第27話 改造人間、ハゲの末路を知る。
「実力者が2人も増えると楽だなあ、ホントによ」
「それなら俺達は合格だな?」
「おう、勿論。これからもよろしくな!」
俺と並び、膨らんだザックを背負った瀬戸が嬉しそうに笑っている。
俺達の目の前にあるのは、最近足を向けていなかった『特区庁』の拝山支所だ。
ハイツ拝山からは数駅分を歩く必要があったが、別に問題はない。
このメンバーならこれくらいの距離は準備運動にしかならん。
俺達は、問題なく2階層、そして3階層を踏破してエレベーターで帰還した。
3階層のコボルトはさらに強かったが、特に問題ではなかった。
まりも狙撃の腕がどんどん良くなっていたしな。
……あの『紐付き』どもが持っていたクロスボウ、俺の装甲には通用しなかったがかなりいいモノだった。
たぶん、『迷宮商会』で買えば50万以上はするだろう。
弓に詳しい新庄曰く、魔物の素材を使用しているらしい。
とまあ、そんなわけで無事に支所前に来たんだが……
「だいっち、あんハゲいるかもなんだけど……だいじょぶ?」
まりが心配するように、今日はあのハゲ……豊平の出勤日なのだ。
「お? ああ……問題ねえよ。今だから言うがアイツとはちょいと色々あってな、あのハゲデブは俺と関わり合いには絶対ならねえんだ……理由は内緒な?」
瀬戸はニヤリと笑ってそう言った。
……何かあるのか。
さすが、経験の長い探索者だ。
どこかにあのハゲも文句の言えない相手とのコネもあるのかもしれん。
「さ、行こうぜ。ちょいと張り切り過ぎたから疲れっちまった」
「俺は腹が減った」
東条は燃費が悪いなあ……
・・☆・・
「瀬戸さんたちと組んだのですね、お久しぶりです」
「ミドちゃんおっひさ~!」
「みどりです」
受付にちょうど戸河内がいた。
なんだかんだんで2週間ぶりだな……当たり前だが、変わりはない。
「みどりちゃん、買取と鑑定よろしゅう~!」
「かしこまりました、2番の個室へどうぞ」
寺領とも知り合いらしいな。
いや、瀬戸を知っていたから当たり前か。
先導する戸河内を追い、歩く。
二階の個室は初めてだな。
「支所のコーヒーは相変わらず美味えなあ」
「すきっ腹に響くぜ……」
個室に通され、コーヒーを楽しみながら休憩している。
特に苦戦したわけではないが、やはり非戦闘区域に腰を下ろすと安心するな。
かわいそうなので東条にはカロリーバー(男性用・高カロリー・ココア味)を投げておいた。
寺領も欲しそうだったので、追加で。
「いくらになっかな、くろー」
「コボルトの尻尾が100本以上と、複数の恩寵品もある……総額は多いだろう」
儲けは7等分になるが、安全性が段違いだ。
皆パーティを組むわけだな。
それに、ハイツは『強盗』を心配する必要はない。
稼ぐにはいい場所だ。
「ヤキニクいこーよくろー! あーしむっさお腹空いたし!」
「いいな、それは」
「あ、ウチもウチも! っていうか全員で行かへん?」
「最高だな! 行こう!!」
真っ先に寺領が乗ってきて、すぐさま東条もだ……わかりやすい。
俺としても文句はないが……
「――お待たせいたしました」
戸河内が帰ってきた。
恩寵品の入れられた箱と、鑑定書を持っている。
……やはり、豊平はいないな。
面倒がなくって助かる。
「こちら、鑑定書になります」
テーブルに置かれた紙に目を通す……ほう。
魔物素材は44万円……つまり110本あったということか。
そして、恩寵品。
・指輪(スキル『気配察知(中)』) 10万円×3
・指輪(スキル『持久回復(小)』) 20万円×2
・首飾り(スキル『持久回復(中)』) 30万円×2
「うあー、全部持ってんな。ま、低階層ならこんなもんか」
残念そうに瀬戸が呟く。
『気配察知』は勘が鋭くなるスキルで、『持久回復』は疲れが取れる速度が上がる。
さすがは『中級』を周回できているパーティだ、そこそこ貴重な恩寵品も装備済か。
「瀬戸、まりに持久回復の指輪と首飾りをもらいたい。代金は俺が払う」
「はー!? ちょいちょいちょーい! 待って! 払うのはあーしの方っしょ!?」
そうは言うが、パーティメンバーだし俺の方が年上なんだが……
なお、俺は特に必要がないので今はいらん。
「あー、初参加の報酬ってことで別にいいや。皆もそれでいいだろ?」
そう瀬戸が聞くと、俺たち以外の全員が頷いた。
「……いいのか?」
「ええねんええねん! 今日組んでほんま助かったし、先行投資みたいなもんや!」
寺領が肩をバンバン叩いてくる。
どうやら、全員思う所はないようだ。
安定した余裕のあるパーティだな……
「みどりちゃん、したら残りは全部売却でお願い~」
「はい、かしこまりました」
とすると……総額で122万円。
1人当たり約17万円か。
……まりと2人で潜っていた時よりは少ないが、そもそも日給17万の時点でバカみたいな高級取りだ。
今までが少しおかしすぎたんだ。
その時、扉がノックされて……1人の女性が入ってきた。
「戸河内さん、少しいいかしら」
40代ほどの、上品な女性だ。
かけている薄いリムの眼鏡もあって、デキるキャリアウーマンって印象を受ける。
「はい支所長、今行きます。それでは皆様、報酬分配処置はすぐに行います。南門原さんは受付横で現金をお受け取り下さい」
そう言い、戸河内は頭を下げ……部屋を出て行く。
「……支所長、だって言ったよな?」
「ああ、どうなってんだ? あのハゲは?」
瀬戸と東条が首を捻って顔を見合わせている。
俺も同じ気持ちだ。
……ここの支所長は、例のハゲ……豊平じゃなかったのか?
