第4話 改造人間、ギャルの事情を聞く。
「うま……うま……」
水分が豪快に口を開け、フォークで巻いたカルボナーラを頬張っている。
高校生の食欲、やっぱり凄いな……
「んぐぐ……奢ってくれてあんがとね、ナモンバラさん」
「……安いもんだ、案内料だよ」
全国的に展開しているらしい、低価格イタリア料理店『ザイツェリア』……微妙に聞き覚えがあるような、ないような。
ともかく……さっきまで買い物していた一つ上のフロアにある、フードコートに俺達はいる。
「いくらでも食え食え、俺も食うから」
「マジで!? んじゃ、チキンステーキも……」
タッチパネルを操作し、水分が笑っている。
「追加でディアボラピザとツインハンバーグを頼んでくれ」
「ういうい~! ナモンバラさんもめっちゃ食うね! 『探索者』はそうでなくっちゃだね~」
ソーセージを3本、ラム串を4本、それからカルボナーラ大盛りを食ったコイツも中々だとは思うがな。
俺は食えば食うだけ『戦闘』に回せるエネルギーが増えるからな。
ダンジョンに潜る時はいつも、懐に超高カロリーのエナジーバーも常備している。
「そういえばさ、ナモンバラさんってどこ出身なん? こっちの人じゃないんだよね?」
「……ああ、『五箇』の北あたりだな」
前の日本での出身地……広島県は、こちらではそう呼ばれている。
面積としては、若干山口県も食い込んでいる立地だ。
「マジで!? 軽く500キロくらい離れてんじゃん! なんでここにいんのさ?」
ちなみに、俺達がいる県の名だが……『豊栄府』と呼ばれている。
大阪府と和歌山県北半分が合体したような形で、南北にえらく長い。
歴史書を軽く読んで知ったが、こっちの日本では豊臣政権が結構長く続いていた。
だから、ここは別名『第二帝都』とも呼ばれているんだ。
俺の知っている江戸時代の中期くらいに、徳川幕府が開かれている……こっちの豊臣家は強かったんだな。
機会があれば歴史書をもっとじっくり読みたい。
『前』の世界では歴史小説が好きだったからな、こっちならかなり楽しめそうだ。
「色々あってな、探索者になるならここの方が立地がいいし」
「たしかに! 小さいダンジョンがめっちゃあって取り合いも少ないしね!」
そう言う水分も、今更だが関西弁じゃないな。
「そっちも別の出身だろう?」
「うん、あーし中学まで四国にいたかんね!」
「……何? すまん、悪いことを聞いた」
壊滅した四国出身者か……
「いーのいーの、家族はみんな無事だしさ! 死んだのオヤジだけだし!」
「無事じゃないだろう……?」
そんな、昨日の晩飯みたいに軽く喋ることでもないだろ……
「いやいやいや……アイツ、借金まみれのDVクソ野郎だったかんね~。むしろ借金はソーゾクホーキしたし、トクベツ保険金も入ったからプラスだし!」
「そう、か……」
特別保険金……スタンピードで死んだ一般人に出されるやつだな。
色々と言いたいこともあるが、本人は気にしている様子がないからまあ、いいか。
「それで……母子家庭だからダンジョンに? ダンジョン関連の死亡保証は手厚いはずだが……」
『探索者』として死んだのなら雀の涙程度の金額だが、不可避のスタンピードで死んだ一般人なんだからな。
ざっと調べたが……こっちの日本はダンジョンのお陰で景気がすこぶるよく、生活保護もぐんと受けやすいし金額も多いんだが。
戸籍のない俺には関係ないことだが。
切ない。
「うんとね……」
メロンソーダを飲み干し、水分は少し顔を暗くする。
「ママは元気なんだけど、あーし……小学生の妹いてさあ。んで、その子ってマソテキオーなんたらかんたらってビョーキなんよね」
「……『魔素適応不随症候群』か」
「それそれ!」
この世界には、『魔素』と呼ばれる不可思議なエネルギーがある。
ダンジョンが出現してから急に発生したそれは、人体に特に害はない。
スキルを使用する際に消耗したりする、いわばゲームの『マジックポイント』に近い。
俺はこの世界の人間ではないし、なんなら純粋な人間でもないから関係ないが。
「保険きーてもさあ、結構薬とか高いんだわ~」
人体に特に害はない魔素だが……1000万人に1人程度の割合で発症するのが『魔素適応不随症候群』だ。
普通なら大丈夫なはずの魔素へのアレルギーのようなもので……即死はしないが、治癒もしない。
最先端の医学でも対症療法しか存在しないが、それを止めれば最悪の場合……多臓器不全を起こしてショック死する。
この世界ならではの難病の一つだ。
「成程な……それで、ソロで潜ってたのか」
『探索者』は最底辺の職業だし危険だが、実入りだけはすごくいいからな。
政府は探索者を増やしたいから、ダンジョン由来の取得物は買取時に税金を引かれるだけで……確定申告の対象にもならない。
「違うし!」
がりり、と氷を噛む水分。
俺と会ってから初めて、その顔は怒っていた。
「おんなじガッコの連中と、知り合いの大学生とでパーティ組んでたんだけどさ……ちょい前にカイサンしたんよ」
「解散?」
スマホもネットも使えないからよくわからんが、この世界だと学生のクラブ活動くらいのノリでダンジョンに潜ってるのか?
