第22話 改造人間、ガリーファロを踏破する。
「なん……だ、そのスキルは」
紫色の煙の中から装甲を纏った俺が足を踏み出すと、黒ずくめは一歩足を引いた。
『貴様に教えてやる義理はない』
俺は、厳密には呼吸しているわけじゃないからな。
食事で摂取したエネルギーで生きているだけで、呼吸器経由の毒は無意味だ。
皮膚は強化人工フィルムで骨格と内臓はほぼ金属だから……他の毒も効かない。
ざざ、と足音。
黒ずくめの上……屋上への階段から、さらに2人が降りて来た。
「おいおいおい、何だコイツ」
「『形態変化』系じゃねえな……変則の『防具術』か何かか?」
同じような装備を纏い、両方とも……持っているのはクロスボウ。
まりが持っているものよりも巨大で、装填されているボルトも長い。
後方……まりは、俺の後ろから離れて柱の陰に移動したようだ。
よし、えらいぞ……!
アイツらの狙いは俺だろうから、それでいい。
意識を体内に集中。
『……『チャージ・アップ』』
発電機の出力を――一段階、上げる。
奴らにも、俺の体から響く謎の重低音に気付いたようだ。
先頭の男が、日本刀を両手で構えて――
『――貴様ら、皆殺しだ』
一瞬で距離を詰めた俺の右正拳で、刀がへし折れ――そのままヘルメットに突き刺さる。
「げぇっばぁ!?!?」
何を言うつもりだったか知らないが、装甲に包まれた拳は後頭部をヘルメットごと貫通した。
「なっあ――」
まずは右のヤツに向け、即死した黒ずくめを――蹴りつけて、ぶつける。
左の奴が咄嗟に放ったボルトは、頭部の装甲板を貫けずに折れながら弾かれた。
「っひ!? 来るな――」
左に向け、跳ぶ。
跳躍の頂点で、両手を握り合わせて――向ける。
『『ハイ・プレッシャー』! エア・ストラァアアイクッッ!!』
空中で俺の体が後方にズレるほどの、衝撃と爆音。
両手のエア・ストライクを同時に、しかもさらに圧縮して放つ兵器だ。
「ばみゃばぁ!?!?」
俺の買ったプロテクターよりも、よほど高級そうな装甲服。
その胸部分が大きく陥没し、背中側から血まみれの肋骨が飛び出すのが見えた。
それを無感動に見ながら、着地。
「や、ややややめろ! かん、勘弁してくれ! アンタのことは誰にも言わないから!!」
飛ばした死体の下敷きになっていた最後の黒ずくめが立ち上がって、走る。
こちらではなく、非常階段に向かって。
『――断る』
地面を、砕きながら踏み切る。
ほぼ真横の軌道で飛んだ俺は、圧縮空気を噴出しながら加速。
「たすっ、助け――」
『――エレクトロッッ!!』
巨大な放電を繰り返す両足が、黒づくめの背中に直撃。
装甲を破壊し、その下の皮膚を焦がし、燃やし――
『――ブラストォッッッ!!』
上半身を、爆弾の直撃でも受けたかのように吹き飛ばした。
その反動でトンボを切り、着地。
上下2つに分かれた爆殺死体が、ほぼ同時にどちゃりと落下した。
現在のエネルギーのかなりの量を使用した、落雷に匹敵するほどの超高電圧……人間に耐えられる威力ではない。
……3人とも即死、他に気配はない。
変身を解除しつつ、懐に忍ばせていたハチミツのボトルを一気に吸う。
失ったカロリーを補填しておかんとな……
「くろー! くろーだいじょぶ!?」
「ぷは……物凄く、腹が、減った」
変身すると燃費が悪いからなあ、この体。
・・☆・・
「これ、あーし使いたいし!」
「ああ、そのつもりで破壊しなかった」
3階の非常階段から、地上へ降りている。
あれから、連中の死体から金目のものを剥ぎ取っておいた。
案の定財布に現金はなく、カード類のみ。
だが、連中は指輪をいくつかと、今まりが持っているあのデカイクロスボウを持っていた。
装甲服も高級そうではあったが……血まみれだったので洗うのが面倒臭く、そして破損しているので置いてきた。
「引けそうか?」
「よゆーよゆー! ホラホラ!」
まりは満面の笑みで、片手で装填作業をした。
うん、問題なさそうだな。
「狭いダンジョン以外はそれがよさそうだな。前のモノは腰に固定してもいいかもしれん」
「ニトーリューってやーつ? かっけーかも!」
これ以上の武装は重くなりそうだが……これで、攻撃力の不安はなさそうだな。
小さな方のクロスボウも十分な威力だし。
「じゃあ、このまま朱門地区まで行こう。念のため……そっちのクロスボウも入れておくか」
俺の使っているザックは、展開式でかなりの量を入れることができる。
今回の戦利品で場所を取るのはクロスボウだけなので、外から見てもさほど目立たないだろう。
「っていうか……ごめんねくろー、あーしもエンゴできたら……」
「魔物相手なら困るが、ああいった相手の場合は別だ。無理するな、慣れるようなものでもない」
魔物殺しと人殺しはたぶん違う。
俺にとってもどちらも大した違いはないが、まりのような普通の女子にはな。
「頼れるところは頼ってくれ」
「んにゅむぅう……くろーってばちょっとかっこよすぎっしょ! んも~!」
何が気に障ったのか知らんが、まりは頬を膨らませて俺の肩をバンバン叩いてきた。
やめろ、落ちるぞ。
「あっこで休憩してこーよ、お腹空いたし!」
「ああ、わかった」
ついに踏破したガリーファロを離れ、支所から見えない道を通り……幹線道路に出た。
まりと話しながら……そうだな、5キロほどは歩いたかな?
