第18話 改造人間、『マトモ』な同業者とシャブる。
――スキル『検査阻害』
これは、読んで字のごとく……スキル検査を阻害するスキルだ。
探索者のスキルは、本人が希望しない限り『公的機関』は検査できない。
だが、個々人で『鑑定』や『看破』などのスキルを持っている誰かが勝手に調べることもある。
この指輪には、それを阻害するスキルが搭載されている。
しかも(大)ということは……効果もかなり高い。
「……高い」
こんな世界なので、奥の手は隠しておきたいという探索者は多い。
その需要も込みなのか……指輪の鑑定書に書かれていた値段は『1つ20万円』という破格だった。
「あ、これあーしらで使うんでもらいま~」
どう言ったものか、と少し考え込んでいたら……まりが俺を見て微笑みつつそう言っていた。
「お前……」
「オソロ! オソロの指輪なんか超アガんじゃ~ん? あーしらパーティのケッソク高まるよ~!」
……コイツは、俺がスキルをずっと隠していると知っている。
だがここではそれを言わず、軽いノリで買い取りを拒否したのだ。
これは……してやられたな。
すまないまり、俺はお前を大分アホだと思っていた。
「……というわけで、こちらで使う。それ以外は売るが」
「かしこまりました、それではそのように処理いたします」
戸河内が頭を下げる横で、豊平が口を開いた。
「いやあ、まさか地上2階もあっけなく踏破されるとは! 将来有望なお2人ですな~!」
相も変わらずヨイショから入るのか……だが、その目は祝福以外の色でギラギラと輝いている。
おそらく俺が大量の荷物を運ぶところも見られているし……『逃がすものか!』とでも言いそうだ、目が。
「ところで南門原さん、以前お話した受講の件ですがぁ……お考えいただきましたか?」
そらきた。
是が非でも俺達を『紐付き』にしたいらしい。
「申し訳ありません、ガリーファロの攻略途中でして……そこが終われば、また考えたいと思っております。あと1階ですので、どうかお待ちいただきたい」
「そうですな! それは仕方ありませんねぇ……お気になさらず!」
とは言うものの、その目は『早くしろボケ!』とでも言うような色に満ちている。
『紐付き』が多少増えた所で早く出世できるわけでもなかろうに……
……あ、ひょっとすると政府からの『依頼』をバンバンやらせるつもりなのかもしれんな。
専属になると基本的に拒否できないようだから……
「わざわざ言っていただきましたのに……すみません」
「いいえ、いいえ。では! 私はコレで! 後は頼むよ、戸河内クン!」
「……はい」
豊平は戸河内の肩を叩き、部屋から出て行った。
「……ッチ!」
彼女が舌打ちだと!?
……よほと腹に据えかねてるようだな。
「……ねえねえミドちゃんさあ、セクハラ相談とかしないん? 今の絶対ダメっしょ」
「……彼のすることは主に視姦と肩に触る程度です。不快で不快で不快で仕方がありませんが、訴えるには弱いので……」
普段は冷静沈着な彼女も、いつになく嫌そうな顔で吐き捨てた。
まりのあだ名を訂正すらしていない……
「南門原さん、貴方たちの動向を彼に漏らしている職員がいるようです……勿論、私ではありませんが」
「なるほど……ソイツから連絡を受けてワザワザ来たってことか……休みなのに大したもんだ、そんなに出世したいかね」
そう言うと、戸河内はしばらく黙った。
それから周囲の気配を探るような様子を見せて……口を開く。
「……少し、違います」
え、違うのか?
