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ゴミ箱勇者の魔道具ハック  作者: そんたく_
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第6話 廃棄守衛二号

廃棄守衛二号。


推定戦闘力、廃棄守衛一号の三倍。


その表示を見た瞬間、俺は正直帰りたくなった。


いや、すでに拠点にいるので、帰る場所はここだ。


つまり、布団に潜りたくなった。


もっと正確に言うと、ゴミ箱ハウスの隅に敷いた汚い布にくるまって、現実を見なかったことにしたかった。


「三倍ってさ」


俺は光の画面を睨みながら言った。


「だいたい物語だと、気合いでなんとかなる数字じゃない?」


リュシアは少し考えてから首を横に振った。


「ならない」


「そこは励ましてくれ」


「三倍は三倍」


「現実的」


「現実だから」


その通りだった。


ここはゲームっぽい表示が出るだけの現実だ。


死んだら終わり。


失敗したら、ゴミ箱ハウスが本当に墓になる。


それでも、行かないわけにはいかなかった。


治療設備に必要な安定魔石。


それを持っているのが、廃棄守衛二号。


リュシアの呪いを調べるためにも、出口へ向かうためにも、あいつは倒す必要がある。


「正面から戦ったら死ぬな」


「うん」


「だから準備する」


リュシアは小さくうなずいた。


「準備、大事」


俺は床に素材を並べた。


清浄な水晶片の余り。


治癒布の切れ端。


スライム魔石。


廃液ガエルの魔石片。


自動治療人形の部品。


壊れた金属板。


風の携帯杖。


雷の携帯杖。


そして、全属性アンブレラステッキ。


名前はまだ変えられない。


悔しい。


「まず、問題は防御だ」


廃棄守衛一号の時、俺は一撃で死にかけた。


二号が三倍強いなら、当たった時点で終わりだ。


受け止めるより、当たらない方がいい。


「風魔法で回避補助を作る」


「どうやって?」


「靴に繋ぐ」


俺は足元にあった壊れたブーツを拾った。


元は風の魔道具だったらしく、靴底に小さな羽型の端子がある。


そこへ風の携帯杖を接続する。


さらにスライム粘液で足首に固定。


画面に表示が出た。


簡易風圧ブーツ。


効果:跳躍補助、着地緩和。


欠点:制御不安定。


「不安定ばっかりだな、この世界」


試しに軽く跳んでみる。


ふわっ。


体が予想以上に浮いた。


「おお!」


次の瞬間、天井に頭をぶつけた。


ごんっ。


「痛っ!」


リュシアが無表情で見上げていた。


「不安定」


「知ってる」


でも使える。


使いこなせれば、攻撃を避けられる可能性がある。


次は攻撃。


廃棄守衛一号は中心魔石が弱点だった。


二号も同じとは限らないが、魔道具の集合体なら制御核か魔石があるはずだ。


「遠距離から削るだけじゃ足りない。最後は核を抜く必要がある」


「自動治療人形の時みたいに?」


「あれをもっと危険にした感じ」


「最悪」


「俺もそう思う」


俺は治癒布の切れ端を右腕に巻いた。


その上から金属片を貼り、スライム粘液で固定する。


腕を突っ込むなら、防御を厚くするしかない。


さらに廃液ガエルの魔石片を組み込んだ。


耐酸性は今回関係ないかもしれないが、粘液の性質が少し強化される。


画面に表示。


簡易摘出用ガントレット。


効果:制御核接触耐性、微弱。


欠点:見た目が悪い。


「欠点それいる?」


リュシアが覗き込む。


「たしかに、悪い」


「そこは否定してくれ」


「嘘はよくない」


この子、だんだん遠慮がなくなってきた。


いいことなのかもしれない。


たぶん。


最後に、リュシア用の装備を作った。


短剣に光の水晶片を埋め込み、認証魔法を少しだけ流せるようにする。


戦うためというより、暴走魔道具の動きを一瞬だけ乱すためのものだ。


「無理に戦うな。危なくなったら下がれ」


「わかった」


「本当に?」


「たぶん」


「俺の言い方が移ってる」


リュシアは短剣を握り、少しだけ笑った。


その笑顔を見て、俺は思った。


絶対に死なせない。


少なくとも、この子をもう一度ゴミとして捨てさせたりはしない。


