第25話 改造人間、新たなダンジョンに挑む。
「エンゴはまかしてね! くろー!」
「ああ、頼りにしている」
背後で気合を入れるまりを頼もしく思いながら……ドアノブに手をかける。
聞いた通り、何の施錠もされていなかったドアが開いていく。
喫茶店での簡単な話を聞いた俺達は、早速『ハイツ拝山』へと足を向けた。
外から見ると一般的なマンションに見えたが……エントランスを潜った瞬間にダンジョンだと理解した。
――明らかに、通路の幅が広すぎる。
高さも外から確認するよりも、何倍も高い。
通路の左右には部屋の扉が整然と並んでいるが……その大きさは普通なので、違和感が凄かった。
瀬戸たちは俺たちの力量を見るために、すぐ後ろをついてきている。
何かあれば助けてくれるだろうが、あまりに情けなければ仮パーティは解散かもしれんな。
ともかく、扉を開いた。
「ひっろ」
まりが言うように、部屋の内部は広かった。
玄関は楽に20足くらいの靴を置けそうだし、天井は10メートルは上にある。
空間が拡張されているな……む。
「ウルルルル……!」
長い廊下の先に、影。
部屋の方から出てきたのは、目測140㎝程度で二足歩行の小汚い犬だった。
その手には、短剣と長剣の境目くらいの剣を握っている。
あれが、ここでまず出てくる魔物……『コボルト』だ。
力も、機敏さも、ゴブリンより上等の魔物である。
1階であるここでは精々2~3匹だが、上に行くほど一度に出現する数が増えるらしい。
「撃つよ~!」
ばづん、と弦の弾ける音がする。
まりが放ったボルトは、俺の横を通って――コボルトの脳天に命中した。
「ギャインッ!?!?」
長く重いボルトは、コボルトの頭を難なく貫通。
そのまま床へと倒した。
よし、新しいクロスボウはコボルトにも問題なく通用するな。
「まり、よくやった。残りは俺に任せろ」
遠距離で済ませてもいいが、俺の力量も見せないとな。
「うん、がんばって~!」
まりの激励が終わるくらいに、新たな影。
「オオオオン!」
廊下を走ってくる新手のコボルトだ。
後続はいないな……1階だからこんなものか。
背後には瀬戸たちがいる……ここは普通に対応しよう。
「ゥワン!!」
走り込んで来たコボルトが、俺に剣を振り下ろす。
「っふ!」
その剣にピックを叩き付けると、楽にへし折れた。
そのまま、体が動く勢いを利用しての右ミドル。
「ギャッ!?!?」
ブーツの先端が腹にめり込み、皮膚を食い破る。
内蔵を撒き散らしたコボルトが吹き飛び、壁に激突して二分割の死体になった。
……気持ち、ゴブリンよりも硬い……か?
誤差すぎてよくわからん。
しばらく待つが、やはり後続はナシ。
よし、動くか。
「コボルトはシッポだっけ?」
「正確には尻尾の先端だ」
まりと2人でコボルトの尻尾を回収。
ズタ袋に放り込む。
ちなみに調べた所、1本で4千円だった。
ゴブリンよりも少し高い。
出発点でこれだと、最終的にはもっと稼げそうだな。
・・☆・・
「訓練場で見かけた動きからそうだろうとは思ってたが……南門原、本当に初心者か?」
「ダンジョンに潜るのは、な」
あれから、まりと2人で5部屋程開けた。
出て来たコボルトは全部で9匹だ。
1部屋だけ1匹だったからな。
そうして3万6千円儲けたころ、瀬戸に言われて通路で止まっている。
「中国地方の会社勤めで、倒産して探索者になったんだっけか?」
「ああそうだ。……色々あって誰かの下で働くのが嫌になってな」
そういうことに、なっている。
「ともあれ、まりちゃん含めて申し分のない感じだ。これからはパーティで動こう」
「お眼鏡に適ったか?」
ぽん、と肩に手を置かれる。
寺領がニコニコしている。
こうして近くにいると身長も変わらんな。
俺より少し年下のはずだが、よく笑うからもっと幼く見える。
「とっても! どっかで武道やってたん? めっさ蹴り足速いやん! キック系?」
「ああ、空手を少しな」
前の世界ではやっていなかった。
この体になってから、本で覚えた型稽古を繰り返して体に沁み込ませたのだ。
改造人間ボディは学習能力が高いし、反復練習も苦にならないからな。
あとは、ソロでダンジョンを周回し……ゴブリンを殺し続けて感覚を掴んだ。
改造人間、万歳。
「へーどこどこ!? ウチは『一撃館』なんやけど!」
ほう、寺領はやはり近接系だったか。
この日本で広く展開している、フルコンタクト系の実戦空手だな。
ダンジョンがあるせいで、この世界では武術系の研鑽も盛んに行われている。
「『雷神流』だ。地元に道場あってな」
