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『赤い稲妻』と『あだ名付きAチーム』
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『赤い稲妻』と『あだ名付きAチーム』ACT 07

 戦闘開始して暫く。

 屋内からの攻撃、特に隠れながらや何かを守りながらの戦闘は非常に遅々としたものとなりがちである。

 消音器独特の音が止まることなく鳴り響く。

 その度に建物の一部が小さく爆ぜた。

 屋根上から『白い悪魔』の射撃が行われているが敵からの反撃もある。隠れる場所が限定される屋根上では手数が減る。

 ミッチェルが検問を張り巡らせたことで通行人の数はぐっと減っている。

 しかしそれでも0ではない。

 検問内で観光を続ける旅行者やそこで働く者、生活している者は絶えることはない。

 戦闘が長期化すれば悟られ、混乱に飲まれる可能性もある。

 一般人に被害が出てしまえばそれすらも霞む問題になりかねない。

 神谷真理は舌打ちをした。

 敵の数は少ない。

 しかしこちらはもっと少ない。

 使える(・・・)人間が、圧倒的に少ない。

 元より護衛として入っていた現地の軍隊や諜報機関の兵士、職員は神谷真理の戦闘に手を出せずにいる。

 各大統領の壁となるようになっているが、戦闘域から少しでも離れる、という思考にならないのかまだ神谷真理の横に各大統領がいる。

 神谷真理はため息をついた。

『暴風雨』が察したのか神谷真理と入れ替わる。

『徹甲弾』がそこで遮蔽物から飛び出して敵の前に躍り出た。

 先ほどまでは拳銃で戦っていたが、痺れを切らしたような顔をしている。

 大方、飽きたのだろう。

 神谷真理は護衛の兵士に顔を向ける。


「邪魔になると思わないのか? 何より危険だとは思わないのか?」


 特殊介入部隊隊員のあの男が激昂する。


「貴様が外に出るなと言ったのだろう!」


「誰がその場に留まれと言った! 大統領を守れと言っただろ! イタリア軍はどんな訓練を行っているんだ! 役立たずにしたって限度がある! 弾丸が飛び交う真横に壁があるとはいえ大統領を留めて疑問に思わない護衛は護衛じゃない!」


 吐き捨てる神谷真理に特殊介入部隊隊員は歯軋りした。

 イタリア大統領はそんな彼と神谷真理を交互に見ている。

 舌打ちをして神谷真理は無線をつなげる。


「『白い悪魔』、現在俺達がいる場所の安全な位置を読めるか?」


『この状況でかい? まあ、「徹甲弾(バカ)」が暴れているから大丈夫か。そうだね。射線上から外れたいなら斜め向かいの壁、二個目の窓だ。その下の陰なら狙撃じゃ狙えない。ミサイルは無理だけど少なくともそこは弾丸では狙えないからね。別室に移動……は護衛が信用ならない感じかあ。まだ外の護衛、アタフタしてるよ』


「壁にもならなそうだ」


 神谷真理は無線を切った。


「あの二個目の窓の下の陰に全員で身を低く。爆発物を使用される可能性もある、伏せた後は両手で耳を塞いで、口を薄く開けろ。お前ら護衛はその役にも立たない上着を脱いで大統領に被せておけ」


