第6話 改造人間、チンピラを返り討ちにする。
「『恩寵品』ですか。少々お待ちを」
現在時刻、午後8時25分。
地下2階を踏破した俺達は、その足でダンジョンを脱出した。
行きにだいぶ倒していたし、後から来た連中の間引きもあって……帰り道はほとんどゴブリンと遭遇することはなかった。
『間引き』された魔物は、じわじわと数を増やす。
だがそのペースは非常に緩やかで、こうして定期的な『間引き』をすれば脅威ではない。
「ナモンバラさんのお陰でむっちゃ儲かったし! やったし!」
「声が大きいぞ」
本日の戦果。
ゴブリンの耳、36個。
そして『恩寵品』のナイフが一振り。
ゴブリンだけで10万8千円の儲けだ。
『探索者』が後を立たない理由もわかるなあ。
『特区庁』のカウンターに面した椅子に座り、周囲を素早く確認。
……聞かれたな。
何人かがこちらを注視している。
「儲かっただのなんだのは決して口に出すな。『恩寵品』が出たら特にな」
「あう、ご、ごめん……あーし、嬉しくて。パーティで潜った時よりも実入り、多いし」
ヘルメットを抱え、しゅんとする水分。
「……次から気を付ければいいさ。嬉しいのもわかる」
そう言えば、彼女はぱあっと表情を明るくした。
「ナモンバラさん、マジ優しいし……!」
「俺はお前が素直過ぎて心配になるよ」
変な男にひっかかりそうな子だな……いくら恩人とはいえ、俺のことを信用しすぎだとは思う。
外ならいいが……ダンジョンだとな。
これからもちょいちょい注意しておく必要があるな。
「お待たせしました、こちらが鑑定書です」
待つこと30分少々。
戸河内さんが紙とナイフを持って帰ってきた。
鑑定書には、ナイフについて色々と書かれている。
なになに……『斬撃強化』の付与付きか。
ダンジョンで手に入る『恩寵品』には様々な種類がある。
主に武器や防具の形を取っているが……それらには人間と同じような『スキル』が必ず一つは付属している。
科学で解明できない『スキル』が。
今回のものは、純粋に切れ味が上がる効果のようだ。
「買取で頼む、上がりは半分ずつで」
「承りました」
貴重な『恩寵品』だとオークションにかけられることもあるが、『初級』ダンジョンのそれも1階となるとそんなことはない。
「(うっは、10万だって! 10万!)」
声を落とした水分が、俺の肩をポンポン叩いている。
鑑定書に書かれている買い取り額を見てだ。
ここに来るまでに売却の方針にしておいたからな。
水分は刃物を使うのは苦手だと言うし、俺の力では『この程度』の恩寵品では耐えきれずに壊れてしまう。
売却一択だ。
「では、いつものように……南門原さんは現金で」
「ああ、頼む」
3時過ぎから潜って、実入りが……1人、10万4千円か。
なんとも……ダンジョン様様、だな。
今月は困窮せずに済みそうだ。
・・☆・・
「じゃ、2日後にまたよろしく~!」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「あいあーい!!」
ヘルメットと荷物を小脇に抱え、水分が走り去っていく。
ここから駅までは見晴らしもいいし、街灯が明るいから問題はないだろう。
――では、こっちも動くか。
水分が見えなくなると、踵を返す。
再び、ダンジョンの方向へ。
……いる、な。
俺が動くのに合わせ、足音が聞こえてくる。
忍び足のつもりだろうが……俺の改造された聴覚の前では太鼓を叩いているようなものだ。
数は……ふむ、6人。
結構な大所帯だな。
そう考えつつ、若干の速足で道を急ぐ。
さっき出てきたダンジョンの入口が、すぐにまた姿を現した。
「――お前! おいそこのお前だよ!」
地下1階に入ってすぐ、後ろから声をかけられた。
振り向くと、10代後半らしき男たちがこちらを見ている。
数はやはり6人……全員、金属バットに酷似した棍棒で武装し、プロテクターを着込んでいる。
その中でリーダーらしき赤髪の男がニヤつきながら俺に武器を向けていた。
「……なんだ? どこかで会ったか?」
わかっているが、一応聞く。
間違いない、俺が『現金』を受け取っているのを見ていた連中だろう。
ダンジョン内なら暴行も殺人も見逃される……潜らずに、『成果』だけをかすめ取るつもりだろうな。
「お兄さんさあ、今日随分儲けたみたいじゃんか~? 俺ら、ちょっとお小遣い欲しいなあって」
6人がゆるく広がりつつある。
暴力に慣れた連中だな……『人間相手』の。
そのうちの1人……バットを持っている反対側の手に何か……石の塊が浮いている。
あいつのスキルは石か土の『超能力』だな。
「俺が汗水流して稼いだんだが……嫌だと言ったら?」
リーダーのいやらしい笑みが濃くなる。
「死体になりたくねえっしょ? 俺達優しいから現金だけでいいよ~?」
俺は現金しか持てない人間なんだがな……そして、絶対に金だけでは済まないって顔だ。
「ふむ、それならしょうがないな」
コートの内側に右手を入れて……内ポケットの中身を掴む。
「――釣りはいらんぞ」
「……あべ、ぎゃ、が?」
超高速で投げつけた5円玉が、『超能力』使いらしき金髪の右目を貫通して後頭部から抜けた。
魔物でも人間でも……遠距離攻撃持ちは初手で潰すに限る。
「……は?」「なんっ」「ケン!?」「お、おまっ」
金髪が倒れ込むのとほぼ同時に、左手を腰に引き付けて――右手で虚空に『α』を描く!
