第24話 改造人間、パーティに正式参加する。
「南門原、準備はできてるか?」
「問題ない、まりも駅で合流する」
まりの家での勉強会から、ちょうど1週間。
日曜日の朝に、瀬戸と一緒に宿泊所を出る。
今日は、瀬戸のパーティと組んで新しいダンジョン……『ハイツ拝山』に潜る日だ。
「期末試験か~、まりちゃんも大変だな」
「高校生だからな、仕方ない」
あの勉強会、どうやら試験前の追い込みだったらしい。
今週、まりは試験期間中だったのでダンジョン行きはキャンセルしている。
早上がりだが、翌日が試験日で怪我でもしたら大変だからな。
「昨日カラオケで歌い倒していたから、今日は大丈夫だろう」
何故か打ち上げに俺まで連れ出された。
「女子高生とカラオケかあ! お前……そんなん普通なら金を祓う案件だぞ!」
「それやったら捕まるだろう」
この世界でも、青少年保護条例はしっかりある。
掴まったら最後、改造人間まで露見して研究所コースだろう。
これからも気を付けねば。
「合流したら改めて作戦会議するが……お前、マンション型ダンジョンは初めてだよな?」
「ああ、その通りだ」
歩きながら、瀬戸の影へ。
支所からこちらを見られんとも限らないからな。
コイツは2メートル近いし体も分厚いので、いい隠れ蓑だ。
「そっか……まあ施設型とそう変わらんよ。っていうか、豊平からなんかされたか?」
露骨な退避に気付いたのか、そう聞いてくる。
「ああ、『紐付き』に襲われた。麻酔薬まで使って支所に連行されかけたぞ」
「マジかよ、アイツらそこまですっか……? それで、大丈夫……そうだな?」
瀬戸の視線が俺の顔に向く。
「ああ、全員『話し合い』で解決したよ」
「そっか、そいつはいい……直接来るってことは、あのオッサンよっぽど切羽詰まってんな……『依頼』のノルマが未達成なんか?」
支所には、政府から『依頼』として命令が下ってくる。
間引きや、魔物素材の納入などだ。
それが達成出来なければ、なんらかのペナルティがあるらしい。
特に豊平は『やらかして』都落ちだからな……それはもっと重いのかもしれない。
「お前が精鋭を『話し合い』しちまったから……まあ、大丈夫だろうが。ああそうだ、その中に『武器術』の使い手がいなかったか?」
「ああ、光る日本刀持ちの奴がいたな」
結局ワンパンで終わったが。
黙って斬られる趣味はないからな。
「ソイツは『タカハシ』ってヤツだろう。帝都方面でちょいとやらかして逃げて来たって噂の男だな……豊平の『紐付き』連中の中じゃ筆頭だな」
「なるほどな」
『殺し慣れて』いる感じだったからな。
いかにダンジョン内は治外法権とはいえ、やらかしまくれば当然恨まれるし、狙われる。
アイツはどこかデカいパーティか、クランにでも目を付けられたのか?
今となっては関係ないが。
「しかし腹減ったな……途中で何か食って行こうぜ」
「同感だ、牛丼にしよう」
まさか食堂が工事中とはな……
俺も瀬戸も良く食うから、朝飯抜きはキツすぎる。
・・☆・・
「あ~! 2人ともギュードン食ってきたっしょ~?」
「何故わかる」
瀬戸と二人で大盛牛丼を2杯ずつ爆速で食い、駅でまりと合流した。
会った瞬間にそう言われて驚いた。
「めっさニオイするし。なんかあーしも腹へった~! 売店で買ってくる!」
そう言うや否や、まりはホームの売店へ走り出す。
アイツは家で食ってるだろうに……高校生の食欲は流石だな。
「まりちゃんは『身体強化』が育ってんだな。未経験から一気に育つと、拡張した五感に少しの間対応し辛くなるんだ」
瀬戸、コイツいつの間にまりのスキルを……と、思いかけてやめた。
あのしゃぶしゃぶ会の日に言っていたな、まりが自分で。
本当にアイツは……珍しくないスキルとはいえ。
「そうなんだな、ひょっとして瀬戸も?」
「おう、見りゃわかんだろ。だが『他』のは内緒だ」
「気にするな、これ以上聞かん」
コイツはスキルの『複数持ち』か。
オーブか、それとも自然発現か。
どちらにせよ、経験豊富な証拠だな。
いつだったか高校時代から探索者だと聞いたし。
10年近くも潜っていれば、否、生き残っていれば……珍しくもない。
「たろいま~!」
まりが大袋を抱えて帰ってきた。
サンドウィッチの業者くらい買ってるな……
「丁度いいから朝飯とおべんとにするし! 今日ママ早出だかんね~」
「なるほど」
まりの母、水分さんの職業は……薬剤師だった。
パートタイムで薬局に勤務しているらしい。
前の世界でもそうだったが、この世界でも医療従事者の給料は高い。
シングルマザーであれだけのマンションに住んでいるんだから、ある程度給料がいい職種だとは思っていた。