彼女は道の先に停まっているフードバスを指差している。
ほう、バーガー系か。
おあつらえ向きに、その先にはちょっとした公園が見える。
魔物素材を持って店に入るのは推奨されていないが、屋外での飲食なら大丈夫だ。
「これで買えるだけ買ってくれ、お前の分もな。飲み物もだぞ?」
懐に入れていた1万円札を出し、渡す。
今更だが、この聖和100年の時代じゃ1万円は豊臣秀吉の息子、秀頼なんだよな……
大阪夏の陣で徳川家康を敗走させてるし、どうなってんだ。
大河ドラマ『浪速の夢継ぐもの・豊臣秀頼』は名作らしいからいつか見てみたい。
「あいあーい、後で半分払うし!」
律儀な事だな。
「おにーさん! とりまトリプル6つ! あとレモネードのLサイズ2つね~!」
「かしこまり~」
先に公園に行っておこうか。
今日は何度も変身をしたから疲れが少しあるな……小刻みに変身する方が効率はいいが、それでも最後の男どもに大技を使いすぎてしまった。
俺の電気系の兵器は、込める電気量で威力と消耗が上がる。
俺も、存外に腹が立っていたらしい。
今思うに、あの程度なら全員『エア・バレット』の波状攻撃でも問題なく殺せただろうに……
・・☆・・
「魔物素材の買い取り、それから恩寵品の鑑定を頼む」
「かしこまりました、少々お待ちを」
途中で休憩しつつ、問題なく『特区庁』の朱門支所へとたどり着いた。
拝山と同程度の規模の受付で買い取りを頼み、その後別室に案内された。
「ね、ね、ハゲみたいなのがいたらどうしよっか?」
「あんなのが近所に複数いるとも思えんが……その時は走って逃げるさ。別にダンジョンはここにしかないわけじゃない」
俺の身体スペックから考えるに、まりを抱えても時速80キロ以上で最低5時間は走れる。
消耗が激しいから、その時はハチミツでも舐めながら走るかな。
「そだね~。ヒモツキってめんどいから超やだし」
「便利な所もあるんだろうが、その地区から出るのを制限されるのはな……」
特に、まりはポーションを狙うっていう目的もあることだし。
「ねーね、くろー。ベンキョウ会さあ、サッコとユッコも来てい~?」
「いつの間に会になったんだ……まあ、かまわんが」
随分と賑やかになりそうだ。
「そっか~、そんじゃ明日の昼に『ゴゼンマチ』の駅まで来て! 迎えに行くし!」
午前町……宿泊所から4駅ほど離れた場所だな?
「それはいいが……どこでやるんだ?」
「あーしの家! ママも来ていいってさ~?」
……なんだと?
「お前……ちゃんと母親に言ったんだろうな? 俺が男で25歳っていうのも」
女子高生の友達だって思われてたら最悪通報ものだぞ。
「言ってる言ってる! 『お世話になってるんだから連れてきなさ~い!』って、むっさノリノリよ、ノリノリ!」
「そうなのか……ならまあ、お邪魔しよう。でも、病気の妹さんもいるんだろう?」
例の難病の子供が。
「そだよ~? でもだいじょぶ! あの子、お客さんくんの好きだし! 家の中なら普通に過ごせるしね!」
「わかった、それなら……妹さん、何かアレルギーは?」
「ないよ~、魔素だけ!」
ふむ……最寄り駅でケーキでも買って行こうか、それなら。
「斧と指輪は売る、腕輪はこちらで使わせてもらう」
「かしこまりました、それではまたお待ちください」
支所の男性職員は、恩寵品の斧と指輪を持って出て行く。
「やったねくろー! 50万だってさ~!」
「武器系は需要もあって高く売れるな……指輪の方も、俺らには必要ないが高かった」
本日の儲け、斧の代金を入れると60万円を超えたな。
斧には『衝撃強化(小)』と『強靭』というスキルがあった
結構使いやすそうだったが、現状の俺達には不要ということで、売る。
俺にはピックもあるし、まりは言わずもがなだ。
奴らが所持していた指輪の方は、恩寵品ではなくただのプラチナリングだったが。
それでも貴金属なので高額だったのが嬉しい。
ダンジョンからは、ときたまただの貴金属も出るからな。
「はめて~、ねえねえウデワはめて~!」
「自分でやれよ……」
とはいうものの、差し出されたまりの左手に腕輪を装着してやる俺であった。
鑑定書にはこうある……スキル『毒物耐性(中)』とな。
俺には不要だが、まりにとっては有難い。
ダンジョンの中では科学で解明できない毒がまだまだあるらしいからな。
俺に効く毒はたぶんないが、溶解液とかで溶かされると困るな。
身体表面を覆う人工皮膚は、本物の皮膚と同じように治癒するが……脳内の情報を参照する限り、そこから出てくるのは銀色に輝く特殊金属の骨格だ。
〇-ミネーターと勘違いされたら困……いや、そもそもこの世界にあの名俳優はいないし、映画も公開されていなかった。
……ともかく、バレないに越したことはない。
プロテクターを買って正解だったな、本当に。