失敗したら死ぬんだが……闇バイトどころの危険度じゃないぞ?
「あーしはさ、まな……妹の治療費を稼ぎたかったワケ。だからさ、結構気合の入ったパーティだって聞いてたから参加したんだけどさぁ……」
配膳ロボの持って来た追加注文を取りつつ、水分はイラついている。
「どいつもこいつもさあ、軽く稼いでヤることしか考えてないサルとバカ女の集まりだったんよ! セーフゾーンをラブホ代わりにするようなキッショい連中!」
「……そう、か」
前の日本だとSNSで炎上するような連中が……ダンジョンに潜ってるってワケか?
世も末だな……
「あーしはガッツリ稼いでママに楽させて……いつか『エリクサー』を見つけるんだって言ったらさ、むっちゃ笑われてさ……その場でリーダーの金玉蹴り上げて抜けたんよ、丁度口説かれて腹立ってたし」
『エリクサー』
存在自体はごくわずかだが確認されている、万病を癒し、寿命さえ伸ばすポーションだ。
ダンジョンから得られる様々な物品には、そういった『恩寵品』というマジックアイテムも存在する。
過去には1本数十億ドルで取引されていた記録もあった。
「『魔素適応不随症候群』は根治治療不可の疾患だ……だから、エリクサーか」
「うん! このままトーヤクチリョーでも50年くらいは生きれるって聞いたけど……でもさ、やっぱり治してやりたいじゃん。まな、外にもロクに出れないからさ……小学校も家でタブレット参加だし」
ヒトは見た目によらない……なんて言うのは失礼だが、なんともしっかりした子だ。
俺はてっきり遊ぶ金欲しさに探索者をやってるものとばかり……
見た目で判断しちゃ、駄目だな。
「……いいお姉ちゃんだな、水分」
「うぇえ~? だ、だってアネキが妹助けるのなんて当たり前っしょ?」
俺も、弟が『いた』
いや、今でも元気ではあるんだろうが帰れる気がしないからな……今生の別れみたいなもんだ。
少し、思い出してしまった。
「――あれ、まりじゃん!」
フードコートの入口から声がして、複数の足音が寄ってくる。
そちらに視線を向けると、2人の女が歩いてきた。
両方制服姿で……うん、ジャンル的には水分と一緒だな。
チャラチャラしているというか、まあ、ギャルだ。
「ガッコ終わったら即ダッシュで消えたからなんだろって思ってたケド……カレシ~?」
金髪で巻髪の女子高生がまず話しかけて来た。
俺に向けられる視線には、値踏みのような空気がある。
「違うよユッコ! 探索者仲間! 昨日死にかけてるとこ助けてもらったんよ~!」
「マジで!? 肩の包帯ってダンジョンの傷だったん……!? 大丈夫なん!?」
もう1人の女子高生も慌てて寄ってきた。
こっちは黒髪ショートカットだが……ちらりと見えた両耳には、ゴツいリング型のピアスがジャラついている。
髪の内側にも赤色が見えた。
インカラー? だったか。
「余裕余裕~! このヒトがさあ、むっちゃ……むうっちゃ強くってさあ! ゴブリンとチャンピオンを素手で粉々にしたんよ!」
「マジで!? 素手!? すっげ~!」
「このオニーサン、ひょっとして強スキル持ち!?」
あっという間に騒がしくなってしまった。
元より言うつもりはないが、こんなフードコートで喋れるわけないだろ。
スキルは持っていないけども。
盛り上がるJK3人を見つつ、コーラを飲み込んだ。
・・☆・・
「あ、そういやさあ。3年のハラダ先輩知ってるっしょ?」
当然のように相席になった水分の友人……ユッコが言った。
俺は積極的に参加せず、飯を食いながら何か聞かれたら答えるようにしている。
「あー、あのヤリモクのサル野郎がどしたって?」
「ぶはは! まり直球すぎだって! まあそうだけど!」
黒髪のピアス女……サッコが爆笑している。
この子は俺にいきなり両耳ピアスを全部見せてきて『どっすか?』っと聞いてきた。
『銀色のトゲトゲが特に格好いいな』と言ったら爆笑していたが。