「あ! くろーくろー、あのウデワね! 使えるって! テイコーリョクが上がるんだってさ!」
「そうか、それはよかった」
あの日渡した腕輪は、水分さんの伝手で医療系の機関で再鑑定したらしい。
渡した甲斐があるというものだ。
水分さんは申し訳なさそうにしていたから……まりが十朗のことを話したら涙ぐんでいた。
『何の病気で?』と聞かれた時は焦ったが、『難病としか聞いていないんです、俺もその時は小さくて』と言ったら納得された。
「んでさ! なんか……ガッコ行ける日が増えるカモって!」
「そうか……それはいいな、うん」
ザックにサンドウィッチをしまったまりが、嬉しそうに俺の肩を叩く。
「くろーのおかげだし! 足向けて寝れねーし!」
「気にするな、パーティだろう」
瀬戸がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「女子高生に貢ぐオジサンか……これはちょいとした事案だな?」
「やめてくれ、シャレにならん」
職務質問でもされたらどうする。
「くろーはオジサンじゃないからだいじょぶだし! つえーしかっけーもんね!」
ピントがずれている……
・・☆・・
「揃ったところで自己紹介というこうか」
午前10時過ぎ。
電車から降り、駅近くの喫茶店に集合した俺達。
テーブル席には、俺とまり以外に……6人の人間がいる。
「まずは俺達だな……瀬戸大也だ、一応リーダーをやってる」
……瀬戸、リーダーだったのか。
「東条猛だ」
「新庄真紀です!」
うん知ってる。
「庄原卓です、どうぞよろしくお願いします」
黒ぶち眼鏡で、ひょろっとした頭のよさそうな男だ。
筋肉の様子からして、遠距離職だろう。
年齢は……俺とそう変わらんか、たぶん。
「ウチは寺領晶、よろしゅう! 強そうな助っ人さんが来てくれて嬉しいわぁ」
最後は女性。
久しぶりにネイティブ関西弁を聞いたな、地元民か。
ショートカットで、筋肉質、そして高身長。
こっちは近接職かな。
髪が赤みがかっている……染めている様子はないから、恐らくスキルの影響だろう。
さて、今度はこちらか。
「南門原九朗だ、よろしく頼む」
「水分まりです! よろしくオネシャース!」
声がデカい。
遠くの店員が凄い勢いで振り向いたぞ。
「まりちゃんは元気がいいなあ……さて、詳しい話は潜ってからだが……一応、遠近どちらか聞いていいか?」
リーダーらしく、瀬戸が聞いてくる。
「俺は完全な前衛。まりは棍棒とクロスボウが扱える」
今日のまりは、以前の『紐付き』の遺品である長射程クロスボウと棍棒、そして盾を持ってきている。
これから潜る『ハイツ拝山』に狭い場所はないと聞いたので、小さいクロスボウは留守番だ。
「よしわかった。それと……南門原たちには申し訳ないが、入ってしばらくは動きを見せて欲しい」
「当然だな、問題ない」
一応ガリーファロを踏破したが、瀬戸と組むのは初めてだ。
ある程度は俺の実力を見ておきたいのだろう。
「さわりだけでも教えてくれるか? 朝も言ったがマンション型のダンジョンは初めてなんだ」
図書館で調べては来たが、生の情報が欲しい。
「おう……それじゃ卓、頼む」
説明役は庄原らしい。
見た目はそういうのが得意そうに見える。
「はい、まず……『ハイツ拝山』は全部で20階層のダンジョンです。僕たちは現在、地上10階まで踏破しています」
敬語はいらんが……話しぶりから、これが庄原の普段通りらしいな。
「全階層の大きさは一定で、突き当りに次回層への階段があります。『完全踏破』した際の脱出口兼近道は、各階にあるエレベーターです」
電力も何もないのに動くエレベーター……流石はダンジョンだ。
前のガリーファロだって水道も電気も通っていたしな、インフラ以外の謎の要因で。
「内容は広がったマンションそのものです。通路の幅は約10メートルで、左右に部屋が配置されている形になっています、外に面した道はありません。各部屋は施錠されておらず……魔物はその部屋の中にしか出ません。セーフゾーンは通路と、入った時に何もなかった『ハズレ』の部屋、それから内部の魔物を一層した部屋になります」
「セーフゾーンが多いしひっろ~!」
まりが漏らした声に、庄原が微笑む。
「ええ、そうです。ハイツ拝山は不意の接敵に気を使わなくて済むダンジョンなんですよ」
……それだけ聞くと簡単そうだが、あそこは『中級』
何か、難易度の高い理由があるんだろう。
「ですがね、ハイツ拝山にはこういうルールがあるんです……『その階層にある部屋の半分を攻略しなければ、次回層への階段が出現しない』という、ルールがね」
……なるほどな。




