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スコペオン一族

アラは言われるがまま必要なものを買い揃える。身分証を提示してようやく決済を終えた。


フィロスは大人しくゲージに入った。


「偵察は、人によっては難しいって言うから、できなかったらまた来て下っさい。終わりっ」

そう言うや長身を屈めて奥に引っ込む。


帰りは、アラが操作盤のコツを掴んだと、迷わずケリュケイオンに戻る。着いた頃には昼はとっくに過ぎていた。


夕暮れ前、明かり一つない静寂に包まれた部屋にガラスをコンコンと突く乾いた音が響いた。


テラスに羽を休めるフィロスの姿。脚には括り付けた紙。


➖3日後の晩、スコペオン家の晩餐に呼ばれました。族長が挨拶をとのことです➖


「これからよろしく頼む」

かけた声に満足したのか、ぴょんぴょんと向きを変え、大きな翼を広げて縁壁に乗る。


脚で蹴り出し、そのまま羽ばたくことなく、風を受けてゆっくりと高度を下げていく。


フィロスの翼が何かに似ていると思えば、アラの濃いブラウンの髪色だと分かった。それが今、下の広場で並んでいる。


3日後、再びエウクを部屋に呼び出した。


「マナーについては、ご心配いりません。クリュスタロスがルールでございます。押し通して下さい」


「あなたが言うと冗談か本気か、わからないよ」


王族を頂点とするクリュスタロスが、他の種族より上位に置かれているが、いたずらっぽいエウクの表情からは真意が読み取りにくい


「スコペオンは一万年前にエルピスが見捨てた地上に捨てられた一族でございます。その長過ぎる年月を経て、彼らは自らを『守る者スコペオン』と名乗りました」


「そうだな」


「エルピスを恨んでいるのだろう」


「私の知るスコペオンは、恨みとは違うようでした。恨み続けるのに1万年は長すぎると言っております」


「総監か」


「はい。ただ、中には、快く思わぬ者もいるでしょうし、何より地上の民はクリスタルを嫌悪しております」


「そうだろう」

(この地は鉱物族と地下から流刑された者の地だ)


「鉱物由来の機器で生活し、クリスタルを使う者はごく僅か。あれはとにかく時間がかかり、非効率です。団長殿もあの昇降機、ウンザリでございましょう?」


(もう本題が終わってしまった)


エウクはとても優秀な世話人だと誰が見てもわかるが、クリスタル機器狂でもある。


長い年月、使用する者の現れないこの部屋を守り続け、ついに稼働したことがよっぽど嬉しいらしく、部屋に来るたびクリスタル機器の講釈が続く。


「晩餐の準備に入らねば。衣装や装飾を頼めるか?」

フィロスとの同調に忙しいアラは昨晩からほとんど姿を見ていない。


クリュスタロスの正装は白かごく薄い色を基調とする。漆黒を良しとするカイノスではさぞ滑稽に映るはずだ。


「こちらに」


「スモーキークォーツか」

放射線によって生じた欠陥に由来する灰煙色のクリスタル。


見る角度によって、煙が流れるような光沢を放つ。襟ぐりや袖口には、アイトスの瞳に合わせ、金で装飾されている。


「あなたが世話人で本当に良かったよ」


2人の兄とは母親が違う。純血のクリスタルの王族の兄達は、クリスタルの化身と呼ばれ、銀糸の髪に淡い紫の瞳を持つ。白い衣装で並び立つ度に、自分の異質さにゾッとしていた。


アイトスは今、生まれて初めて自分が着た服を似合うと感じた。


出発前に姿を現したアラ、そして数日ぶりに見た2人の従者。


「カイル・クリュスタロス殿は、遠方に出ており本日は欠席です」


「遠方?」

名ばかりの団長であるアイトスには従者らが何のために地上へ来たのかを知らない。


「私も馬で行く」

もう遅い馬車にはウンザリしていた。


スコペオンの屋敷は、宮殿であった。外観はカイノスの他の建物と同じ漆黒で、真菌に覆われた装飾のないのっぺりした印象だった。それが屋敷内に一歩踏み入れ、印象は天地ほどひっくり返る。


(城壁にダイヤモンドの門扉を造る一族だったな)


天井から吊るされた照明器具には透明な結晶が幾重にも連なり、灯りを受けて無数の光を散らしていた。


壁面には大きな鉱物がそのまま埋め込まれ、青、紫、緑、金――それぞれ異なる色の光を放っている。


床も、柱も、調度品も。


黒光りする滑らかな鉱物製の建物は万華鏡の中に入ったのかと思うほどに目が眩む。


「こりゃすごい」

アラだけでなく、普段植物にしか興味のないヴェルデまで惚けたように見入っている。


神官のエリオだけは、いつもの微笑みを絶やしていない。


長い晩餐卓には、すでに族長らが席についていた。


(彼らがスコペオンか)

検問署で会ったアダマスの特徴である、金の髪に、深く濃い血を思わせる瞳を持つ一族。


男性の衣装も宝飾をふんだんに施し華やかだが、女性達はそれの比ではなかった。


透けるほど薄い布地に、色とりどりの鉱物を縫い込んでいる。鉱物は宝飾品というより、もはや衣装そのものだった。


空いている席があるのを確認していると、ドアが開き、小柄な白髪の女性と、オレンジの髪の女性が現れた。


「孫の支度に手間取り、遅くなりました」

遅れたことを詫びる様子はない。


(ウパル?)


いつもとは様子がまるで違う。今日の彼女は恐ろしいほど美しいが、まるで人ではないようだ。


周りの女性が『宝石が人』になったようと表現するなら、彼女は『人が宝石』になったようだ。


(今、ウパルに温かい血は通っているのか)

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