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ゴミ箱勇者の魔道具ハック  作者: そんたく_
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第9話 壊れた守衛と修復素材

ニゴは動かなかった。

廃棄工房の中央。

さっきまで巨大な盾を構えていた黒い守衛は、今は膝をついたまま、片腕を失った騎士みたいに沈黙している。

いや、騎士というよりは。

壊れた冷蔵庫。

いや、これは失礼か。

「……ニゴ、大丈夫か?」

俺が声をかけると、黒い兜の奥で、かすかに青い光が瞬いた。

『緊急休眠中』

『主機能停止』

『損傷率、六十八パーセント』

『魔力残量、三パーセント』

うん。

大丈夫じゃない。

「……こいつ、あんたを守ったのよね」

リュシアが小さく言った。

いつもの淡々とした声だったが、少しだけ硬い。

「そうだな」

「じゃあ、直さないと」

「もちろん」

俺は即答した。

ニゴは敵だった。

ついさっきまで俺たちを殺しにきた廃棄守衛二号だった。

でも今は違う。

こいつは俺たちの仲間だ。

それに、でかい盾役がいない状態で第八層に行くのは、正直かなり怖い。

心情的にも戦力的にも、ニゴには絶対に起きてもらわないと困る。

俺が黒い腕輪に触れると、目の前に半透明の表示が浮かんだ。

『廃棄守衛二号 修復案を検索中』

『必要素材』

『高密度金属骨格 一式』

『安定回路 三基』

『予備動力核 一個』

『代替素材使用可能』

『旧武装廃棄庫への進入を推奨』

旧武装廃棄庫。

名前からして嫌な予感しかしない。

「武装って、武器の武装?」

「たぶん」

「廃棄庫って、捨てられた武器がある場所?」

「たぶん」

「じゃあ、そこにいる魔物って」

「たぶん、武器を食べるか、武器を使うか、武器そのもの」

「帰りたい」

「ここが家でしょ」

リュシアの返しが冷たい。

いや、たしかに今の家はゴミ箱だけど。

俺はニゴの前にしゃがみ込んだ。

「留守番、頼めるか?」

『命令受諾不可』

『主機能停止中』

「だよな」

返事だけは律儀だ。

リュシアが壊れたニゴの肩に手を置いた。

「……すぐ戻る」

その瞬間、ニゴの目の光がほんの少し強くなった気がした。

『登録住民リュシア』

『保護対象』

『……了承』

「しゃべった」

「根性あるな、こいつ」

俺は笑いそうになって、でもやめた。

笑うには、少しだけ胸が重かった。

廃棄工房の入り口に、簡易防壁を設置する。

壊れた棚。

鉄板。

粘性スライム。

ついでに、俺のぬめぬめ。

「そのぬめぬめ、便利だけど気持ち悪い」

「便利が勝ってるなら許してくれ」

「便利三、気持ち悪い七」

「負けてるじゃねえか」

リュシアは答えず、認証短剣を腰に差した。

俺は全属性アンブレラステッキを背負う。

正式管理者権限がないせいで名前変更できない、俺の相棒。

いや、相棒って呼ぶにはまだちょっと恥ずかしい。

だって名前が全属性アンブレラステッキだぞ。

口に出すたびに心が削れる。

『旧武装廃棄庫への経路を表示します』

腕輪から青白い線が伸びた。

廃棄工房の奥。

まだ通ったことのない横穴へ続いている。

俺とリュシアは顔を見合わせた。

「行くか」

「行くしかないでしょ」

こうして俺たちは、壊れた仲間を直すため、さらにゴミ箱の奥へ向かった。