「君は、何者だ?」


 ロシア大統領だった。

 神谷真理はネックウォーマーを鼻先まで持ち上げた。

 神谷真理の顔を後で調べられたら面倒だと思ったからだ。

「名乗るほどの者でも」と吐き捨てる彼にロシア大統領はニヒルに笑んだ。

 建物の外から敵の悲鳴と、何かと何かがぶつかる鈍い音が連続している。

『徹甲弾』が戦っているのだ。

 銃器をほとんど使用しない肉弾戦を好む彼だ、あまり一人で戦わせられない。

 神谷真理は銃のグリップを握り直す。


「早く行ってくれ。戦闘の邪魔だ」


 神谷真理がそう言うと護衛達が各大統領を連れて移動を始めた。

 最後まで、護衛に背中を押されるまでフランス大統領は神谷真理の方を見ていた。


『逃げた狙撃手が誰なのか判明した』


 その時無線が入った。

 ミッチェルだった。


『「奇跡の使徒」の戦闘部隊の第一班の班長だ。名をリチャード・ストラフォード。イギリス人。中距離戦闘を得意としている。目的のためなら手段を択ばない。敵を倒すためなら民間人を巻き込むことも厭わず、都市部近隣で止められたにも拘らず爆破攻撃を行おうとした事で軍事裁判にかけられたが、逃亡を図り、国際指名手配されている。しかし戦闘能力と指揮能力は確かだ。絶大な信頼感を持たれた実質的な統率者だ』


「ボスよりもリーダーが好かれるのはどこも同じか。で、その日陰者のボスは?」


『まだ姿を現していない。ボス、正確には設立者の名前は周・建華(ジョウ・ジェンホア)


「中国人か? ていうか、そういうのは作戦開始前から共有しておけ」


『すまないが、他のあだ名付きの前で、下手に特定の名前を出すことを危険だと判断した。理解してくれ』


「……で、今それを教える意味はなんだ?」


 外が騒がしくなってきた。

『暴風雨』が振り返って叫んだ。


「塀を乗り越えてきたぞ! 乗っ取る気だ!」


 神谷真理は槓桿を引いて弾丸を装填し、走り出す。彼も銃撃戦に参入する。

 ここは市街地だ。

 激しい銃撃の音が街中に反響する。

 神谷真理も、敵も、『白い悪魔』、『巨人』も消音機を装備しているが『暴風雨』は散弾銃だ、装備していない。

 散弾銃の爆音が轟き続けている。

 彼に気遣いを求める意味はないだろう。

 神谷真理も諦めて無線を再開する。


「で?」


『リチャード・ストラフォードを追ってくれ。作戦区域を脱出されると手出しが出来なくなるし敵の目的がわかっていない以上、逃げた先も危険地帯として認定せざるを得ない。イタリアだけの問題じゃなくなる。『稲妻』、これは重大な国際問題だ。リチャード・ストラフォードを追い、拘束しろ。出来ないのなら、撃破しろ』


「……了解。ここを脱出する」


 神谷真理の頬に汗が伝い、ネックウォーマーに沁み込んでいった。

 敵の数は、不明。

 しかしこちらは使い物になる人間はたったの五人。

 護衛があまりにも無力過ぎる。

 数では圧倒的に不利だ。

 実力で補うしかない。


『しかし、どうしてここからしか敵は攻めてこないんだろうね』


 神谷真理はそれを聞きながらも返事はしなかった。

 目の前の敵を倒すことに専念する。

 焦る。

 明らかに神谷真理は焦っている。

 敵の攻勢も、敵の狙撃手、リチャード・ストラフォードへの追跡も、もちろんある。

 消音器の耐久度への危惧もある。

 だが、そうではない。

 神谷真理も考えていた。

 敵は、今戦闘を行っているこの扉からの侵入に拘っている。

 その理由はわからない。

 ここでの戦闘に時間を取られて、他の所へ攻撃を行われたらまだ状況への対処に手が回せていない現地護衛達では恐らく対処が出来ない。

 神谷真理は弾倉を交換しながら無線に言葉を投げる。


「ミッチェル。外の状況はどうなっている? リチャードなんとか以外の動きだ」


『民間人が「暴風雨」の銃声に気付き、宮殿に集まり始めている。検問に当たっていた現地警察が制止しているが時間の問題だ。敵が戦闘位置を固定しているのは』


「民間人の目を宮殿に集めるため」


『おそらく。目だけならともかく、集まった人そのものへの無差別攻撃だった場合は何としてでも阻止する必要がある。現地警察、介入部隊の増援が向かっている。外は何とかそれで抑え込む』