俺たちは出発した。


目的地は旧搬送路。


上層搬出口へ続く道。


つまり、俺をここに落とした城へ戻る道でもある。


旧搬送路に近づくにつれ、空気が乾いていった。


廃棄水路や医療廃棄棚とは違う。


ここは広い。


天井も高い。


かつては大量の魔道具を運ぶための通路だったのだろう。


床には錆びたレールが二本、奥まで伸びている。


その上に、巨大な鉄の箱がいくつも転がっていた。


搬送用コンテナ。


中には壊れた魔道具がぎっしり詰まっている。


使えそうな素材の山だ。


だが、今は漁っている余裕はない。


腕輪の画面に赤い点が表示された。


廃棄守衛二号。


接近中。


地面が揺れた。


ずしん。


ずしん。


奥の闇から、それは現れた。


一号とは、見た目からして違った。


廃棄守衛一号は、ガラクタが無理やり人型になったような姿だった。


だが二号は、完成されていた。


黒い金属の鎧。


両肩に巨大な盾。


右腕には大剣。


左腕には鎖付きの杭打ち機。


胸の中心には、青白く光る大きな魔石。


顔はない。


兜の隙間には、赤い一本線の光だけが走っている。


画面に表示。


廃棄守衛二号。


状態:正常稼働。


任務:上層搬出口の封鎖。


警告:侵入者を排除します。


「正常稼働って、こんなに怖いのかよ」


廃棄守衛二号が大剣を構えた。


その動きに無駄がない。


一号みたいなぎこちなさがない。


完全に、殺すために動いている。


「リュシア、後ろへ」


「うん」


俺は小型杖を構えた。


まずは雷撃。


青白い光が二号に走る。


だが、胸の魔石が一瞬光ると、雷が周囲へ流された。


「効いてない?」


画面が解析結果を出す。


雷属性、効果減衰。


外部装甲に魔力拡散処理。


推奨:装甲破壊後、核へ攻撃。


「手順多いな!」


二号が動いた。


速い。


巨体なのに、足音一つで距離を詰めてきた。


大剣が振り下ろされる。


俺は風圧ブーツを起動した。


体が横へ吹き飛ぶ。


制御不安定。


壁に肩からぶつかった。


「ぐっ!」


痛い。


でも生きてる。


大剣は床を叩き割っていた。


まともに食らえば、即死だった。


俺は土魔法で足元を盛り上げ、二号の足を狙う。


しかし二号は杭打ち機を床に撃ち込み、自分の体を固定した。


土の拘束を力ずくで引きちぎる。


「こいつ、対応してくる!」


「カイ、右!」


リュシアの声。


鎖付きの杭が飛んできた。


俺は舌を伸ばして天井の梁に張り付けた。


認めたくないが、便利だ。


舌が縮み、体が上へ引っ張られる。


杭が足元を通過し、背後のコンテナを貫いた。


「舌、すごい」


「褒められても嬉しくない!」


空中で体勢を崩しながら、俺は火と風を混ぜた熱風を撃つ。


二号の肩装甲が赤く熱せられる。


そこへ水魔法。


急冷。


金属が悲鳴を上げる。


ひびが入った。


「いける!」


リュシアが走った。


短剣の光水晶が淡く光る。


彼女は二号の足元に滑り込み、ひびの入った装甲に短剣を突き立てた。


認証魔法が流れる。


ピコン。


二号の動きが一瞬だけ止まった。


「今!」


俺は雷撃を撃ち込む。


ひび割れた肩装甲が弾け飛んだ。


二号が初めてぐらつく。


だが次の瞬間、左腕の杭打ち機がリュシアに向いた。


「リュシア!」


俺は風圧ブーツを全開にした。


体が飛ぶ。


制御なんてできない。


ただ、リュシアと杭の間に入る。


左腕のガントレットで受ける。


衝撃。


骨が軋んだ。


「っが……!」


杭は腕を貫かなかった。


だが、金属片の防具が砕け、治癒布が赤く染まる。


痛みで視界が白くなる。


「カイ!」


リュシアの声が震えた。


「大丈夫、ではない!」


俺は叫びながら、スライム粘液を杭に絡ませた。


粘液に金属同調を流す。


杭と鎖が、一瞬だけ俺の支配下に入った。


「こっちに来い!」


俺は鎖を引いた。


二号の巨体がわずかに前のめりになる。


その瞬間、リュシアが足元のレールに短剣を突き立てた。


光が走る。


古い搬送レールが起動した。


コンテナが動き出す。


横倒しになっていた巨大な鉄箱が、レールに沿って滑り、二号の背中に激突した。


どごんっ!


