表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ箱勇者の魔道具ハック  作者: そんたく_
PR
7/9

第7話 治療設備が告げた正体

ゴミ箱ハウスへ戻ると、入口の簡易トラップがニゴに反応した。

侵入者を検知。

雷撃準備。

「待て待て待て!」

俺は慌てて腕輪を操作した。

トラップの先端に青白い光が集まっている。

その正面には、俺たちの後ろを歩いてきた巨大な廃棄守衛。

ニゴは片膝をつき、攻撃を受ける構えを取った。

「ニゴは味方! 配下登録されてるだろ!」

識別情報を更新します。

対象:廃棄守衛二号。

個体名:ニゴ。

分類:拠点防衛設備。

雷撃準備を解除しました。

光が消える。

「危なかった……」

「ニゴ、撃たれなくてよかった」

リュシアがニゴの黒い装甲を撫でた。

ニゴは反応しない。

だが、兜の青い光がほんの少し弱まった気がした。

「こいつ、ゴミ箱ハウスには入れないな」

入口よりニゴの体のほうが大きい。

無理に入れば、俺たちの家が一瞬で壊れる。

「外で待機させるか」

俺が命じると、ニゴは入口の横に座った。

巨大な盾を前に置き、大剣を膝の上に載せる。

これだけで、拠点の見た目がかなり物騒になった。

空き巣は絶対に来ないだろう。

魔物も、たぶん近づかない。

「さて」

俺はゴミ箱ハウスの中央に素材を並べた。

清浄な水晶片。

治癒布。

安定魔石。

ようやく揃った。

腕輪に設計画面が表示される。

簡易治療設備。

設置には二平方メートル以上の空間が必要です。

俺は狭い室内を見回した。

寝床。

保管用のガラクタ箱。

水の魔道具。

調理に使っている火の杖。

壁から伸びる無数の端子。

「場所がない」

「ここ、狭いから」

「家を広げるか」

拠点拡張機能を開く。

必要素材:

金属板、十二枚。

石材、三十個。

接続魔石、二個。

作業時間、推定六時間。

「六時間……」

自分で作るなら、だ。

だが、今の俺にはニゴがいる。

試しに素材の運搬と壁の撤去を命じてみる。

外にいたニゴが立ち上がった。

大きな手で鉄箱の側面を掴む。

べきべきべき。

「ちょっと待て! 力加減!」

壁が丸ごと剥がされた。

リュシアの白い髪が風圧で揺れる。

俺たちの家に、巨大な穴が開いた。

「壊れた」

「拡張中だ!」

「穴が開いただけ」

「ここからよくなる予定!」

ニゴに細かく指示を出し直す。

壁を外す。

床を平らにする。

金属板を並べる。

隙間を埋める。

俺はスライム粘液と金属同調を使って、継ぎ目を接着していく。

リュシアは使えそうな部品を仕分けた。

作業を始めて一時間ほど。

ゴミ箱ハウスは、以前の倍近い広さになった。

相変わらず壁は鉄くず。

床も鉄くず。

屋根も鉄くず。

だが、寝床と作業場所を分けられるようになった。

拠点拡張を確認。

ゴミ箱ハウス:レベル2 → レベル3。

新規設備枠を解放。

拠点名を変更できます。

「来た!」

治療設備より先に、俺は拠点名変更画面を開いた。

あまりにも嬉しくて手が震える。

「リュシア、家の名前を変えられるぞ」

「ゴミ箱ハウスでいい」

「よくない!」

「覚えやすい」

「もっとかっこいい名前にする!」

俺はしばらく考えた。

地下要塞。

魔道具工房。

廃棄城。

ジャンク基地。

どれもしっくりこない。

迷った末、入力欄に文字を打ち込んだ。

廃棄工房。

登録しますか?

YES / NO

「これならどうだ」

リュシアは画面を見た。

「普通」

「普通でいいんだよ」

YESを押す。

拠点名を変更しました。

ゴミ箱ハウス → 廃棄工房。

勝った。

何に勝ったのかはわからないが、ようやく勝った。

全属性アンブレラステッキの名前も変更しようとした。

この装備名を変更するには、正式管理者権限が必要です。

「なんでだよ!」

俺の声が地下に響いた。

リュシアは笑っていた。

今度は、はっきりと。

まあ、いい。

彼女が笑ったなら、少しくらいダサい名前も我慢してやる。

俺たちは治療設備の組み立てに取りかかった。

まず、金属製の寝台を作る。

表面に治癒布を敷く。

その周囲へ清浄な水晶片を配置。

中心に安定魔石を接続する。

俺には、魔道具の内部構造が端子と配線に見えていた。

普通の魔法使いなら、魔法陣を描くのだろう。

俺は違う。

水晶から伸びた端子を安定魔石へ繋ぎ、治癒布の認識情報を光の球体へ送る。

モニター。

バッテリー。

センサー。

治療用装置。

前世の知識を頼りに、一つずつ接続していく。

最後に腕輪を近づける。

未登録設備を検出。

簡易治療設備として登録しますか?

