第16話 改造人間、地上2階を行く。
「わ~! すっご! くろー! 服がいっぱい~!!」
「ああ、そうだな」
非常階段から入場し、本来の階段を上がる。
そしてたどり着いた『ガリーファロ拝山』の2階部分は……ちょうど、婦人服エリアだった。
体育館のような広大な空間に、整然と婦人服が列を作っている。
「これは持って帰っていーんだよね?」
「いいが……そんなに欲しいか?」
ダンジョン内の物品は、壊れたり、なくなったりすると修復もしくは補填される。
『階層に到達した探索者』なら、持って帰っても問題にはならない。
ダンジョン黎明期には、特に諸外国の貧しい地域で生活用品が持ち帰られたそうだ。
だが、わけのわからんルールもあり……持ち帰った電化製品だけは何をしても絶対に動かない。
『物凄く精巧につくられた偽物』のような状態になっているのだという。
ダンジョンの神様は電化製品に親を殺されたようだ。
蛍光灯は問題なく動いているのにな。
「普通の服だし、ここがダンジョンになった時の流行品だぞ? 俺は疎いが……まりなら困るんじゃないのか?」
「あーそっか~……化粧品は毒があるし、やっぱやめとこ」
そもそも、探索者は儲かる。
服や物品を回収するくらいなら、1匹でも多く魔物を狩って、その上で『買えば』いい。
持ち帰れる総量にも限りはあるしな。
わざわざ二束三文の、普通の服を回収しても意味がない。
高級ブティックなら別だろうが。
「さて、ここに出る魔物は予習してきたか?」
「ホネとホネと強いホネ!」
「……まあ、間違いじゃない」
ガリーファロの2階は、スケルトン系しか出ない。
普通のスケルトン、それとスケルトン・ソルジャー……
「『スケルトン・ガーディアン』だ。大きな盾を持った防御主体のスケルトンだな」
「そうそれ!」
スケルトン・ガーディアンは守りが硬い。
ソイツが全面、ソルジャーたちがその後ろという布陣で襲ってくる。
鎧をガッシリ着込み、兜まで被っている。
「これからの戦術だが……まりはクロスボウ主体で援護を頼む。ガーディアンは俺が無効化するから、周囲を見て動いてくれ」
「まかしといて! ボルトもむっちゃ買ったからバンバン撃つし!」
まりのプロテクターの腰には、ボルト用のパックが一周するように装備されている。
保有本数は全部で200本……結構な重さだが、『身体強化』の育っている彼女なら問題なさそうだ。
「よし、行くか。死角に気を付けろよ」
「がってん~!」
そして、地上2階に足を踏み入れた。
「――ぬぅあッ!!」
踏み込んだ勢いを乗せ、ピックを振る。
先端の部分が火花を散らして――盾に食い込み、破壊。
そのまま、それを構えていたガーディアンの胴鎧に食い込む。
インパクトの衝撃で、両腕が胴体から外れた。
「ふんッ!!」
倒れ込むガーディアンの頭を踏み折り、ピックを死体から引き抜いた。
「ドンピシャ、だし~!」
俺の前方で剣を構えるソルジャー。
その右の眼窩にボルトが命中し、後頭部から貫通した。
しばらく立ったままだったソルジャーは、糸の切れた人形のように後ろへ倒れ込んだ。
「最後だな、よくやった!」
「へっへへ、あーしってソゲキの才能あっかも!」
喜ぶまりの声を聞きつつ、周囲を見回す。
そこには、盾を破壊されたガーディアンの死体が散らばっている。
全部で3匹に、ソルジャーが4匹か。
「しかし……戦い方を変えるか……?」
「なんで~? 別にクセンしてなかったじゃん?」
「そこは問題じゃない」
ガーディアンの盾は、どれも見事に穴が開いている。
一般探索者には手こずる硬度だろうが、改造人間の俺には少し硬いベニヤ板のようなもんだった。
問題はそこではなく……
「これだと売る時に困る。ガーディアンの盾は1枚で1万円なんだが……」
「あー、ベッコベコだもんねえ。運ぶのにも場所取るし」
そうなんだ。
ピックで破壊すると盾は歪み、破損する。
この盾も、盾としてではなく含まれている鉱物が貴重だから売る分には問題ないんだが……まとめて持つ時に少し困るな。
「今度からは蹴り剥がすか、その方がいい」
「くろーなら余裕っしょ」
そう言うまりも、どんどん射撃の腕が上がっている。
この分なら、ゆくゆくはもっと強いクロスボウに代えてもいいかもしれんな。
「クロスボウは大変か? 装填の引きはどうだ?」
「ぜーんぜん、なんかちょい硬い輪ゴムって感じ?」
やはり、『身体強化』の影響か。
「いい援護だった、助かったよ」
「んへへ~、なーんか照れるし!」
ガーディアンは兜があるから面倒臭いが、ソルジャーには問題なくボルトは通用する。
百発百中とはいかないが、数をこなせばもっと上達するだろう。
「魔石と剣を拾って次に行くか」
「だね! あ、でもヨロイはいいの?」
「殴ってわかったが、ガーディアンの鎧は骨と癒着している。剥がすのが面倒だ」
「うぇ~……そっかそっか。そいじゃ、あーしはマセキ取るし!」
この鎧も売れるらしいが、無理をして金を稼ぐほど困窮はしていない。
それよりも、今は先に行くことが重要だ。
・・☆・・
「シンシ服はあんま流行りとかないからいいよね~」
「まあ、スーツ一着あればいいというくらいだ」
地上2階、セーフゾーン。
それは、この世界で有名らしいドーナッツチェーン、『ミスバ』のフードコートだった。
ちなみに『ミスター・バーンズ』の略らしい。
そこの一角にまりと腰を下ろし、前方に見える紳士服エリアを見物している。
しかしまあ、広大になった関係で恐ろしい数の吊るしスーツの海だな。
下と違って視認性が悪くて地味に困る。
現在時刻は4時55分……いいペースだ。
この階層も今日中に踏破できるかもしれん。
まりにも疲れた様子はない……いや、何か悲しそうだな?
「どうした?」
「いーにおいがすんのに食えないのがヤ~……」
ああ、陳列されているドーナツか。
セーフゾーンという名前だから食品もセーフでいてほしいが……ダンジョンの神はそれほど甘くないらしい。
「ドーナツの大人買いが楽勝でできるくらいは稼いでるんだ、出たら食えばいい……ホラ」
備蓄のカロリーバーを渡す。
「う~……うれしーけどこれカロリー……」
ダンジョン攻略なんて運動をしているんだから気にしなくてもいいと思うが……
だが、この話題について踏み込む気はない。
ウチのおふくろも親父に『太ってないのに気にしなくても……』って言われてプンプン怒ってたからな。
言及しないに限る。
「安心しろ、これはレディース用のダイエットバーだ。主成分は大豆だからヘルシーだぞ」
「それマ!? くろー、あーしのために買ってくれてたん!?」
「当たり前だろう、パーティなんだから」
まりは目を輝かせてバー(苺ミルク味)を受け取り、すぐさま口へ運んだ。
「ん~! 甘くてうまーい! くろーってば最高~!」
「どういたしまして」
俺は体が改造されてからどうも感情の振れ幅が少ない分、まりの天真爛漫さを見ていると癒される気がする。
見ていて面白い、というのは言わない方がいいだろうが。
怒られそうだし。
「んぐんