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第5話 改造人間、パーティを組む。

「はい、リンクが完了しました。これでパーティとして登録されます」


 『特区庁』の支所。

顔なじみの戸河内さんが、PCを操作している。


「それにしても……南門原さんとパーティですか」


「うん! そうなんよミドちゃん!」


 こちらに探索者カードを手渡しながら言う戸河内さんに、水分が言う。


「私の名前はみどりです、ミドちゃんではありませんよ」


「かーいいからいいじゃん~?」


「駄目です」


 随分と気安いなコイツ……だが、嫌われているような雰囲気はない。

これがギャルのコミュ力とでも言うべきか。

というか戸河内さん、下の名前はみどりだったんだ……


「では、報酬はキッチリ半分、南門原さんは現金で水分さんは振り込みですね」


「はーい!」


「ああ、頼む」


 こうしてカードをリンクさせておけば、報酬は自動的にあらかじめ決めた規定額通りに分割される。

水分は渋っていたが、俺は生きていくだけならさほど金はかからんからな……完全に半々にさせてもらった。


 宿泊所の料金が一月で5万円……これは、連泊すると割引されてこうなる。

後は食費と……服を買うくらいか。

なので、俺は一月最低10万円ほどを稼げばいいわけだ。

これ以上は現状望めないからな。

戸籍がない俺は、そもそも定住ができない。

世知辛い限りだ。


「では、お気をつけて」


「ああ」「いてきま~!」


 水分と買い物をした翌日、午後3時ごろに合流した俺達は……ダンジョンに向かって歩き出した。



・・☆・・



 『ガリーファロ拝山』

地下2階、地上3階のダンジョンだ。

かつてはショッピング施設だったらしい……比較的『新しい』ダンジョンだ。


 この世界では30年前に始まったダンジョン化だが、今でも進行している。

年に1つか2つ、新たな建造物がダンジョンになることがあるのだ。

科学的に解明されてはいないが……『ダンジョンを完全攻略』すると、新しいダンジョンが生まれるらしい。

ダンジョンの最奥には『コア』と呼称される宝珠のようなものがあり、これを砕くとそのダンジョンは『死に』、通常の建造物へと戻る。

これを、『完全攻略』と呼び……それをすることは、ダンジョン内におけるほぼ唯一の『犯罪』となっている。


 何度も言うがダンジョンは儲かる……とても。

魔物の素材も、得られる物品もだ。

だから、こういう街中のアクセスがいいダンジョンは『間引き』のみで『完全攻略』は禁止されている。


 だが、『完全攻略』が推奨されるダンジョンもある。

純粋にアクセスが悪かったり、あまりに小規模で実入りが少ないものがそれに該当する。

そういったものの場合は、日本では自衛隊の特殊部隊、海外では軍隊の特化した連中が速攻で『完全攻略』をすることになっている。

我々探索者はどちらにせよ禁止だが……緊急避難的な意味で『依頼』されることもあるそうだ。

まあ、それは探索者の中でも上澄みの、『戦闘力と人格を両立した』連中への依頼なので……俺には関係なかろう。

そもそも戸籍がないし。


「そう固くなるな、まだ入り口だ」


「う、うん!」


 俺達は、地下2階の入口に立っている。

外から長いスロープを使って入場した……このダンジョンの入口に。


 俺はいつも通りコートにシャツとジーンズ、それに手袋とブーツ。

水分は初めて出会った時のように、ハーフタイプのヘルメットにプロテクター、それに棍棒だ。

……あ、緊急用の物資を入れたザックも背負っている。

お互いにな。


「わかっているだろうが、ここにはゴブリンとごくごく稀にチャンピオンしか出ない。見晴らしもいいから気を付けて進めばいい」


「うん!」


 俺は、この世界に来てからの20日で地下1階までは進んだことがある。

この広大な地下駐車場を最奥までまっすぐ行くと、地下1階へつながるスロープがあるのだ。

『初級』ダンジョンだけあって……特に妙な所はない。

『上級』ダンジョンは迷路やワープゾーンなんてものあるようだが、ここは大丈夫だ。


 水分はまだ地下2階の途中までだそうだ。

かなり最近探索者になったんだな。

ここが初めてのダンジョンらしいし……まあ、それは俺もだが。


「っていうかナモンバラさん、今日も武器ないんだね」


「金がないからな」


 正確に言えば、改造された俺の力が強すぎて……武器が耐えられない。

初日には『特区庁』が貸し出している初心者向けの棍棒を使ったが、1匹目のゴブリンの頭と一緒に砕けた。

俺の力に耐えられるような武器は、二束三文の安物では務まらないらしい。


「俺を参考にするなよ、水分。お前は武器でしっかり戦え」


「分かってるよ……ゴブリンって普通は素手で殺せるようなモンスじゃないもん……」


 よくわかっているようだな。

手元のアナログ時計を確認すると、時刻は午後3時40分だ。


「とにかく結成初日だ。今日は地下1階の手前まで行こうか」


「わかった! あーし、足手まといになんないように頑張るからね!」


 やる気満々な様子で棍棒を握りしめる水分が、少しおかしかった。



・・☆・・



「右2匹は任せろ!」「がーってん!!」


 アスファルトを蹴り、飛ぶ。


「ゲギャ――」「――でいりゃぁッ!!」


 1足で間合いを詰めた俺の右足が、こちらを見て目を見開くゴブリンの胸に直撃。

骨を砕き、胸部を陥没させ――吹き飛ばす。


「ギギィギギ!!」


 横にいたゴブリンが、仲間の仇を取ろうと俺にナイフを振るう。


「ふんッ!」


 右裏拳が炸裂したゴブリンの腕は、ナイフ諸共粉々になった。