「あーね! どっかで見たことある型やと思った!」
図書館で読んだだけだがな。
一番写真が多く、わかりやすい本だった。
「今までやって疲れてんだろ、これから1階終わるまでは休憩してな」
瀬戸がそう言って、背負っていた武器を抜く。
巨大で無骨なハンマーだ。
おそらく、全長は俺の身長とそう変わらんだろう。
「このパーティで前衛は俺と東条、それに寺領だ。2階から南門原は前衛、まりちゃんは後衛に入ってくれ」
「わかった」
東条は棍棒に盾、寺領は……腰に装着されていた肘まである手甲、それからブーツの上に金属の鎧……脚絆を装備している。
新庄はアーチェリーに使うような機械式っぽい洋弓で、庄原は……手ぶらだ。
「ああ、僕は『超能力』で戦います。稲妻の」
「……それ、言ってもいいのか?」
庄原は薄く笑って、持ち上げた右手に稲妻を発生させた。
「どうせ戦えばすぐにわかりますからね」
稲妻の展開が速い……スキルのレベルも高いらしいな。
いつぞやのチンピラとは大間違いだ。
「あーそうだ、大事なことを言い忘れてた……ダンジョンの報酬分配なんだが、基本的に全員で山分けだ。今回の場合は7人で割る」
「それはいいが、基本的にとは?」
ハンマーを持った瀬戸が笑う。
「『恩寵品』でほしいのが出たら応相談、ってやつだ。今までに南門原たちが狩ったコボルトは2人で分けな」
「了解した」
随分とわかりやすいな……
これくらいシンプルな方が長続きするのかもしれん。
・・☆・・
「よおし、これで10部屋だ! 次回層への階段が使えるぞ」
息を乱した様子もなく、瀬戸が笑っている。
この『ハイツ拝山』はどの階層でも部屋の数は20。
その半分の部屋を踏破したからOKってことか。
ちなみに、開けた部屋が無人でもカウントはされる。
そんな瀬戸たちだが、全く問題はない戦いぶりだった。
瀬戸の振るうハンマーは、コボルトの体を水風船めいて破裂させた。
東条は棍棒で剣を裁きつつ、盾で殴り殺していた。
そして寺領は……俺の変身後とは言わんが、それに準じるかもしれない程度の打撃力だった。
しかも、殴ったコボルトが焦げた。
何らかの近接系『超能力』……発火系か?
そして、後衛の2人もまた実力者だった。
新庄の矢はコボルトのどこでも豆腐みたいに貫通するし、庄原の放つ稲妻の『超能力』は掠めるだけで連中を感電させる。
かなりバランスのいい、経験豊かなパーティだった。
こいつらが苦戦しているという10階層はどれだけ地獄なんだろうか……
「しっかしダンジョンも意地悪よね! 一気に行かせてくれないなんてさ~」
「それな~!? カミサマがいたらぜって~性格悪いし! モテねえし!」
「あっはは、確かにモテなさそうや!」
まりがあっという間に女性陣に馴染んでいる……コミュ力の化け物だ。
ダンジョンは、『完全踏破』すればショートカットが使える。
瀬戸たちは半分まで攻略済みなので、当然エレベーターが使えるわけだが……
どういう理屈か、そこに俺達という異物が混じると使えなくなる。
誰がどうやって判断しているのか知らんが、パーティに1人でも『未踏破者』が混じっているとそうなるそうだ。
だから、このパーティは1階から地道に攻略していくしかない。
「ま、タダ働きにはならんのが救いだな」
東条が木箱を掌で弄んでいる。
この階層では2つの恩寵品が出た。
さすがは『中級』、恩寵品の出現率も高いらしい。
中身は指輪と首飾りで、鑑定前なのでそのままにしてある。
「くろー、ここ結構オイシーかもだね!」
「『中級』だからな。だが油断はするなよ、1階の時点でゴブリンよりも大分強いぞ」
俺にとっては誤差の範囲内だがな。
「わーってるし!」
「ならいい」
フンスフンスと鼻息の荒いまりは、浮かれているが油断はしていない。
人数が多いとはいえ、楽観視はしていないな……いい子だ。
「よーし、ちょい休憩したら2階だ! 今日中に3階くらいには到達したいな!」
瀬戸の声に、俺達は進み始めた。
……本当だ、瀬戸たちが最後の部屋を攻略するまで何もなかった廊下の端に……扉が現れている。
あそこを開けて2階に進むんだな。
「ギャウゥウウウ!」
「せいはッ!!」
飛び掛かってくるコボルトに、前蹴り。
「ギャンッ!?!?」
胸に直撃した足裏から、肋骨らしきものが片端から砕ける感触。
血反吐を吐いたゴブリンは、大分遠くまで飛んで死んだ。
2階に上がって1つ目の部屋だが、もう3匹のコボルトが出現した。
これは……上に上がれば上がる程大所帯になりそうだな。




