第7話 改造人間、本格的にダンジョン攻略を開始する。
「これからだが、水分はどうしたい?」
「んぐ? どうって?」
チンピラどもをダンジョンに還元してから2日後の土曜日。
朝8時に水分と合流し、ダンジョン近くのバーガーチェーン店『ノナルドナルド』で朝食をとっている。
……やはり聞き覚えのない店名だな、全国各地に展開しているらしいが。
朝から『トリプル照り焼きバーガー』を平らげている水分は、こっちを見て不思議そうにしている。
このバーガーの性質上仕方ないが、口元がタレまみれだ。
「入ってすぐの地下2階を周回しても金は稼げる。だが『上』に行きたいかどうか、だ」
ダンジョンは、奥へ行けば行くほど魔物は強くなる。
ガリーファロ拝山では、上の階ほど強力な魔物が増えていくんだ。
「んむ……実入りはいいケド、やっぱあーしは『上』行きたいかなって」
「それはどうしてだ?」
口元を拭き、コーラを一口飲んだ水分は真面目な顔をした。
「ダンジョン、難しくなるほど『オンチョーヒン』増えるんしょ? ポーション系とか」
「……やはり、妹の為か」
「うん。ママの稼ぎでも病院代は足りてるケド……薬はあーしにしか取れないから」
不治の病を治す『エリクサー』でなくても、ダンジョンから産出される『ポーション』と呼ばれる薬品類は高い効果を持つ。
純粋な体力回復に加えて、身体の抵抗力を上げる効果もあるそうだ。
勿論医師の許可がいるが、現在の医療技術を大きく凌駕する存在と言っても過言ではない。
失った手足を生やす程の効能を発揮させるものもあるらしい。
「よし、わかった。それでは『上』を目指そう」
「……あーしはいいけどさあ……」
水分はなんだか申し訳なさそうだ。
「ナモンバラさんに悪いよ。あーしも頑張るけど、弱いからメイワクかけるじゃん」
「気にするな。水分がその分育てば俺の実入りもよくなる」
数値的な解明はされていないが、ダンジョンで魔物を倒し続けたり滞在し続けると……いわゆる、『レベルアップ』とでも言うべき現象が起こる。
魔素が肉体に作用し、『スキル』が強力になったり身体能力が上がったりするんだ。
水分の場合は『身体強化』のスキルが上昇し……攻撃力と防御力が上がるってわけだな。
滞在よりも魔物の討伐の方が成長しやすく、魔物は強ければ強い程いいらしい。
まるでゲームだ、今更だが。
「うぬ~……あんさあ、ナモンバラさん」
「なんだ?」
水分は周囲を伺い、声を潜めた。
その頬はいつの間にかリンゴのように赤い。
「……ひょっとしてさ、あーしのこと好き?」
「人間的には好ましいと思っているが、そういう方面の好きじゃあない」
まあ、そう考えるよな。
水分は美少女だし、俺の態度は一見献身的だ。
自分の美貌という『武器』を熟知しているフシのある彼女なら、そういう結論に至ってもおかしくない。
「えぇえ~……なんそれ? どゆこと?」
改造人間として、せめて誰かの手助けがしたい……とは言えないからな。
すまんな、たぶんもう会えない別世界の弟、十朗よ。
お前を殺させてもらうぞ。
……今更だが、2人兄弟でなんで俺が九朗から始まるんだよ。
当時は何を考えてたんだ、親父。
「実はな、俺には弟が『いた』」
「……い、た?」
言い方に気付いた水分が、顔を青ざめさせる。
「ああ、大分前に病気で死んだ。水分の妹のように珍しい難病じゃないが……治療費が、高くてな」
「それって……」
砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲む。
「高校生にもならずに死んだよ、弟はな」
だって『向こう』の弟は今中学生だからな。
「だからな、水分の話が他人事とは思えないんだ。弟は(こっちの日本には)いないが、お前を手助けすると……何かこう、弟が喜ぶような気がするんだ」
「そ、そうなんだ……」
自分の妹のことに置き換えたのか、水分の目に涙が滲んだ。
「……うん、じゃあ『上』に行きたい、あーし」
その涙を拭って、こちらを見る水分。
「待っててねナモンバラさん。あーしも強くなってすぐ役に立つから……だから、しばらくオンブにダッコ、させて!」
「ああ、期待している」
彼女の表情はやる気に満ちていた。
助けるなら誰でもいい、というわけではない。
だがこの子なら、『手助け』しがいがある。
自分でも頑張ろうとしているし、その理由もあるからな。
「うん! あーしがんばっから!! ……あ」
残りのバーガーを平らげ、水分はごみをまとめながら……こっちを見た。
「あんさあ、あーしのことまりって呼んでいーよ? ぶっちゃけ、『ミクマリ』ってかーいくないからあんまスキじゃないんよ。友達にはみんな名前で呼んでもらってんの!」
……友達認定されてしまった。