あんなに露骨に勧誘していたのに……
「彼は、4年前まで『特区庁』の帝都本部勤務でしたが……」
さらに声を潜め、彼女は言う。
「――パラハラとセクハラの内部告発で、降格人事となっています。出世というよりも、『古巣』に戻りたいのかと」
この国の首都は東京の場所にあるが、こっちの日本では『帝都』と呼ばれている。
そうか、あのハゲは『都落ち』してここに……
いかに『第二帝都』の豊栄府と言えど、一度頂点を経験したから戻りたいってわけか……クソだな。
「うぇ~、マジ? きっしょ……でもさ、そんだけやったのに戻れんの?」
「訓告でも是正されず、結局降格人事なので私も不可能だとは思うのですが……彼自身『だけ』はそう信じております」
この世界も、コンプライアンスに厳しいらしい。
パワハラセクハラで降格されたのに、何故戻れると思ったのか。
「めんどくっさ~……あーしら、メンドイのに目つけられたね、くろー……」
「あの様子だとじきに焦れて勝手に動き出しそうだ……気を配っておこう」
そこまで言って、戸河内へ目を向ける。
「そっちは大丈夫なのか?」
俺達が『紐付き』にならんと迷惑がかかるかもしれん。
「ご安心を。いざとなればなんとでもなりますので……南門原さんには再三検査を勧めましたが、今となってはされなくてよかったですね……」
確かにな。
元から誰に言われてもする気はないが。
「……これは私の独り言ですが、ガリーファロを完全踏破した後はしばらく拝山地区を離れるか……どこかのパーティに『助っ人』として参加することが望ましいでしょうね」
それだけ言い、戸河内は立ち上がって部屋を出て行った。
……ありがたいな。
「ミドちゃんあんがと~!」
「みどりです」
おや、調子が戻ったようだ。
「飯でも食って帰ろうか……なんだ?」
まりが俺に手を差し出している。
「指輪! 指輪はめてよ~!」
「自分でやればいいだろうに……はいはい」
指輪はどちらも同じサイズだ。
ええと……右手の中指あたりでいいか。
何故左手を出すんだ。
「こっちにしておけ」
「んぎぎぎ~! 力つえ~! んも~!」
抵抗するまりの右手中指に指輪をはめ、俺も同じ場所へ。
……どう見てもサイズが合っていないと思うが、はめた瞬間にはピッタリだな。
さすが『恩寵品』といったところか。
「ところで2階踏破記念だ、焼肉でも行くか?」
「しゃぶしゃぶの気分だし!」
いいな。
ポン酢で食う豚肉は最高だからな!
・・☆・・
「おー、南門原じゃないか」
駅の近所にある、少し高級な食べ放題のしゃぶしゃぶチェーン。
そこに入店しようとしたら、後ろから声をかけられた。
「瀬戸……と、お仲間か」
顔なじみの瀬戸と、男女が1人ずつ。
男の方は瀬戸と同じようなガッシリ体形で、女性はすらりと背が高い。
「くろー、友達?」
「宿泊所で知り合った探索者だな」
スマホを見ていたまりが振り向く。
「南門原も打ち上げか?」
「ああ、地上2階踏破記念にな」
瀬戸はそれを聞いて笑った。
「マジかよ、また1日でか! そりゃめでたいな……よければ一緒にどうだ?」
「邪魔でなければいいが……まりは?」
まりの方は問題なさそうで、ニコニコ頷いている。
「だいじょぶ~!」
さすがのコミュ力だ。
初対面の連中にも物怖じしていない。
俺の方も……瀬戸は別に変な奴じゃないからな、大丈夫だ。
「改めて自己紹介しとくか。瀬戸大也だ」
席につき、コースの注文をタブレットで済ませる。
それから飲み物などをまず注文して……瀬戸が口を開いた。
「東条猛だ、よろしく」
瀬戸の横にいる男が言った。
コイツも近接系のスキル持ちだろうな……かなり筋肉質な男だ。
スキンヘッドで、瀬戸よりもさらにゴツい。
「新庄真紀です、よろしくお願いします!」
スレンダーでセミロングの女性が言う。
鍛えているが、近接系というより……遠距離系かもしれん。
「南門原九朗だ、よろしく」
「水分まりっす! よろしくおねしゃー!」
『お待たせしましたワン!』
それぞれの自己紹介が終わった頃、犬型配膳ロボが鍋スープと飲み物を持って来た。
早いな……そしてこの犬ロボ型にはまだ慣れないな……
「じゃ、カンパイだな!」
瀬戸の音頭で、それぞれのジョッキを持って乾杯した。
まりはジンジャーエール、俺はハイボールだ。
飲んでも飲んでも一切酔えない改造人間の体だが、味が好きなんだ。
「――で、あの話考えてくれたか?」
煮えた豆腐を取り出しながら、瀬戸が言う。
鍋スープ、鶏がら出汁は初めて試したが美味いな……つくづく、舌はマトモでよかった。
「ああ、そっちさえよければガリーファロの踏破後にお願いしたい」
「おおマジか? ありがたいが……また急な話だな? 心境の変化か?」
東条は黙々と肉を頬張り、新庄はまりと話し込んでいる。
まだ会ってから20分くらいだと言うのに、打ち解けるのが早いな……今は新庄のペットのトカゲのことで盛り上がっているようだ。
ギャルのコミュ力は侮れない。
「拝山の支所長がやかましくってな。しばらく離れるかどこかのパーティで……と、考えていた」
そこまで言うと、瀬戸が納得した顔をする。
「あーあー、『都落ちハゲ』な。やっぱりお前も被害に遭ったかよ……」
「……俺の知り合いも散々声をかけられたからな」
肉を飲み込んだ東条が、うんざりしたような顔で頷いた。
「あのハゲ、随分と有名なんだな?」
「そりゃあもう……ひっでえぞ?」
コークハイを一気に飲み干して、瀬戸の話が始まった。




