第1章 世界樹の庭【3】
しかし、ウォーロックにはひとつだけ気掛かりなことがあった。
「ゴード神は俺の魔力回路を封じると言っていた。魔法は使えるのか?」
「魔力回路を封じられたとしても」と、スクワイア。「完全に魔力が停止したわけではありません。ウォーロックには、魔力回路を封じられても余りあるほどの魔力が備わっているのです」
「なるほど……それが俺のチート能力ってことか」
「そういうことです。この国にアストラ王に勝る魔法使いはいません」
異世界転生と言えばチート能力が定番。あの女神が命を削る転生者にチート能力を授けるとは思えない。おそらくゴードが与えたチート能力だろう。
老人はウォーロックの腰に剣を装着し終えると、また体を重そうにしながら立ち上がった。あとは、とスクワイアが老人に言う。
「世界地図を用意してもらえますか。これから各地を回ることになります」
「はい、はい」
ウォーロックはこれから、この世界を再生させるか破滅させるかを決めるための旅で各地を転々とする。ウォーロックはこの世界にどんな国があるのかも知らない。地図は不可欠となるだろう。
「……やっぱり、聖遺物を破壊するのか」
ウォーロックが探るように言うと、スクワイアは穏やかな笑みを浮かべた。
「それをお決めになるのはウォーロックです。時間はたっぷりあります。のんびり考えましょう」
ゴード神も同じことを言っていた。ウォーロックが世界の再生か破滅、どちらの答えを出すにしても、それほど急がなくてもいいようだ。ウォーロックとしても、せっかくファンタジーの世界に来たのだから、それを堪能し尽くしたいと思っている。ゴードがウォーロックの魔力回路を封じたことで、世界樹の再生に必要な魔力を世界樹に吸われることもない。その仕組みについてウォーロックには詳しくはわからないが、命を削られることがないということだ。この世界を心行くまで堪能することができるだろう。
「まずは各地を回るだけの旅だとしても、ゴード神がウォーロックを責められるようなことはないはずですよ」
「ふむ。では、この世界のことをよく知るところから始めよう」
ゴードがこの世界の破滅を望んでいるとしても、この世界にも自分の意思を持って生きる人間たちがいる。世界の破滅は彼らの命を奪うことになる。そんな残酷な選択を自分が採れるか、ウォーロックにはまだわからなかった。
「女神は転生者の魂を利用してこの世界を再生させようとしている。だとしたら、女神にとってはそう時間がないんじゃないか?」
「そうだとしても、エウル神は私利私欲のために転生者を利用していると言わざるを得ません」
「女神が強引に俺の魂を奪おうとしたりするんじゃないか?」
「いえ、エウル神もゴード神も、この世界の人間に手出しをすることはできません。この世界に入ってしまえば、神は不介入です」
「なるほどな」
神がこの世界に介入できるなら、女神はどんな手を使ってもウォーロックを世界樹の再生のために利用したかもしれない。ゴード神がウォーロックの魔力回路を封じ、強引にこの世界に落としたのは、エウル神が手出しをできなくするためなのかもしれない。
「店主。お前はエウル神とゴード神、どちらを支持する?」
「なんとも申せませんな。エウル神のやり方には賛同できませんが、エウル神がいらっしゃらなければこの世界は均衡を保つことができません」
「ふむ……エウル神とゴード神、二柱が存在しなければこの世界の均衡は保てないということか」
「ええ。仰る通りです」
ウォーロックの前世は多神教の国であったが、例えどの神が消えたとしても世界は存続する。二柱の神が存在することで世界の均衡が保たれているなら、このどちらかの神を消せば、ウォーロックの選択も関係なくこの世界は滅ぶのだ。
「だが、ゴード神はこの世界の破滅を望んでいるようだが」
「エウル神とゴード神は昔から対立しております。再生と破滅を繰り返すことで世界樹の庭は存続しているのです」
「エウル神は世界樹が弱っていると言っていた」
「ゴード神の時代が終わろうとしているのです」
こちらへどうぞ、と老人がウォーロックとスクワイアを店の端に置かれたテーブルに促す。それから奥へ向かって行くと、ややあってティーカップとポットを乗せたお盆を持って戻って来た。話が長くなったため、お茶を淹れて来たようだ。




