第8話 改造人間、地下1階を行く。
「えらっしゃ~ッ!!」
なんとも気の抜ける掛け声だが、そこに込められたまりの気合は本物。
踏み込みつつ、メジャーリーガーもかくやという勢いで振られた金属製の棍棒。
それは、スケルトンの顔面に食い込んで――砕く。
ホームランよろしく、その頭蓋骨は飛んで行って……停車しているワゴン車のフロントガラスに直撃した。
「やった~! ゴブリンよりちょいかったいケド、問題なーし! あーし最強ッ!!」
それをやったまりは、周囲を気にしてからこちらを振り向いてガッツポーズした。
よし、索敵もおろそかにはしていないな……
「討伐部位は……」
「頭ん中のきれーな石ころ!」
「その通り」
スケルトンの割れた頭蓋骨に手を入れ、中身を取り出す。
紫色の、水晶に少し似た石が出てきた。
これは『魔石』と言って……一定以上の魔物から取れる宝石だ。
スケルトンなら大きさはビー玉くらいだが、ゴブリン・チャンピオンの宝玉と同じようなものだ。
ちなみに、1個4000円程度で取引される。
「15匹殺したから……これで約6万だな」
「美味しいすぎるし! あっはは!」
俺は言わずもがな改造人間。
まりも『身体強化』というシンプルだが強力なスキルを持っている。
そもそも、ちょっと鍛えただけの普通の人間ならゴブリン1匹にも苦戦する。
スケルトンの頭蓋骨を砕くのにも苦労するし、ゴブリン・チャンピオンなら超強敵だ。
チョロいのは、俺達が強いからでもある。
「ママも喜ぶし~!」
「……心配はしていないのか?」
そう聞くと、まりの顔は一瞬で曇る。
「ん~……ぶっちゃけ大反対されてて、1年かかって説得したし……今でもあぶないからやめろって言うよ」
「そりゃあ、まあ……ちゃんとした親ならそう言うだろうな?」
よかった、まりの母親はマトモな部類になるらしいな。
周囲の人間の話を聞くと、金目当てで子供に探索者をさせているいわゆる『毒親』ってのもいるとか。
世も末だ……バイトのピンハネをするレベルじゃないぞ。
生き死にがかかった仕事なのにな。
「くろーのパパママは? やっぱ心配された?」
「(この世界には)いないからな、わからん」
「えっ」
ああ、また暗い顔を……コイツは感受性が高すぎる。
「あの、ごめん! あーし……」
「気にするな、もうずっと前のことだ。別に嫌じゃない、お前ならな」
すまんなまり、約20日前まではいたんだけどな……説明が難しすぎるんだ。
「さあ進むぞ、この分なら今日中に地下1階を『踏破』できそうだ」
魔石を袋に集め、ザックに入れて歩き出す。
「あ、ま! 待って待って~!」
まりは慌てて立ち上がって追いかけてきた。
まるで大型犬だな、行動が。
・・☆・・
「くろー、『トーハ』ってなんだっけ」
「せめてそれくらいは勉強しとけ……」
魔物を警戒しつつ、駐車場を歩く。
地下2階と違って車っていう遮蔽物があるからな、気を付けねば。
「そのエリアの80%以上を探索するか、次の階への入口へ到達することだよ。そうしておくと次回から『近道』ができるんだ」
「あーね! そういえばそうだった! ガッコで習ったし!」
この世界の高校には『ダンジョン学』の授業があるらしいからな……しっかり覚えておけよ。
俺なんかまだ1月もこの世界にいないんだぞ。
「ここの場合は各階の『非常階段』からアクセスできるようになる。次から楽をするために頑張るぞ」
「がってん!」
ここのようなビル型のダンジョンは、普通なら一番下の階からしか入場できない。
非常階段を使って上に上がっても、『踏破』経験者しか中に通じる扉を開けることしかできないのだ。
俺が読んだ本では、ヘリを使って屋上から侵入しようとして……謎の超重力でサイコロ程度まで『圧縮』されたという事件があった。
ダンジョンの神がいるなら、そいつはズルを嫌っているらしい。
「……セーフゾーンだ。少し休憩して行こう」
「あいあーい!」
腕時計を確認すると、正午前だった。
ここらで休憩を挟んでおいたほうがいいな。
「そいえばさ、くろーっていくつなん?」
「今更聞くのか……25だよ」
地下2階と同じく、この階のセーフゾーンも事務所型だった。
空間が拡張されている関係上、営業してた当時よりも明らかに多い。
普通は1個だろうが、ここでは5個の事務所が確認されている。
そのうちの一つに入り、しっかりと施錠して食事を摂っていた。
「……ごめん、あーしもうちょい上だと思ってた」
母親が持たせてくれたという大きな握り飯を食いつつ、まりが申し訳なさそうに言った。
「よく言われるから気にするな」
老け顔というか、暗い顔というか……昔から年齢以下に見られたことがないからな。
髪に変な癖がついているのも原因だろうが……なんで改造されたのに髪質はそのままなんだよ。
「でもさ! カッコいくないってわけじゃないかんね! サッコもユッコも『エグい』って言ってたし!」