「あ! 皆見て見てこれ!」
新庄がスマホを持ち、俺達に画面を向ける。
そこには……聞き覚えのない新聞社の、本日付のネット記事が表示されている。
『【速報】前拝山支所長、逮捕』
……なん、だと?
「ふぁー!? あのハゲとっ捕まっとるやん!? どないなってんねん!?」
「マージで!? ザマミロだし~! くろー! うぇいうぇ~い!」
寺領は目を見開き、まりは俺にハイタッチをせがんできた。
とりあえず、乗ってやる。
とてもいい音がした。
「あのハゲ、滅茶苦茶すぎだろ……」
瀬戸がスマホを見て苦笑いしている。
ニュースの内容はざっと要約すると……こうだ。
『豊平は不特定多数の探索者に命じて不適切な『依頼』をさせていた』
『その内容は支所を通さない魔物素材の横流し、他の探索者への襲撃指示、恩寵品の着服等多岐に渡る』
『探索者と、支所職員たちからの内部告発によって事実と認定され、即日に懲戒免職処分』
『逃走の恐れがあるため警察に身柄を拘束され、現在拘留中』
……この世界、内部告発からの逮捕までが早すぎるな。
真実を看破するスキルとやらのおかげだろうか。
やはり、警察には近付かない方がいい。
「やったなあ南門原。これで大手を振って探索者やれるぞ?」
「……ああ、そうだな」
どうしようかと考えていたが、俺の想像を超えるスピードで問題が解決したぞ。
いいことなんだが、肩透かし感がすごい。
・・☆・・
「それでは~! これからの栄達とハゲ野郎の末路を祝して~! 乾杯ッ!!」
「「「乾杯ッ!!」」」
地下鉄、拝山駅の近くにある……食べ放題焼肉チェーン店『焼肉くいーん』
そこの座敷で、俺達は一斉にジョッキを打ち鳴らしている。
後顧の憂いも消滅したので、さっそくの宴会となったわけだ。
「んがっごっごっご……ぷぁあ~! しみるし~!!」
当然ながら、まりはソフトドリンク……レモネードである。
あ、庄原もだった。
どうやら酒は苦手らしい。
「いやあめでたい! ホラ東条! 焼け焼けジャンジャン焼け!!」
「言われんでも焼くぞ! まずはタン塩からだ!」
山盛りになったタン塩が、4つの焼き台へドサドサ乗せられていく。
焦げる肉の匂いが、俺の空腹を加速させる。
「くろー、めっちゃキャベツ食うじゃん……あーしもちょうだい!」
「ああ、キャベツは最強だからな」
この塩ダレ、いくらでもキャベツが食えるな……カロリー的には少ないが、純粋に美味いから食う。
「くろーさん、超食うやん。ウチ、猛と同じ丼で食うヒト初めて見たわ」
俺と東条の前には、ラーメン丼ほどの茶碗に山盛りの白米が盛られている。
東条が無茶苦茶食うからありがたいな、俺も遠慮なく食える。
「東条も南門原も、肉が焼ける前に白飯食うのかよ」
瀬戸は呆れているが、カクテキを乗せた白飯はいくらでも食えるぞ。
「僕は少食なので羨ましいですね……」
「卓さんならアレだけで昏倒しそう! あはは~!」
新庄はこの中で誰よりもデカいジョッキで……濃い目のハイボールを呷っている。
バケモンだ……肝臓が4つくらいある『スキル』なのかもしれん。
「くろー! お肉焼けたよ! あーしが取ったげる~!」
「ここに頼む」
香ばしく焼けたタン塩が白米に乗る……最高だ。
飯がドンドン消えていく。
「東条! とりあえず牛カルビとロースを16人前だ!」
「大丈夫だ南門原! もう頼んである! お前の分の白飯はいるか?」
「勿論!」
頼もしい!
今日は食うぞ……!!