旧武装廃棄庫は、思ったより静かだった。

もっとこう、剣が飛んできたり、槍が壁から生えたり、鎧が勝手に歩いていたりすると思っていた。

いや、静かな方が怖いんだけど。

通路の壁には、折れた剣や曲がった槍が無数に刺さっていた。

まるで武器でできた墓場だ。

床には錆びた鎖。

割れた盾。

砕けた兜。

その中に、ところどころ端子が見える。

USB。

HDMI。

見覚えのない細い端子。

丸いやつ。

四角いやつ。

前世の俺なら、こういうケーブルの山を見たら「いつか使うかも」と言って捨てられなかっただろう。

そして一生使わない。

今世では使う。

人生、何が役に立つかわからない。

「カイ」

リュシアが俺の袖を引いた。

「音がする」

俺は息を止めた。

カリ。

カリカリ。

カリカリカリ。

何かが金属を削っている音。

暗がりの奥で、小さな光がいくつも動いた。

虫だ。

いや、虫っぽい何かだ。

大きさは犬くらい。

背中に折れた刃を背負い、口元にはペンチみたいな牙がある。

そいつらが、捨てられた魔道具の端子をかじっていた。

『端子喰いを検出』

『魔道回路を捕食する害獣』

『接続機器への接近注意』

「俺の天敵じゃん」

端子喰いの一匹が、こちらを見た。

そして俺の背中の全属性アンブレラステッキを見た。

目が輝いた。

完全に餌を見る目だった。

「まずい」

「何が?」

「あいつら、俺のステッキを高級ビュッフェだと思ってる」

次の瞬間、端子喰いたちが一斉に跳んだ。

「うわああああ!」

俺は風魔法で後ろに飛び退く。

一匹が俺の足元に噛みつき、床の鉄板をバチンと食い千切った。

怖っ。

端子じゃなくても食うのかよ。

リュシアが認証短剣を抜いた。

「左!」

「了解!」

俺は氷の魔法を放った。

床が凍り、端子喰いの足が止まる。

そこにリュシアが飛び込んだ。

白い髪が暗闇で揺れる。

短剣が青く光り、端子喰いの背中にある刃を切り落とした。

「硬い」

「じゃあ焼く!」

俺は火魔法を撃った。

しかし端子喰いは燃えながらも止まらない。

こいつら、回路を食ってるせいか魔力耐性がある。

面倒くさいタイプだ。

『推奨対処』

『物理破壊』

『関節部への衝撃』

「物理かよ!」

俺は土魔法で石の塊を作り、風で加速させてぶつけた。

ゴンッ!

端子喰いの一匹が壁に叩きつけられる。

腹を見せた。

そこに端子があった。

しかも、妙にきれいな金色の端子。

「リュシア、あそこ!」

「見えてる」

リュシアが短剣を突き立てる。

バチッ、と火花が散った。

端子喰いは動きを止め、バラバラと崩れた。

中から、小さな基板のようなものが落ちる。

『安定回路を取得』

「一個目!」

「あと二個」

「多いな!」

端子喰いたちは仲間が倒されたのを見て、さらに興奮したように集まってきた。

やめろ。

学習しろ。

いや、学習した結果、俺のステッキを先に食おうとしているのかもしれない。

最悪だ。

俺はステッキを構え直した。

「リュシア、俺がまとめて止める。関節を狙ってくれ」

「わかった」

「あと、俺のステッキ食われそうになったら助けて」

「それは頑張って」

「そこも即答して!」

端子喰いが三匹、同時に跳ぶ。

俺は水魔法を床に流し、雷を落とした。

ただし殺すためじゃない。

一瞬だけ動きを鈍らせるためだ。

バチンッ!