YES。

設備を登録しました。

診断機能を解放。

低位治癒魔法を使用できます。

治療設備が淡い緑色に光った。

「できた……」

俺はその場に座り込んだ。

長かった。

スライムを食って、カエルを食って、動くガラクタと戦った。

全部、このためだった。

「リュシア、横になってくれ」

彼女は少し緊張した様子で寝台に近づいた。

指先が震えている。

「怖いか?」

「少し」

「嫌なら止める」

「止めない」

リュシアは治癒布の上に横たわった。

白い髪が寝台に広がる。

俺は光の球体を起動した。

水晶片から細い光が伸び、彼女の体を包む。

診断を開始します。

外傷:軽微。

栄養状態:不良。

魔力経路:損傷。

呪詛反応:あり。

詳細解析を実行しますか?

俺はリュシアを見る。

彼女は黙ってうなずいた。

「実行」

水晶の光が強くなる。

リュシアの胸元にある黒い紋様が浮かび上がった。

花にも虫にも見えた模様が、ゆっくり形を変えていく。

線が枝分かれする。

互いに繋がる。

その形を見て、俺は息を止めた。

見覚えがあった。

「これ……基板だ」

「きばん?」

「魔力の通り道じゃない。回路だ」

黒い紋様は呪いではなかった。

少なくとも、ただ相手を苦しめたり殺したりするものではない。

何かを接続するための回路。

人間の体を、魔道具の一部に変えるものだ。

解析結果が表示される。

対象術式の分類を更新。

名称:異界接続用生体端末。

接続先:不明。

通信状態:待機中。

「生体端末……」

俺は拳を握った。

研究院の連中は、リュシアを魔道具に変えた。

第八層にある何かと接続するために。

「治せる?」

リュシアが聞いた。

その声は静かだった。

でも、目は俺をまっすぐ見ている。

俺は表示を読み進める。

術式の除去は可能。

必要条件:

正式管理者権限。

接続元設備の停止。

対象との同期解除。

「今は、無理だ」

嘘はつけなかった。

「でも方法はある。正式な管理者権限を取って、第八層にある接続元を止めれば、たぶん外せる」

「第八層……」

リュシアの表情が曇る。

「怖いか?」

「怖い」

「俺もだ」

俺は彼女のそばに座った。

「だから今すぐ行く必要はない。装備を整えて、ニゴも修理して、それから行こう」

「カイは、逃げないの?」

「逃げたいよ」

即答した。

「できることなら安全な場所で寝て、飯食って、ゲームして暮らしたい」

前世では、それをやっていた。

何もせず。

何も選ばず。

誰かに面倒を見てもらって。

でも、その人生はもう終わった。

「ただ、リュシアを置いて逃げたら、たぶん一生後悔する」

リュシアは黙っていた。

やがて顔を横に向け、かすかな声で言った。

「変な人」

「知ってる」

診断画面に、新しい警告が表示された。

異界接続用生体端末が外部信号を受信。

強制接続まで、残り十秒。

「え?」

九。

八。

リュシアの黒い紋様が光り始める。

「カイ……何か、聞こえる」

七。

「誰かが呼んでる」

六。

「接続を止めろ!」

俺は画面を操作した。

停止。

拒否。

切断。

どれを押しても反応しない。

権限不足。

五。

リュシアの体が寝台から浮かび上がった。

白い髪が水の中にいるように揺れる。

四。

治療設備の水晶にヒビが入る。

三。

空中に、黒い四角形が現れた。

扉。

いや、画面だ。

その向こうに、何かがいる。

二。

俺は全属性アンブレラステッキを治療設備へ接続した。

火でも雷でもない。

認証魔法を全出力で流し込む。

「俺の住民に、勝手に接続するな!」

一。

黒い画面の向こうで、巨大な目が開いた。

人間のものではない。

縦に裂けた瞳が、俺を見た。

接続完了。

異界存在を確認。

管理者候補を検出しました。

声が頭の中に直接響く。

『ようやく見つけた』

俺の腕輪が、赤く染まった。

『三人目の異界人』

その瞬間、廃棄工房のすべての光が消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