第17話 改造人間、地上2階を踏破する。
「あった~! くろー! ここ! シャツの山に埋まってたし!」
「よく見つけたな……」
ガーディアンの群れを撃退し、それからさらにもう1団体も壊滅させた。
戦利品を回収していると、まりが嬉しそうに持ち上げたのは……『恩寵品』の箱だった。
「開けよ開けよ、早く~!」
「ああ、わかった」
さすがに地上2階ともなると、人影もない。
それなりのスキルか、多人数パーティでもないとガーディアンの相手はキツいだろうからな……
ここに至って、魔物もそれなりに強くなってきたが……俺の方はまだまだ問題ない。
やはり、改造人間は特撮の主役だけあってかなり強靭に作られているらしい。
改造前の状態でこの世界に来なかっただけは救い……でもないな?
その場合はすんなり戸籍カードも取得できただろうに……ないものねだり、か。
「どしたん~?」
「ああ、すまん。それじゃ開けるぞ」
顔を覗き込んできたまりに驚きつつ、箱を開ける。
こいつ、距離が近すぎる……さぞ同級生の男子は悶々としているだろうな。
蓋をずらし、見えた中身は……
「わ、指輪じゃ~ん! シンプルだけど結構かーいーね!」
「数は……2つか」
中に入っていたのは、黄色い宝石が嵌まったシンプルな指輪だった。
2つとも造形に差はない……何か、ペアで使うものか?
「このまま、布に包んで持っていこうか。使うにせよ売るにせよ、鑑定が先だ……呪いがかかっている場合もあると聞くからな」
「うぇえ~……こっわ、了解だし!」
少し嵌めたそうな顔をしていたまりが、何故か俺の背中に隠れる。
装備しなければ大丈夫だぞ?
指輪を綺麗な布で包み、コートの内ポケットへ入れる。
腐っても宝飾品だ、それなりの値段にはなるだろうさ。
「よし行こう、階段まではもうすぐのはずだ」
「っしゃ! 頑張るよ~……あんさあ、そんなに持ってだいじょぶ?」
喜んだまりは、俺が6枚重ねたガーディアンの盾を担ぐのを見てすぐさま心配そうにした。
コロコロ表情が変わって、中々におもしろい。
「問題ない。試したことはないが、中型トラックくらいの重量でも余裕だ」
「パないし……引っ越し屋さんで働けそだね、くろー」
残念ながら戸籍がないので就労できない。
本当に残念無念だ。
・・☆・・
「くろー! 階段! アレ階段ッ!」
「大丈夫だ、俺にも見えている」
その後、もう1団体のガーディアンを壊滅させた。
担ぐ盾の総数は9枚になったが、問題ない。
そして……通路の先に、上へ続く階段と……その横に非常口が見えた。
ついに、地上2階も踏破か。
やはり『初級』だけあって広さはそれほどでもない。
『上級』のダンジョンはこんなもんじゃなく……1階層の踏破に1週間程度かかることもザラだというからな。
そんなわけで、喜びつつもしっかりクロスボウを持つまりと一緒に通路を進む。
文房具エリアでいいメモ帳とペンが回収できたので、俺も地味に嬉しい。
これで日記でもつけてみるかな……ぬ。
「止まれ、何か来る」
「うん!」
即座に停止し、俺の後方へと下がるまり。
俺が目を向けた時には、既に初弾がクロスボウに装填されている。
うん、油断はないな……本当にいい仲間だよ。
担いでいた盾と、戦利品満載のザックを下ろす。
金属が通路の床に擦れる音がした時には……視界に変化があった。
「えっえっ、なんかあーしの目おかしくなった!?」
「違う、丁度魔物が湧く瞬間だ」
通路の先の空間が、じわりと歪んでいる。
後方の景色が、万華鏡のように回って……『異物』が見えた。
「大きい……これは噂に聞く『守り人』か!」
空間の歪みは、ガーディアンよりも……ゴブリン・チャンピオンよりも大きい。
これは……ダンジョンの一定階層以上に発生することがある、魔物。
そいつを倒さなければ次の階層に進めないことから、『守り人』と呼称される存在だ。
「まり、距離を取って援護!」
「がってん!」
さらにまりの足音が遠ざかる中、歪みの中心から魔物が出てくる。
全長は2メートルを超えている。
先程のガーディアンよりもさらに重厚で造詣が細かい。
全身鎧だから判断が難しいが……兜の隙間から白い骨が見えた。
「『スケルトン・ウォリアー』……」
ガーディアンよりも上位の存在だ。
大盾を左手に持ち、右手には……分厚く長い大剣を握っている。
ヤツを倒せばこの階層は終わりだ、出し惜しみはしない!
「こぉお……!」
左手の拳を握り、腰に引き付ける。
同時に、右手で空中に文字を描く……『α』と!
「――着甲ッッ!」
プロテクターの上に装甲が展開し、頭部を包み込む。
騒がしくなる人造心臓の拍動……もうエンジンのようなそれを聞きつつ、ウォリアーに向かって構える。
『さあ来い、骨格標本の親玉!』
地面を踏み切って、跳ぶ。
斜めの軌道で飛んだ俺は――空中で蹴りのポーズを取る。
『ブーストッ!!』
背中側にある装甲の吸気口から、圧縮した空気が激しく放出される。
踏み切った勢いと、その噴射力で――加速!