二号が大きく体勢を崩す。


「リュシア、天才!」


「たまたま」


「たまたまで助かった!」


二号の胸の魔石が露出した。


青白い安定魔石。


目的の素材。


俺は右腕の摘出用ガントレットを見る。


ヒビだらけ。


でも、まだ動く。


「一発勝負だ」


俺は走った。


二号が大剣を振るう。


風圧ブーツで下をくぐる。


杭が戻ってくる。


舌を伸ばして横へ逃げる。


もう人間の動きじゃない。


でも、生きるためなら何でも使う。


俺は二号の胸元に飛び込んだ。


熱い魔力が肌を焼く。


ガントレットを突っ込む。


「ぐっ……!」


制御核に触れた瞬間、頭の中にノイズが流れ込んだ。


警告。


管理者権限を確認。


権限不足。


排除。


排除。


排除。


「うるせえ!」


俺は認証魔法を全開にした。


光の画面が目の前に開く。


廃棄守衛二号、制御核。


所有者:王立魔道研究院。


現在任務:上層搬出口封鎖。


管理者権限により、命令上書きを試行しますか?


YES / NO


「YES!」


俺は叫んだ。


だが、画面が赤く点滅する。


上書き失敗。


上位権限により拒否。


「ふざけんな!」


二号の腕が動く。


俺を掴もうとしている。


あと数秒で潰される。


その時、背後からリュシアの声が聞こえた。


「カイ、私に繋いで!」


「何を!?」


「その核の記録、私なら読める!」


危険だ。


彼女は第八層接続実験で呪われた。


魔道具の記録を読む力があるから、利用された。


また同じことをさせるのか。


一瞬迷った。


その一瞬で、二号の指が俺の肩を掴んだ。


骨がきしむ。


「早く!」


リュシアが叫ぶ。


俺は歯を食いしばり、光の球体をリュシアへ向けた。


転送。


接続。


リュシアの短剣に、二号の核情報を流す。


彼女の胸元の呪いが黒く光った。


「っ……!」


リュシアが苦しそうに膝をつく。


だが、倒れない。


「命令文……見えた」


「リュシア!」


「上層搬出口を封鎖。対象、失敗作の排除。王命により……」


彼女は震えながら、短剣を握りしめた。


「命令の所有者を、書き換える」


空中に文字が浮かんだ。


所有者変更。


王立魔道研究院 → 仮管理者カイ。


承認しますか?


YES / NO


俺は迷わなかった。


「YES!」


青白い安定魔石が強く光った。


二号の動きが止まる。


俺を掴んでいた手が、ゆっくり離れた。


巨体が片膝をつく。


赤い一本線の光が、青に変わる。


廃棄守衛二号。


所有者変更完了。


仮管理者の指揮下に入りました。


俺は胸から手を引き抜き、その場に座り込んだ。


倒した。


いや、奪った。


廃棄守衛二号を。


リュシアもその場に崩れ落ちた。


俺は慌てて駆け寄る。


「リュシア!」


彼女は苦しそうに息をしていたが、意識はあった。


「……できた」


「無茶しすぎだ」


「あなたも」


「俺はいいんだよ」


「よくない」


いつもの調子で返してくる。


それだけで、少し安心した。


腕輪が震える。


安定魔石の制御権を獲得。


治療設備素材、完了。


仮管理者レベル:3 → 4


廃棄守衛二号を配下登録しました。


拠点防衛力が大幅に上昇しました。


俺は片膝をついたままの巨大な守衛を見上げた。


さっきまで敵だったものが、今は静かに待機している。


頼もしい。


そして、ちょっと怖い。


「名前、つける?」


リュシアがぽつりと言った。


「二号でよくないか?」


「かわいそう」


「こいつにかわいそうとかあるのか?」


リュシアは少し考えてから言った。


「ニゴ」


「二号から一文字しか減ってない」


「呼びやすい」


廃棄守衛二号の画面表示が更新された。


個体名:ニゴ。


「登録された……」


俺は笑うしかなかった。


ともあれ、素材は揃った。


これでリュシアの治療設備が作れる。


上層搬出口も、目の前だ。


分厚い鉄の扉が、旧搬送路の奥に見えている。


あれを開けば、城へ戻る道があるかもしれない。


俺を捨てた連中のいる場所へ。


だが、今はそっちじゃない。


俺はリュシアを支えながら立ち上がった。


「戻ろう。治療設備を作る」


リュシアは小さくうなずいた。


「うん」


背後で、ニゴが静かに立ち上がる。


重い足音が、俺たちの後ろについてきた。


ゴミ箱ハウスへ帰る道。


俺たちはもう、二人だけではなかった。

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