「――着甲ッ!!」
虚空が輝き、即座に体全体を装甲が覆う。
発声と、決まった身体操作によって『変身』を実行する……
これは俺の趣味でやっているのではなく、日常生活で暴発しないための『安全装置』だ。
悪の秘密結社でも、空気は読んでくれるらしい。
「おま、お前! お前ェエ!!」
リーダーがいち早く気を取り直し、棍棒を振り上げて走り出す。
その棍棒は薄く発光し、何かの『スキル』が発生しているようだ。
そんな未知数な能力に付き合う気は――ない!
地面を踏み切って、後方に跳ぶ。
空中で右手を開き、掌をソイツに向ける。
『――エア・バレットッ!!』
「えばッ!?!?!?」
これも俺の趣味ではなく、発声によって起動した内蔵兵器……圧縮した空気の弾丸が掌の中央から発射され――リーダーの顔面を陥没させた。
棍棒に宿っていた光は消え、手からこぼれて地面に大きな陥没痕をつける。
……衝撃を強化する『スキル』か? まあ、今となっては関係ないが。
着地。
そのまま、右足で――地面を思い切り蹴り上げる。
強化された10トン以上の衝撃力が、地面を爆発させる。
舞い上がったコンクリート片が、ショットガンの弾丸めいて残りの連中に襲い掛かった。
ダンジョン内の建造物は時間経過で修復されるから、ためらわない。
「ぎば!?」「っぎゅ!?」「いづ!?」「はひゃあ!?」
残った4人のうち、2人は腹と胸から血の花を咲かせて吹き飛ぶ。
1人は片腕を吹き飛ばされ、最後の1人は幸運にも無傷。
『っふ!』
地面を蹴って、五体満足な奴に突っ込む。
飛び掛かった勢いのまま、右膝を――突き出す!
『ヴォルト・キャノンッ!!』
右膝から飛び出した棘付きの装甲が、目を見開いたままの男の顔面に直撃。
インパクトの瞬間に高圧電流が叩きこまれ、激突の衝撃で砕けた顔面を蹂躙。
そいつの首から上は綺麗に吹き飛んだ。
『これは……威力過多、だな』
首を失った男を飛び越し、着地。
「まぁ! まで、待って! だれにもいわな――」
『エア・バレット!』
片腕が千切れた男が叫ぶ口に、空気の弾丸が命中。
顎を外れさせ、喉を貫通する。
男は、目を見開いたまま後頭部から地面に倒れ込んだ。
腹をやった2人は倒れて痙攣しているが……まだリーダーは生きてるようだ。
しぶといな、ひょっとしたら『スキル』が複数あるのかもしれない。
自信の理由はそれだったか。
「ぐぶ……っひ、た、たすけて……!」
立ち上がったリーダーの片目は潰れていて、鼻も折れている。
……防御力を上げる系のスキルか。
ゴブリンなら頭が弾けるくらいの威力があるからな、『エア・バレット』は。
『すまんが、お前でもう4グループ目なんだ。命乞いは聞き飽きたよ』
距離を取って、右手を腰だめに。
意識を集中……体の内部からコンプレッサーの作動音が高く響く。
「やめ――」
『――エア・ストライクッ!!』
正拳突きの形で放った拳表面の装甲が展開。
『バレット』よりもさらに強力に圧縮された空気の弾丸が――リーダーの鼻を完全に陥没させ、割れた後頭部から盛大に脳をばら撒く。
どちゃ、と倒れ込んだリーダーは、もう息をしていない。
残りの全員の呼吸音が消えたことを確認して……変身を解除する。
「……何時間か、セーフゾーンで休憩して帰るか」
ダンジョンは、魔物の死体も……人間の死体も、半日もあれば等しく分解する。
『犯行現場』を見られていなければ、完全犯罪の成立だ。
そもそもダンジョン内に日本国憲法は『ほぼ』適応されないが。
「着甲はいらなかったかもな……」
カロリーバーを齧り、移動を開始……する前に、原形をとどめている死体たちの懐を探る。
っち、全員スマホしか持ってない……ウェブ決済が発達しすぎるのも困りものだな。
俺から金を奪ってすぐ帰るつもりだったんだろう。
食料すら持っていない。
棍棒も……握って地面を殴ると両方砕けた。
安物だな……
この世界に来て、ダンジョンに潜るようになって……かなりの頻度で『人間』にも襲われている。
魔物を倒すより、魔物を倒したヤツを殺して戦利品を奪う方がいい……そう考える連中は、驚くほど多い。
マトモな連中はそれに対応するために複数人でパーティを組んでいる側面もある、らしい。
これは瀬戸から聞いた受け売りだがな。
ソロの俺は、よほど美味しそうな『獲物』に見えたようだ。
改造手術の影響か、それとも元々精神性がアレだったのか。
俺に殺人に対する忌避感情は全くないし、トラウマにもなっていない。
魔物を殺すのと同じくらいの感情しか湧かないのだ。
まあ、積極的に人間を殺して回ろうとは思っちゃいないが……
「水分がいなくてよかった……刺激が強すぎる」
新しいカロリーバーを齧り、セーフゾーンに向かって歩き出した。