「せぇえいッ!!」「ゴボッ!?!?」


 続く左の貫き手。

喉に直撃したそれは、首を貫通して最終的に千切り飛ばした。

……こんなもんか。


「水分――」


「――おらっしゃぁああい!!」


 水分の方を振り向くと、丁度彼女が棍棒のフルスイングをゴブリンの顔に炸裂させたところだった。

歯は折れ飛び、回転した首は真後ろに向く――即死だな。

『身体強化』スキルをいかんなく発揮している。

元々の運動神経もかなり良さそうだ。

なにより、暴力に対する忌避感情が一切ない。

一般社会ではヤバいが、ダンジョンなら彼女は逸材だ。


「っしゃあ! 耳耳~!」


 おっと、俺も回収しなければ。

ダンジョンの魔物は、ダンジョン内で死んだ場合……半日ほどで溶けて消える。

なんともフィクションじみているが、臭いや汚れに悩まされないのは有難い。


「ナモンバラさん! 袋はあーしが持つかんね!」


「……ああ、頼むよ」


 荷物持ちでもなんでもする! と言っただけあって、そういうことになった。

俺の方が力が上なんだが……まあ、やらせてやろうか。

あまりに多くなるようなら俺が担ぐがな。



「ふい~! むっちゃ調子いいし~!」


 『セーフゾーン』のソファに座り、水分が息を吐く。

元の駐車場がどうだったか知らんが、現在の『ガリーファロ拝山』の地下ではこの広大な駐車場に事務所のようなセーフゾーンが複数存在する。

何故かは解明されていないが、ともかく魔物どもは絶対にここへ入れない。

もっと大規模なダンジョンでは、こういったセーフゾーンに滞在しながら奥へ奥へと進むことになる。


「ナモンバラさん! 耳がもう20個もあるよ! 6万だよ、6万~!」


「やはり2人だと調子がいいな」


 水分の戦闘力は決して低くない。

助けた時のように囲まれさえしなければ、ゴブリンの3匹程度なら正面から問題なく処理できる。

俺は、それ以上の数が彼女に殺到しないように気を付けつつ戦うだけでよかった。

それ以外でも……目が2つ増えたから純粋に索敵範囲も、警戒範囲も広くなった。

いくら見晴らしがいいとはいえ、柱の影からゴブリンが飛び出すこともあるからな。


「5時前、か」


 それでこのペースなら問題ないだろう。


「終電までいてもいいよ、あーし!」


「無理して死んだらつまらんぞ、とにかく安全にだ」


 ペットボトルの水を煽る。

中身は濃い目に作ったスポドリだ。

カロリーを補給しておかんとな。


「つーかさ、ナモンバラさん全然疲れてないね。あーしの倍以上のゴブリン殺してんのに」


「鍛えているし……慣れてる」


 『着甲』をせず、体に備わっている『武器』も使用しない場合……俺の燃費は凄くいい。

ゴブリン程度なら、一晩中殺し続けても大丈夫だろう。


「――お、先客か」


 ドアが開き、年かさの男が顔を覗かせる。

鍵をかけておけば外から誰かが入ってくることはないが、今は少しだけ休憩したかったから開けておいた。

水分に目配せをし、立ち上がる。


「今出るところだ、気にしないでくれ」


「おう、わかった」


 先に水分を行かせる……相手は男ばかりの4人組だが、特におかしな様子はない。


「いいねえ、恋人パーティってやつか?」


「ははは、姪っ子だよ。俺はお目付け役の保護者だ」


 男の軽口に適当に答えつつ、連中の間を抜ける……よし、大丈夫だな。

攻撃される様子はない。


「おいちゃんたちも頑張ってね~!」


 水分に激励され、男たちは少し恥ずかしそうに微笑み……セーフゾーンへ入って行った。


「すまんな水分。次からは鍵を閉めよう」


「ん~? 別にいいケド、ブヨージンだからやっぱりそうしよっか」


 万が一俺を襲うなら金目的だろうが、水分はヘルメットとプロテクター越しでもいい体をした美少女だってわかるからな。

しかし、これは盲点だった……次から気を付けよう。



「――おうりゃァッ!!」「ゲビュ!?!?」


 蹴り飛ばした腹部が破裂し、内臓を撒き散らしたゴブリンが壁に激突……そのまま動かなくなった。


「ソレで最後! やーった、やったねナモンバラさん!」


 水分が小刻みに跳ねて喜んでいる。

今しがたゴブリンを叩きつけた壁の上部には、大きな矢印と看板。


 それには『地下1階→』と書かれていた。

現在時刻は6時45分……こんなもんか。

とりあえず、これで地下2階は踏破したな。

ほぼ真っ直ぐ歩いてきたが……基本的にこの階は何もない空間が続くらしいのでこれでいい。


「あー! 見て見て! これ見て!!」


 興奮する水分の目の前……殴り殺したゴブリンの死体の横で、何かが光っている。

その光は、一瞬爆発するように激しく発光し……それが収まった時には、小型段ボールほどの大きさの木箱が置かれていた。

魔物を倒し続けていると稀にある、『アイテムポップ』という現象だ。

あの木箱の中には、『恩寵品』と呼ばれるアイテムが入っている。

まるでゲームだな……こうして実際に見るのは初めてだ。


「俺が開けるぞ」


 水分に断って、木箱の蓋を開ける。

罠があっても俺なら基本的に無傷だからな。


「……ナイフか~、ドンキがよかったな、あーし」


 中身は綺麗なサバイバルナイフのような武器だった。

よし、これで今日の稼ぎは期待できるぞ。

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― 新着の感想 ―
投げナイフなら腕力に耐えられそうだけど、 棒手裏剣と同じで練習せんとまず刺さらないからなー
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