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『赤い稲妻』と『あだ名付きAチーム』
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『赤い稲妻』と『あだ名付きAチーム』ACT 06

 しばらくして、一度部屋に入っていったイタリア大統領が再び護衛の兵士達に囲まれて出てきた。

 彼自身が入って来た扉の前で停止し、腕時計を確認している。

 神谷真理は顔を上げて『巨人』と顔を見合わせて頷く。


「お前ら三人はどこでもいいから合流しておけ。要人が揃うぞ」


『ああ』


 神谷真理は『暴風雨』らに合流の指示を出す。

 二分後。

 扉が開いた。


 イタリア大統領が大げさに手を広げ、歓迎の意を示した先には二人の男性。

 ロシア大統領。

 高齢だがしっかりとした体がスーツ越しにもわかる男性。

 そして。


「フランス、大統領」


 神谷真理の露出した右目が歪んだ。

 苦しそうに。

 恨めしそうに。

 その視線の先にいるのは他二名と比較すると若い男性だった。

 スーツ姿に、生真面目そうな顔。

 イタリア大統領と握手を交わしたフランス大統領の目線が、反対側にいる神谷真理の方に、向けられた。


「行こう」


『巨人』が神谷真理の戦闘服の背中を掴んだ。

 しかし神谷真理は動かない。

 フランス大統領を睨むように露出した右目だけで見ている。

 フランス大統領も、立ち止まる。

 イタリア大統領とロシア大統領の目線が神谷真理に注がれる。


「目立つのはまずいよ。行こう」


『巨人』が神谷真理の背中を引く。

 それでも動かない。

 フランス大統領が絞り出すように言葉を発した。


「『復讐の虎(ヴェンジェンスタイガ)』」


 神谷真理は舌打ちをした。

『巨人』に頷いて歩き出す彼の背中にフランス大統領は聞こえるか怪しい程度の声で言う。


「息災そうでよかった」


 神谷真理の右目が不愉快そうに歪んだ。


「おかげさまで」


 吐き捨てて不機嫌さを露に歩く神谷真理の後ろを『巨人』が歩く。

 その後姿をフランス大統領は複雑そうな顔をして見送った。

 その時だった。


「」


 違和感。

 神谷真理が一瞬何かの違和感を覚えて眼帯を少し浮かせた。

 浮かせた眼帯の隙間から神谷真理の左目が露出する。

 何気なく、振り返る。

 窓側。

 一つだけ、窓前に置かれた植栽が揺れている。

 不自然に、窓側の方から。

 その一つだけ。

 窓が開いている。

 先ほどまでは、確実に閉まっていた。

 空いていたのなら神谷真理がそれに気づかないはずがない。

 その窓の線上は。

 それは、三人の大統領がいる位置だった。

 神谷真理は咄嗟に自分が着ていた防弾ベストを三人の大統領の方に、特に今回の標的であるイタリア大統領の胴体付近に目掛けて全力で投げ付けた。

 瞬間。

 金属音と共に防弾ベストがイタリア大統領の方へ弾き飛ばされた。

 静寂。

 少し遅れて破裂音が届いた。

 状況が読み込めず地面を転がった神谷真理の防弾ベストを見下ろす各大統領と護衛の兵士たち。

 誰も、動き出せなかった。

 神谷真理は叫んだ。


敵襲(エネミーファイア)!」


 瞬間兵士達が弾かれたように動き出した。

 兵士たちが各大統領を囲み、移動を開始した。

 神谷真理も走りだして勢いを消さずに防弾ベストを拾い上げてそのまま窓の陰に入り込む。

 そこで防弾ベストを確認する。

 潰れた金属片。

 それを抜き取り確認する。

 無線を操作。


「『白い悪魔』、聞こえたな。敵襲だ。敵は7.62㎜弾を使用。距離は1000m以内。宮殿の屋根の上で索敵しろ」


『一番危険な位置での索敵を命じるなんて酷いリーダーだ』


「『暴風雨』、『徹甲弾』こちらに合流しろ。宮殿内で戦闘になればお前たちに先陣を切ってもらう」


『言われなくとも』


『ここがどこかわかんない』


『徹甲弾』の言葉には返事をせず神谷真理は『巨人』を向く。

 彼も小銃を取り出して戦闘準備に入った。

 神谷真理は防弾ベストを放り捨てて小銃を構える。


「敵次弾備え。位置を探るぞ」


『巨人』が頷く。

 護衛の兵士たちは大統領を守ることに必死になっており反撃要員を用意しようとはしていないようだ。

 その余裕がないのかもしれない。

 神谷真理たちだけが、敵に向けたアクションを起こそうとしている。

 少し。

 神谷真理に再度の違和感。


「撃ってこない?」


 敵からの次弾は、一向に現れなかった。