ツボがわからん……
「なんかさ、下半身の病院に担ぎ込まれたんだって! セイビョーでももらったんかな……ウケる!」
「それ、あーしが金玉蹴り上げてやったからじゃね?」
「ぎゃははは! マージ!? えっぐゥ! あはははは!!」
水分の返答に、サッコが腹を抱えて爆笑している。
そうか、さっき言ってたヤリサーメンバーみたいな探索者はソイツか……
「ちゃんとダンジョンの中でやったからムザイだし、あーし。金玉両方死んでたらいんだけどな~? だってさ、いきなりセーフゾーンでヤろうとしてきたんだよ!? ヤバくない!?」
「うげ~、マジでサルじゃん……パーティ抜けて正解だったね」
この世界、基本的にダンジョン内で起こる全ての事象は民事も警察も不介入である。
なかなかに世紀末な設定だが、一応探索者は望んでなる職業だから極端な自己責任だ。
勿論、ダンジョンの外では厳しく取り締まられてはいる。
「あー、それでか。なんかさ、放課後3組のツキモトがアンタ探してたの」
ユッコが面倒くさそうにこぼした。
「あーね、アイツさあ、ダンジョンであーしがあのサルに口説かれてた時むっちゃ怖い顔でニラんでたもん……」
「付き合ってんならサルの首輪しっかり付けといてほしいよね~」
「セフレじゃね? あのサル先輩そういう話よく聞くしさ」
なんともコメントに困る……まあ、聞かれないかぎり何も言わんが。
俺はひたすらこのツインハンバーグを胃袋に収めるだけだ。
夜にはもう一度ダンジョンに行くつもりだからな。
・・☆・・
「ね、ね、ナモンバラさん。あーしも一緒にダンジョン潜ってもいい?」
「……家に帰らなくていいのか?」
騒がしい食事会が終わり、ユッコとサッコが帰り……買い物袋を抱えて帰路につこうとしたら、水分がそう言ってきた。
「今日、妹ケンサ入院なんよ。ママも付き添いで泊まってるし……さっき今日も潜るって言ってたじゃん? 荷物持ちでもなんでもやるからさ、あーし!」
……随分懐かれたもんだな。
普通なら何か魂胆でもあるかと思う所だが……この子の場合は『金』と『エリクサー』だ。
さっきの友達との会話でも妹の話題は何度も出てきたし、嘘を言っているようには思えなかった。
少しでも稼いで家族に貢献したいんだろう。
自慢じゃないが、俺という『強い』探索者と組むのは理にかなっている。
「駄目だ」
「あ、ご、ごめ……あーし、シツレイだったね……」
表情を曇らせる水分に、首を振る。
「違う、今日は駄目だと言ったんだ。買ったものを整理する必要があるからな」
「えっ……それって?」
ここへ来て20日で、よくよくわかったことがある。
――俺は、この日本においてどこまでいっても……異物だ。
帰るべき家も、守るべき家族もいない。
仕事だって、ダンジョンに潜ることしかできない。
人生の目標もない、いつか死ぬまで精々日銭を稼ぐだけだ。
加えて老化もしないらしいから、いつ死ぬかもわからん。
だから、思ったんだ。
探索者を続けることしかできないなら……せめて、誰かの役に立つようになりたいってな。
せっかく特撮主人公みたいな体をしてるんだ……ほんの少しは主人公らしいことをしよう。
あの時俺を救ってくれた、あの真っ黒いヒーローのように。
これでも、ガキの頃はまっとうにヒーローに憧れていたんだ。
別に騙されても死ぬわけじゃないし、目標としてはいいだろう。
万民に滅私奉公するつもりまでは、流石にないが。
「お互いソロ同士だ、よければ明日から一緒に潜ろう。水分が嫌と言うまでな」
「いっ……言わない! 言わないし!! やった、やった~!!」
間違いなく今日一番の笑顔で、水分は笑った。
「昨日からずっと思ってたけど……ナモンバラさんってむっちゃいいヒトだね!!」
「そうでもない」
スキップしながら先を歩く水分を見ながら、なんともこそばゆい感覚を覚えた。