「俺達は今すぐにでもリチャードなんとかを追えと言うんだな?」


『……そうだ。ちなみに、リチャード・ストラフォードだ。奴は屋根伝いに徒歩で逃走していたが今は建物から降りて歩道を走っている。ライフルは収納ケースに入れて運んでいるようだ。街を出ようとしている。検問がある以上は大通りから逃げることは不可能だ。しかし、地下水門や同じく建物伝いに逃げられたら検問では止められない』


「目的がわからないのに下手に止めることも危険だ。誘導して、むしろこちらが把握しやすいルートで追跡するべきだ。その方が俺達も後追いしやすい」


『もちろん手配している。検問の範囲を拡大し、道路、通行人を可能な限り抑え込み、道路を無人に近付ける』


「五分でやれ」


『あと三分で完了する』


「なら三分後にここを脱出する。だが俺一人で追跡する」


『……君の判断に任せよう。君なら走って追いつくだろうが、必要なら車両は道中確保してくれ。後処理はこちらで行う』


「わかった。『白い悪魔』! 『徹甲弾』! 『巨人』! 『暴風雨』! お前たちはここを継続して守れ! 俺は敵狙撃手を追跡する!」


『白い悪魔』が返事をする。


『あれは、並の狙撃手じゃあないよ。狙撃勝負をするのかい? 君の狙撃銃(AWM)なら女トイレの個室に置いてあるよ』


「せめて男にしろ」


『私は女だよ』


「そういうこと言ってんじゃねえ」


 走り出して、宮殿の広間を飛び出して女性トイレへ。

 そこにあるケースからAWMを取り出し、スコープを装着。

 イタリア陸軍の上着を脱ぎ棄て、ケースに掛けられていた自身の迷彩服の袖に腕を通す。

 弾倉を弾納に差し込み、狙撃銃を背負い、固定する。

 伊陸軍小銃(ARX-160)を下ろし、仏陸軍小銃(HK416F)に持ち変える。

 腰のM92Fを確認。

 そしてトイレを飛び出してまたあの窓の前に。

 ここまで二分。

 緊急出撃だとしたら相当な速度だ。

 神谷真理は扉の前で足に力を籠める。


『拾いな』


 窓の外に何かが落ちた。

『白い悪魔』が何かを落としたらしい。


『錠開けだ。コンピューター制御の新しい車やバイクのキーにも干渉できる。差し込むだけでいい。車やバイク程度なら8秒もあれば開錠できる』


 神谷真理が『白い悪魔』へ無線を叩くことで返事をする。

 振り返って、『暴風雨』を見る。

 彼が頷く。

 横を見る。

『巨人』も頷いた。

 その時。


「行くのか、『復讐の虎(ヴェンジェンスタイガ)』」


 神谷真理の後ろから声が響いた。

 神谷真理が振り返るとそこには護衛を付けたフランス大統領がいた。


「……ああ」


 フランス大統領は頷いた。


「……邪魔をしてしまっているな」


『暴風雨』の舌打ちが聞こえた。

 大統領がそれに反応した。


「君は、まさか『フランスの暴風雨』……か? そうか、君たちが例の。……なら、今ここで起こっていることは、そういうことか」


 神谷真理はそれには反応せずに窓の外に視線を向けた。

 三分が経過した。


「幸運を」


「行け!」


 大統領の言葉をかき消すように『暴風雨』が叫んだ。

 瞬間神谷真理は走り出した。

『白い悪魔』の落とした錠開けを拾い上げて、同時に飛び出した『暴風雨』と『巨人』、そして『徹甲弾』と『白い悪魔』の援護と彼自身の射撃により道を開き、神谷真理は宮殿を突破する。

 壁を飛び越えて、道路へ走り出す。

 その瞬間にも、宮殿に向けて進んでいる人間が十名ほど神谷真理の視界には映った。

 しかし彼は止まらず走り抜けた。

 彼は狙撃手を追う。

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