 狙撃手の基本はヒットアンドアウェイ、一撃離脱だ。

 すぐに次弾がないこと自体はおかしくはないが、攻撃がその一撃だけなのはおかしい。


『屋根上から探ったけどもう逃げた後だと思う。視線を感じない。仮にまだ隠れていたとしても射線を探られるのは確実だから知能があればもう撃つ事はないと思うよ』


『白い悪魔』の無線だった。

 神谷真理も同意する。


「そのまま警戒しろ。他の攻撃が来ないことはおかしい。通行人におかしな動きをする奴がいれば知らせろ」


『わかった』


「ミッチェル」


『検問を強化し、少なくとも入ることは防ぐ流れを形成した。何かが起こるとしたら、今いる通行人が敵だ』


 ミッチェルが援護を行った事を伝えてくる。

 一般人が減れば、警戒する対象が減る。

 逆に言えば、敵は人の目がなくなるということでもある。

 時間が過ぎればすぎるほど敵の攻撃性が激しくなる可能性は高いだろう。

 神谷真理はちらりと大統領たちを見た。

 彼らが入って来た側の扉の方に兵士たちが誘導していた。

 神谷真理は怒声を発した。


「出るな! 大統領を死なせたいのか!?」


『「稲妻」、駐車場側に動き。塀を一気に乗り越えてきた。数は六人。全員武装している。消音機持って来てて良かったよ。迎撃開始』


 瞬間、短い悲鳴が外から聞こえた。

 二発の発砲。

 街中でだ。

 そして次瞬。

 大統領達がいる扉を無数の弾丸が貫通した。

 大統領を兵士数人が押し飛ばし、その兵士たちは皆蜂の巣になり崩れ落ちた。

 銃声はなかった。

 敵も消音機を装備している。

 神谷真理は駆け出して扉の前まで行く。

 扉の射線上から外れて倒れた大統領を引きずって寄せる。


「ミッチェル、攻撃が始まった。外の状況は」


『すまない、陽動に引っかかった。表の方で交通事故騒ぎを起こされた。裏のホテルから数人の武装した者が出てきた。まだ増えている。数は二十人ほど。施設には入らず宮殿入り口前の道路で待機している。見える装備は皆AR-15。中距離向けにロングバレルを装備し、かつ消音機を付けている』


 神谷真理はミッチェルからの言葉を聞きながら兵士達へ目をやる。

 睨みつける。


「射撃を受けたのに何故扉の前にいる? 撃たれたいのか!?」


「外へ車を回した! 有事の際はそれで安全地帯に連れていく計画だ!」


「馬鹿が! 外から射撃しているということは外に敵がいるんだぞ! そんな当たり前のことも想定できないのか! セカンドプランは!?」


「ここで立て籠もれとでもいうのか!?」


「敵からの攻撃が確実にあるとわかる状態で要人を外に出す行為が馬鹿だと言っているんだ! 話を聞け! ここで迎撃行動を取る! お前たちは俺たちの援護に回れ! いやもう邪魔さえしなければそれでいい! 大統領だけ守って動くな!」


「二等軍曹ごときが!」


 特殊介入部隊隊員の男が怒りをあらわにするが神谷真理はそれを無視する。

 外からの射撃はまだ続いている。


「AR-15と言ったな? ロングバレルにサプレッサー。サプレッサーにより発生する不安定さをバレルでかき消したか」


『考え方は無理矢理だが筋は通る。市街地向けのカスタムだ。敵は最初から市街戦を想定しているものと考えていいだろう』


「宮殿への攻撃ではなく、市街地での戦闘を考慮した動きか。敵の目的は本当に暗殺か?」


『わからないが、逃走した敵狙撃手と見られる武装した人物を衛星より補足した。何とか拘束したいところだが、敵の他の目的はこちらで考察する。君は今の攻撃を凌いでくれ』


「了解した」


 神谷真理は無線を切った。

 弾丸が扉を撃ち破っていく。

 直ぐにでも扉が倒れてしまいそうだ。

 その時、神谷真理の横に滑り込むように赤い影が走り込んできた。

『暴風雨』と、その後ろの『徹甲弾』だった。


「厄介そうか?」


 愉快そうに顔を歪める『暴風雨』に神谷真理は鼻を鳴らした。


「遅い。何をしていた」


「『徹甲弾(こいつ)』、マジで迷ってやがってよ。反対まで行ってた」


 けらけら笑う『暴風雨』。

 神谷真理が目線をやると『徹甲弾』も釣られてケタケタと笑った。

 舌打ち。


「敵をここで倒し切る。敵の装備はAR-15。市街地戦闘向けのカスタムだ。敵は市街戦も躊躇する気がない」


「おお上等上等。そうでなくっちゃ」


『暴風雨』が楽しそうに散弾銃(SPAS)のスライドを引いた。

『徹甲弾』も薄ら笑いを浮かべてグローブを嵌めた。


「戦闘開始」

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