「それは誉め言葉なのか……?」
自分では十人並みの顔だとは……思うがな。
思いたいがな。
「むっさ褒めてるし! あとくろー超強いし! あのテッカテカの体もカッコいいし!」
「ゴキブリみたいに言わんでくれ……」
ああ、どうでもいいことかもしれんが……この世界には、俺が好きだった『虫をモチーフにした改造人間特撮』シリーズは存在していない。
というか、原作者にあたるあの大漫画家も存在しない。
だから、まりは俺の外見をコスプレめいたものとしては捉えていないようだ。
驚いたのが、逆に『アーマースーツを着た宇宙の刑事』シリーズは大人気で……この世界ではまさかの戦隊ものの位置づけになっている。
日曜朝8時から、60人目の宇宙の刑事が大活躍していた。
こういう世界観の差異は面白いので、これからもサブカル方面には触れたいものだ。
そういう意味では、小さな生きる理由が見つかったな。
「ねえねえ、あのカッコにはなんないの?」
「今の所は大丈夫だ。アレを使うと物凄く消耗するからな……温存したい」
「強いスキルはショーモー? もすんごいって言うしね。なんだっけ……ぱ、ぱっしぼ?」
うすうす気づいてはいたが、まりは勉強が苦手らしい。
「『パッシブスキル』はお前の『身体強化』だ。俺の方は『アクティブスキル』だな」
「そうそれ~!」
身体強化はパッシブ……つまり、ずっと発動しているスキルになる。
俺の方はその都度発動する……というか変身する必要があるからアクティブだな。
この世界における、スキルの種類だ。
「まあ気にするな、必要なら使う」
「むっちゃかっけえからまた見たいし~!」
テンションが高いとこ悪いが、変身するってことはそれなりに強い魔物がいるってことなんだがな?
そこらへんをわかってるか? コイツ……
・・☆・・
「ッはぁ!!」
いびつな剣を左手で弾き、右正拳でスケルトンの頭部を貫く。
スケルトンは、魔石と頭蓋骨をばら撒いて死んだ……死んだ?
骨格標本は初めから生きているようには見えないが……まあ、いい。
「ぬ」
倒れ込んだスケルトンの足元が光り、木箱が出現した。
これは……地下1階のものよりも大分大きいな。
「オンチョーヒンだし~!」
別のスケルトンを砕き殺したまりが、嬉しそうに走り寄ってくる。
『恩寵品』のドロップはダンジョンの奥へ行くほど確率が上がるとは言うが……
「索敵」
「だいじょぶ! 周辺にテキエイなし、だし!」
よし、周囲をしっかりと見れているな。
それでは……開けるか。
「ほぉお~!? 盾じゃん、盾! アガる~!」
中から出てきたのは、中盾ほどの大きさをした円形の盾だった。
バックラーとでも言うのかな?
「これは……いいな。まり、鑑定していいモノだったらお前が使え」
「うぇえ!? あーし!? いいの!?」
「いいに決まってるだろ。仲間の防御力が向上するんだからな」
まりは棍棒を両手持ちして戦っているが……盾があれば使った方がいいだろう。
改造ボディの俺とは違って、彼女は生身の人間だからな。
防御力はあるに越したことはない。
「くろーってやっぱ超優しいっしょ……探索者はカスみたいなヤツが多いのに……」
「後半は事実だ、俺も何回も襲われたからな。ダンジョン内では特に気を付けろよ」
前の世界でもチンピラはいたが、この世界だと『スキル』持ちのチンピラだ。
危険度は跳ね上がるだろう。
「マージ!? くろー大丈夫だったん!?」
「ああ、全員ボコボコにした」
「かっけ~!!」
正確には殺した、全員な。
いつかはまりにもその心構えを教えないといけないのかな……なんとも、殺伐とした世界だ。
ちなみに、探索者がダンジョンの『外』でスキルを使って人に危害を加えると……通常の人間よりもかなり罪が重くなる。
宿泊所備え付けの新聞で知ったが、スキルで1人殺害した男が驚くべき早さで死刑になっていた。
コンビニ強盗でも最低懲役20年からだとか。
丁度その場にいた瀬戸が教えてくれたが、裁判所や警察には真偽判定をできるスキル持ちがいて……嘘は絶対にバレるんだとか。
それで死刑執行が早いのかな、この世界。
「くろー、盾がいいモノだといいね!」
「そうだな……む、奥から魔物が来るぞ」
そう言うと、マリは表情を引き締めて棍棒を握った。
さて、そろそろ『踏破』できると思うが……先に魔物の掃除だな。
「多いし!?」
ぞろりと現れたスケルトン。
それぞれ武器を持ったそいつらは……停まっているバスの影から続々と出てくる。
10匹以上いるな……一気に終わらせるか!
「俺が突っ込む! まりは打ち漏らしを頼むぞ!」
「がってんだし~!」
まりから距離を取り、いつものようにポーズを取る。
「――着甲ッ!!」
一瞬で装甲を纏い、スケルトンの群れに走り込んだ。
「やっぱかっけ~!」
集中しろよ、まり!