まあ、別にいいが。
「わかった、そうさせてもらう。よろしくな、まり」
右手を差し出すと、水分……まりは、嬉しそうに強く握ってきた。
「すんご! ナモンバラさんの手って岩みてー! ……あ! じゃあそっちも『くろぽん』って呼んでもいい?」
「絶対に駄目だ」
「えぇえ~? かーいいのに……」
俺は改造人間であって、ゆるキャラではない。
かわいさはいらん。
「あ! じゃあじゃあ、『くろー』は?」
「……好きにしろ」
「やたッ!!」
ガッツポーズするほど嬉しいのか……
コイツ、今までさん付け以外の全然敬語使わんかったから別にいいや、もう。
そんなに年も離れてないし……
これもまりの人柄なんだろうが、全然腹も立たん。
すごいな、コミュ強のギャル。
・・☆・・
「うーし! 好調だし~!」
ゴブリンの頭部をフルスイングで砕き、嬉しそうに耳を削いでいるまり。
年頃の女子にしてはメンタルが強すぎるな……
これがいいのか悪いのかは、俺にはわからん。
「くろー! これで……何個だっけ?」
「30個目。それで総額9万だ」
「やた~!」
嬉しいのはわかるが、ゴブリンの耳を振り回すんじゃない。
食事を終え、ダンジョンに入場し……地下2階を突っ切った。
その過程で遭遇したゴブリンどもは、揃って俺達のお小遣いと化したわけだ。
残念ながら恩寵品は出ない。
そして、目の前には地下1階へ続くスロープがある。
「行くぞ、ここからはまた魔物も変わる……予習したか?」
「うん! ホネが増えるんしょ?」
「『スケルトン』な」
ここ、ガリーファロ拝山は『初級』と呼ばれるだけあってオーソドックスな魔物しか出ない。
そう、ゲーム作品のように……『ちょうどいい魔物が、ちょっとずつ強くなる』わけだ。
地下2階ではゴブリンと、稀にチャンピオン。
そして地下1階では……その出現テーブルに『スケルトン』が混じる。
「何体か殺したが、衝撃に弱いのはゴブリンと一緒だ。だが、持っている武器がゴブリンより『多少マシ』だということを覚えておけ」
「うん! ユダンせんし!」
気合は十分だな……
『スケルトン』は見たまんま、歩く骨格標本だ。
難易度の高いダンジョンでは鎧を着込んでいることもあるらしいが、こちらで出る対応は武器だけを持っている。
安物の剣、安物の槍、安物の棍棒といったところだ。
盾すら持っていない。
ゴブリン共のナイフと違ってリーチは長いので、まりはそこに気を付けさせればいい。
……俺?
そもそもこの改造された体は、変身せずともその程度の攻撃は通用しない。
服は破れるので被弾したくはないが。
「行くぞ」「あいあいさー!」
気炎を上げるまりの前に立ち、スロープに足を踏み出した。
「くろー! 車あんじゃん、車!」
「ダンジョンに取り込まれて『背景』扱いなんだろうさ。残念だがドアは開かんぞ」
地下1階に足を踏み入れてすぐ、まばらに駐車する車が目に入った。
ここがダンジョン化したのは朝方だったらしく、それほど多くはない。
従業員のものだろう。
「建物がダンジョンになると、中にいた人は放り出される……んだよね?」
「らしいな、見たことはないが随分優しい仕様だ」
物理的に放り出されるのではなく、ふとダンジョンの範囲外に立っているのに気付くのだという。
いくつもの書籍でそうなっていたし、間違いはないだろうが。
――かた、かたかた、かたた。
「おいでなすった……前方! ワゴン車の影!」
「がってんだしー!」
建築会社らしい名が印字されたワゴン車。
その後ろから、骨格標本が歩いてくる。
持っている武器は剣と槍で……数は、4匹!
「そこで見ていろ、スケルトンの動きや速度をしっかりな」
「がんば! くろー!」
まりの激励に背中を押されながら、歩く。
ある一定まで距離が近付くと、スケルトンは一斉に走り出した。
筋肉も腱もないのに、どうやって自立してるんだこいつら。
「ふんッ!!」
地面……駐車する際の車止めを蹴って破壊する。
散弾めいて飛んだコンクリート片が、先頭のスケルトンに直撃。
頭蓋骨を砕かれたソイツは、電池が切れたように倒れ込む。
「見たな! こいつらの弱点は頭、それに――」
踏み込む。
俺に向かってそこそこの勢いで槍を突きこむスケルトン。
それを躱しつつ――左右の正拳を連打。
「っはぁ!!」
両肩と、両足の大腿骨を砕き散らす。
スケルトンが地面に倒れ込み、ジタバタともがいている。
「こうしてやれば何もできん! 頭が狙えない時はまず腕を壊せ!」
言いつつ、新手の剣持ちに向かって走り出す俺だった。
「マッチくらい簡単にへし折るじゃん……やっぱくろーかっけ~! えっぐ!」
本人は聞こえてないつもりだろうが、しっかり聞こえてるぞ。
なんだか背中がこそばゆいな。