『『エレクトロ』ォオオオオオオオオッ!』
突き出した右足の装甲に変化。
装甲が裏返り、電極がむき出しになる。
俺を視認して、予想位置に盾を構えるウォリアー。
おもしろい! 俺の力が通じるか……勝負だ! 骨格標本!!
加速した蹴りが、盾に直撃して轟音を立てる。
少ししか歪まない……! 硬いな! ならばッ!
『――『ブラスト』ォォオオオオッ!!』
盾に接触している足経由で、高圧電流がウォーリアに叩きこまれる。
途端に盾から圧力が消滅し、そのまま弾き飛ばす。
大盾は、ウォーリアの手を勢いよく離れた。
『っふ!』
着地した俺の前で、ウォーリアががくがくと痙攣している。
電気の効果は骨にも抜群なようだな……ならコイツで!
『『ハイ・ヴォルト』!』
踏み切って突っ込む。
痙攣するウォーリアが、大剣をヨロヨロと振り上げるが――遅い!
『――『ナックル』ッ!』
まずは右拳をウォーリアの胸に!
『『ツイン・ブラスト』ぉおッ!!』
続けて、左手を叩き込む!
ウォーリアの痙攣が一層激しさを増す。
両拳の電撃を同時に叩き込む!
『うぅうおおおおあああああああああああああああああああッ!!』
臓腑に埋め込まれた発電機が唸りを上げ、鎧経由でさらに電気を送り込み続ける。
ウォーリアの痙攣はしばらく激しくなり……それから、急に止まった。
相手は骨だけなのに、何故か肉の焼けるような異臭が鼻を突く。
『……よし!』
電撃を止めると、ウォーリアは煙を噴き上げながら前のめりに倒れ込む。
もう動く様子はないが……念のため!
『っふ!』
地面を踏み切り、跳ぶ。
改造された脚力で、目測5メートルほどの距離から……そのまま落下。
落下点にあったウォーリアの後頭部に、両足で蹴りをぶち込んだ。
どうやら鎧は盾ほど頑丈ではなかったらしく、兜は足によって破壊。
中身の頭蓋骨もまた、骨片となった。
これは……どう考えても死んだ、な。
「やーった! くろーってばすんげ! エッグ! かっけ~!!」
目を輝かせたまりが、スキップしながら寄ってきた。
「ダイキンボシってやつだね! くろー!」
変身を解除……技を連発したからいつもより疲れたな。
この感じだと、変身せずとも対応はできたな。
さすが、改造人間……フィクション作品で主役が張れるわけだ。
スペック表は頭に入っているが、やはり実践しなければわからんことも多い。
「ああ、今までで一番の大物だからな……盾と魔石、それにどうせだから大剣に鎧も持っていこうか」
「いっくらになんのかな~♪ んじゃ、くろーは盾よろしく! あーしは他のモン拾うし~!」
魔石だけにしておけ……腰が爆発するぞ。
・・☆・・
「なーんか、超目立ってんし」
「まあ、ソレは仕方ないな」
地上2階を脱出し、支所まで戻る。
まだ何人もいる同業者だちが、主に俺を見ていた。
俺は、ガーディアンの盾を9枚とウォーリアーの大盾を1枚。
それから、紐で結んだ鎧と大剣をまとめて背負っている。
ちょっとした山みたいな状態になっているな。
まりの方には、計20個の魔石だけを持たせてある。
「お戻りですか……今回も随分と戦われたようで」
受付で戸河内が眼鏡越しに目を丸くしている。
「すまない、買取をお願いしたい……個室で」
「承知しました、8番の部屋にどうぞ」
「くろー! あっこあっこ! がんばって~!」
先にまりが走っていく。
個室は2階にもあるが……1階でよかった。
「たいへん、お待たせしました……」
心底面倒臭そうな顔で、戸河内さんが帰ってきた。
……ああ、後ろに恵比須顔の豊平がいる。
もらったカレンダーでは出勤日ではなかったはずだが……
「まずは、領収証と鑑定書を」
指輪以外は全て買い取りをお願いしたので、書類の他には寂しいものだ。
なになに……ほう。
「うお~、たっけ~!」
まりが横から見て喜んでいる。
ガーディアンの盾は、やはり1万円の買取で9万円、魔石は全部で4万5千円。
そしてウォーリアの盾が10万円、鎧が5万円、魔石が2万円、剣が5万円だ。
スキルはないようだが、盾も鎧もかなり頑丈らしい。
ソルジャーの剣と魔石が、合計で4万円。
全部ひっくるめて、39万5千円……か。
中々いい稼ぎだな。
俺はそこらへんのダンプくらいは持って帰れるから、稼ぎもいい。
本当なら複数人で分担する量だからな、今回の獲物。
そして、出た指輪の鑑定書は……なにッ!?
――そこには、こう書かれていた。
『スキル『検査阻害(大)』』
……と。




