第21話 改造人間、『紐付き』の邪魔が入る。
「ギャババババッ!!」
空気を切り裂いて、歪な鉄の大剣がこちらへ振られる。
『ぜぁっ!』
それに、左裏拳を合わせる。
超硬度を誇る俺の装甲は、その大剣を破砕。
一瞬で、剣は空中に散らばる鉄くずと化した。
『ハイ・ヴォルト――』
同時に、溜めていた右拳を放つ。
蒼白い放電を繰り返す右拳が、自慢の武器を砕かれて狼狽したゴブリン・チャンピオンの――鳩尾に突き刺さった。
『――ナックルッ!!』「ァアャギャギャギャ?!?!?!?」
鋭い電極が皮膚を切り裂き、筋肉を貫通して……内部へ。
そこを起点に、発電機で生み出された高圧電流が体内へと襲い掛かっていく。
焦げ臭い臭いを放ち、チャンピオンの目から生気が消えた。
「グゴガアアアアアアッ!?」
「オオアタリ~! あーし天才ッ!!」
仲間が焦げて死ぬのを見ていた新手のチャンピオン。
その喉に、まりが放ったボルトが突き刺さった。
それを引き抜こうとしたチャンピオンの胸に、また新たな一射が命中する。
『はぁッ!!』
地面を蹴って、低く跳ぶ。
空中で圧縮空気を放って姿勢制御し、右足を突き出す!
『エレクトロ――』
右足表面の装甲が反転し、電極がむき出しになる。
そのまま、藻掻くチャンピオンの脇腹に蹴りが直撃。
肋骨をへし折り、足首までが体にめり込む。
『――コレダーッ!!』「ガバギャアアアァアアアア!?!?!?」
ばづづづ、と轟音が空気を引き裂く。
拳と比べると、衝撃力も電力も2倍以上。
それを余すことなく叩きこまれたチャンピオンは、煙を上げながら吹き飛ぶ。
いくつもの棚を巻き添えに倒れ込んだ時には、もう息が止まっていた。
『まり、ナイスアシストだ』
「ありしゃー! それでサイゴだよ~!」
変身を解く。
むき出しになった鼻に、なんとも表現し辛い香ばしい臭いがした。
調子にのって電気を流し過ぎたな……少し、食事しておこう。
カロリーが、カロリーが足りない……
「よっしゃ~! ホウギョクが5つだし! 27万5千円だし~!!」
若干血まみれになった宝玉を持ち、まりがよくわからないステップを刻んでいる。
そして、こういう時は計算が早いな……む。
「また『恩寵品』か、大盤振る舞いだな」
「マージ!? あ、ほんとだ! やったし!」
チャンピオンの血だまりの中に、木箱が浮かんでいる。
血に染まっていないのがどうにも違和感があるな。
ゴブリン・チャンピオンが5体も一気に出たからな……並の探索者にはキツすぎる相手だろう。
『初級』とは一体なんなのか。
「おほー! 腕輪! しかも2個! まーたオソロだし~!」
「中身のスキル次第だがな……とりあえず鑑定待ちだ」
中身は、シンプルな銀色のブレスレット2つだった。
小さな赤い宝石が嵌まっている。
これも、指輪と同じように自動で大きさが変わるのだろうか。
「油断せずに奥へ向かおう、今回は大物の回収はしないようにする」
「りょーかい! 結構歩くもんね~!」
「……まりはついてこなくてもいいんだぞ?」
すると、まりは頬を膨らませた。
「なーん!? あーしもパーティなんだから一緒に行くに決まってるっしょ! くろーにばっかりザツヨーさせないんだかんね!」
「そうか……まあ、ありがとう、かな?」
……意外と義理堅いな、コイツ。
まあ、少し嬉しいが。
「マモノが全然出ねえし~」
「そうだな」
チャンピオンの群れを撃退してから、魔物の気配がなくなった。
「ダンジョンの魔物は減ったらすぐに追加されるわけじゃない。『湧き』待ちの時間なのかもしれん」
「あーね。楽でいいし~! くろーも超疲れてっしょ?」
まりは俺が歩きながらカロリーバーを齧りまくっているのを見ているからな。
「腹が減っているだけだ、問題ない」
「はいはいお水。喉つまるし~?」
水のボトルが差し出された。
俺の喉は強靭だから問題ないが……ありがたく貰っておこう。
ダンジョン内の魔物は、階層ごとじゃなく全体で統一されているらしい。
今この瞬間、他の階層でパーティがゴブリンを大量に狩っているのかもしれん。
ほんと、ダンジョンってのは不思議の塊だな。
俺の体も超科学の塊だけど。
「まりはどうだ? さっきチャンピオンに殴られただろう?」
「シールドちゃんがめっさ頑張ったからだいじょぶだし。くろーのオカゲだね~?」
たしかに、あの時はしっかりとガードしていたな。
まりは遠近両方こなせる戦士枠……とでも言うべきか、ともかくそれになりつつある。
やはり、経験値的なモノが1人に集中しているからか?
『身体強化』はありふれているが本当に強力なスキルだな。
「トーハしたら明日は休み?」
「ああ、お前はタフだが日曜日はしっかり休んだ方がいい。学校も大事だろ」
コイツ、部活はしてないがそれでも疲れるだろうし。
っていうか、勉強は大丈夫なのか?
「そだね~……」
目に見えて元気がなくなったな?