三匹の足が硬直する。

リュシアがその間を駆け抜けた。

一匹目。

関節を斬る。

二匹目。

背中の刃を蹴って体勢を崩す。

三匹目。

俺の方に飛んできた。

「なんで俺ばっかり!」

俺はとっさにぬめぬめを出した。

端子喰いの牙が俺の腕に届く寸前、ぬめぬめが絡みついて動きを止める。

気持ち悪い。

でも強い。

便利三、気持ち悪い七。

いや、今だけ便利八で頼む。

「今!」

リュシアが短剣を投げた。

端子喰いの腹に突き刺さる。

バチッ。

二個目の安定回路が転がった。

残り一匹。

そいつは急に動きを止めた。

逃げるのかと思った。

違った。

床に散らばった折れた剣や槍を、口で次々と噛み砕き始めたのだ。

「え、食事タイム?」

「違う」

リュシアの顔が険しくなる。

端子喰いの体が膨らんだ。

背中から、折れた刃が何本も生える。

まるで針山。

いや、武器山。

『端子喰い変異体』

『過剰武装状態』

『危険』

「表示が遅い!」

変異体が突進してきた。

速い。

俺は土壁を作る。

粉砕された。

氷壁を作る。

粉砕された。

風で逸らそうとする。

重すぎる。

「カイ!」

リュシアが叫ぶ。

俺は全属性アンブレラステッキを握りしめた。

ここで壊されたら終わる。

でも逃げても追いつかれる。

だったら。

「食えるもんなら食ってみろ!」

俺はステッキの先端を、あえて変異体の口元に突き出した。

「馬鹿!」

リュシアの声が飛ぶ。

わかってる。

俺もそう思う。

変異体の牙がステッキに触れた瞬間。

俺はステッキ内の魔力を一気に逆流させた。

火。

水。

雷。

氷。

土。

風。

光。

全部を端子へ流し込む。

前世で言うなら、変なUSBに過電流を流す感じだ。

良い子は絶対にやってはいけない。

良い子じゃなくてもやるな。

バギンッ!

変異体の口が弾けた。

体内の回路が光り、背中の刃が次々に落ちる。

「リュシア!」

「わかってる!」

彼女が走る。

短剣を拾い、跳び上がる。

そして変異体の腹にある金色の端子へ、まっすぐ刃を突き込んだ。

一瞬、暗闇が白く染まった。

次に音が消えた。

変異体は崩れ落ちた。

床に、他より大きな安定回路が転がる。

『安定回路を取得』

『三基確認』

俺はその場にへたり込んだ。

「……死ぬかと思った」

「今のは本当に馬鹿」

「ごめん」

「でも、成功した」

「じゃあ、半分くらい褒めて」

「馬鹿にしては成功した」

「それ褒めてる?」

「かなり」

リュシアはそう言って、少しだけ笑った。

ほんの少し。

でも、このゴミ箱の底では、それだけで十分明るかった。

安定回路は手に入った。

残るは高密度金属骨格と予備動力核。

俺たちはさらに奥へ進む。

旧武装廃棄庫の最奥。

そこには、巨大な扉があった。

扉には文字が刻まれている。

『試作兵装保管室』

『管理者権限レベル4以上』

『未満の者、入室禁止』

俺の腕輪が震えた。

『仮管理者レベル3』

『権限不足』

「開かない?」

リュシアが聞いた。

「普通ならな」

俺は扉の横を見る。

そこには、割れた認証盤があった。

そして、その奥に。

見覚えのある端子が覗いていた。

USB。

「普通じゃない方法なら、たぶん開く」

「また変なことする気?」

「変なことじゃない。修理だ」

「それ、前も聞いた」

俺は全属性アンブレラステッキから光魔法の球体を外し、認証盤へ接続した。

画面のような光が浮かぶ。

『外部機器を検出』

『不明な管理者端末』

『互換モードで起動しますか?』

YES / NO

もちろんYES。

画面が切り替わる。

『試作兵装保管室』

『封印理由』

『異界規格兵装の暴走』

『管理者候補以外の使用を禁ず』

異界規格。

また、その言葉だ。

俺の背中に冷たいものが走る。

リュシアも表示を見て、黙り込んだ。

扉の奥から、低い駆動音が聞こえた。

ゴウン。

ゴウン。

何かが動いている。

『警告』

『内部兵装、起動中』

『登録名』

『廃棄守衛零号』

俺は思わず声を漏らした。

「……零号?」

二号より前。

一号より前。

試作品。

扉の向こうで、巨大な何かが目を覚ます気配がした。

そして表示が、最後に一行だけ追加された。

『予備動力核、搭載確認』

俺は乾いた笑いをこぼした。

「欲しい素材、あったぞ」

リュシアが短剣を握る。

「よかったじゃない」

「うん」

扉が、ゆっくり開いていく。

中から、赤い光が二つ灯った。

俺は全属性アンブレラステッキを構える。

「問題は、持ち主がまだ動いてることだな」

廃棄守衛零号。

ニゴを直すための最後の素材は、どうやら簡単には譲ってくれなさそうだった。

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