できる魔石。

「そうか……」

外部から魔力が来ないなら、内部電源を使えばいい。

俺はニゴの胸へ走った。

装甲の隙間に手を入れる。

安定魔石から伸びている端子を探す。

あった。

それを全属性アンブレラステッキ本体へ繋ぐ。

接続音。

カチッ。

赤い光が一つだけ灯った。

火属性魔法、復旧。

「一つで十分だ!」

俺は治療設備の治癒布を剥がし、黒い画面に巻きつけた。

治癒布は損傷を修復する。

なら、異常な接続も正常な状態へ戻せるかもしれない。

清浄な水晶片を画面の四隅へ置く。

火魔法で、黒い回路を焼く。

『無意味だ』

「それを決めるのはお前じゃない」

光の球体が一瞬だけ起動した。

画面に文字が浮かぶ。

異常接続を検出。

接続元:第八層中枢。

対象:住民リュシア。

対象:仮管理者カイ。

強制切断には管理者権限が必要です。

俺は叫んだ。

「仮でも管理者だ! この工房にいるやつは俺の住民で、ニゴは俺の配下だ!」

権限を確認。

不足。

「知るか!」

俺は右腕の黒い回路を治療設備へ直接接続した。

痛みが全身に走る。

頭の中に大量の文字が流れ込む。

命令。

記録。

拒絶。

警告。

俺はそれらを無視した。

「廃棄工房の管理者として命令する」

腕輪が赤く点滅する。

「外部からの接続を、全部切れ!」

権限を再確認。

拠点内限定権限を適用。

強制切断を実行します。

巨大な目が初めて大きく見開かれた。

『待て』

「待つか!」

黒い画面に亀裂が走る。

リュシアの体を包んでいた光が消える。

彼女が治療台へ落ちた。

俺の腕に伸びていた回路も、ぼろぼろと剥がれていく。

『お前は何も理解していない』

「理解するまで勝手に繋がせると思うな」

『第八層へ来い』

画面の亀裂が増える。

『そこで、一人目と二人目の末路を見ろ』

最後に、巨大な瞳が俺だけを見た。

『お前も同じ場所へ辿り着く』

黒い画面が砕けた。

同時に、工房の光が戻る。

治療設備。

光の球体。

腕輪。

すべてが再起動した。

俺はその場に膝をついた。

「カイ……」

リュシアの声。

治療台の上で、彼女が目を開けている。

俺はふらつきながら近づいた。

「大丈夫か?」

「うん。カイは?」

「腕が痛い」

右腕には、黒い回路の痕が薄く残っていた。

完全には消えていない。

俺も少しだけ、生体端末にされたらしい。

リュシアが俺の腕に触れた。

「同じ」

「お揃いだな」

「嬉しくない」

「俺も」

外で金属が崩れる音がした。

ニゴ。

俺たちは急いで外へ出た。

ニゴは片腕を失い、壁にもたれかかっていた。

胸の安定魔石は、今にも消えそうに点滅している。

「ニゴ!」

リュシアが駆け寄った。

ニゴは動かない。

腕輪に状態が表示される。

廃棄守衛二号・ニゴ。

損傷率:六十八パーセント。

魔力残量:三パーセント。

緊急休止状態へ移行します。

兜の青い光が消えた。

リュシアが、ニゴの残った手に触れる。

「直せる?」

俺は損傷箇所を見た。

砕けた腕。

ひび割れた胸部装甲。

焼けた魔力回路。

簡単ではない。

でも、周囲には素材がある。

ここは廃棄場。

俺にとっては宝の山だ。

「直す」

俺は断言した。

「ニゴも、リュシアの呪いも。全部直す」

そのためには正式管理者権限が必要だ。

そして、それがあるのは第八層。

一人目の異界人。

召喚術式を作った二人目。

俺を待つ、巨大な目。

危険しかない。

それでも行くしかない。

腕輪が震えた。

緊急クエストを確認。

ニゴを修復せよ。

新規クエストを確認。

正式管理者権限を取得せよ。

目的地。

地下第八層、中枢管理区画。

俺は暗い通路の先を見た。

あの向こうに、すべての答えがある。

俺がこの世界へ来た理由も。

魔力ゼロだった理由も。

二人の異界人が何をしたのかも。

「まずはニゴを直す。それから第八層だ」

リュシアがうなずく。

「今度は、私も一緒に行く」

「危険だぞ」

「カイも危険」

「それはそうだけど」

「一人で行かせない」

その目を見て、止めても無駄だとわかった。

俺は小さく息を吐いた。

「わかった。一緒に行こう」

俺たちの横で、ニゴの胸に残った青い光が一度だけ点滅した。

まるで、その会話を聞いていたみたいに。

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