「イジメでも受けてるのか?」
「ちがうし! あーしのクラスはミンナ仲良しだかんね! ベンキョーの方だよ~!」
まあ、そうだろうなあ。
「……あ! いーこと考えた! くろーくろー! あーしにベンキョー教えてよ!」
「……何?」
思ってもいないことが発生したな?
「だーって、くろーってばここに来るまではシャカイジンだったんしょ? それならあーしよりアタマいいじゃん!」
「いいかどうかは知らんが、会社員だったな、確かに」
俺は、『会社が潰れたから脱サラして探索者になった』ということにしている。
学歴だって前の日本では一応国立大学を出ていたが……この世界には当然存在しない。
該当する地域にあったのは、なんと私立の女子大だった。
しかも、歴史が100年近いお嬢様大学……どうなってんだ、この世界。
「……友達と遊べばいいだろう? たまの休みなんだから」
「だーかーらー! トモダチにベンキョー教わるんじゃん! もうすぐテストなんよ~!」
……そういえば、俺は友達の中に入っているんだった。
コイツ、友達は多いし年齢層も幅広そうだな……
「まあ……歴史以外なら別にいいぞ。歴史だけは昔から苦手でな」
「ほえー、なんか意外だね?」
……俺の知ってる歴史の流れと大分違うんだよ、この世界。
ダンジョンの存在もそうだが、そもそもそれ以前の歴史も違う。
世界大戦の戦勝国とか、紛争の規模とか。
むしろ一から歴史を勉強したいまである。
戦国時代の武家なんか、最後まで大内家が中国地方を支配してるんだぞ。
毛利元就はどこへ行ったんだ。
「いーよいーよ、あーし歴史トクイだもん」
「意外……ああいや、すまんな」
こんな話をしながらも、周囲の索敵はしっかりしている。
やはり魔物の気配はない。
「ハハカタのじーちゃんが歴史好きでさー。一緒にジダイゲキとか見てたからね」
「……四国の?」
「んーん、ママはホンシュー出身。だからじーちゃんもばーちゃんも元気だよ」
「そうか、それはよかった……む」
――何かの、違和感。
「まり、俺の後ろに」
「あっはい~!」
特に変わった様子はない。
それどころか、寝具エリアは終わり……向かう先に終点、屋上へ続く階段が見える。
非常階段へ続くドアもだ。
だが、確かに何かの違和感がある。
鼻に感じる臭気は……消臭しても消えない、わずかな体臭。
……この先に、『人間』が潜んでいる。
「まり……クロスボウはいい、盾をいつでも構えられるようにしておけ」
「う、うん……」
そう言いつつ、歩く。
右手にピックを握り、不意の接敵に対応できるように。
こうなってみると、カロリーバーを3人前食っておいてよかった……何が起こっても対応できる。
「――待ってたよ。来るのが早いな、アンタ」
しばらく歩いていると、前方から声がした。
何か、機械のようなもので変声されているが……恐らく男。
前方と言うよりも……屋上への階段、そのここから見えない部分だ。
音もなく、黒い影が上から降りて来た。
「南門原だな」
そいつは、全身を黒いプロテクターで覆った……俺と同じくらいの背格好の人間だった。
頭部には、軍隊が使うようなフルフェイス型のヘルメット。
一瞬『お仲間の改造人間』かと思ったが、どうやら違うようだ。
「だったらどうする? 何か用か?」
俺が答えた瞬間、男の手に光が集まる。
一瞬の閃光の後、その手には……日本刀が握られていた。
蒼白い刃を持った、長い日本刀だ。
特殊能力を持った武器を召喚するスキル……『武器術』か。
「いやなに、難しい話じゃない……このまま私と一緒にダンジョンを出て、そのまま支所に行ってほしいだけだ」
こいつ……
「……豊平の『紐付き』か」
「話が早いな、そういうことだ。有能なお仲間をどうしても引き入れたいらしい……おとなしくついて来れば、死なずに済むぞ」
なるほどな……てっきりしつこい勧誘だけかと思っていたら、こんな手段も取ってくるとはな。
「なんでまた、あんなハゲに使われているんだ?」
「使われているのとは少し違うな。アイツ、金払いだけはいいんだ……私のような『強い』探索者には」
公務員の癖に、ピンハネでもして私腹を肥やしてるのか?
……いや、待てよ?
「……そうか、そういうことか」
足を肩幅に開く。
「悪いが、『強盗』の片棒を担ぐような連中に飼われる気はない」
チンピラが自主的にやっているのもあるだろうが、いくつかは豊平が『させて』いたのかもしれん。
全て状況証拠どころか、俺の妄想だがまあ……目の前に探索者を攻撃することを厭わない『実行犯』がいるからな。
「残念だよ」
――ぷしゅ、と音。
俺の首に、猛獣に使うような麻酔弾らしき針が――突き立つ前に、右手で掴んだ。
掴んだ瞬間、ソレから紫色の煙が噴出する。
「くろー!?」
「掴んだのは流石の反射神経だが、そこまでだ。そいつにはゴブリン・チャンピオンも失神する麻酔が込められている……支所まで眠ってもらおうか」
煙の中で、麻酔弾を握り潰して放り捨てる。
左手を腰に、右手を前に。
指を曲げ、カギ爪で空間を引き裂くように――右手を躍らせる。
『α』と。
「あまり俺を舐めるなよ……着、甲ォッ!!」




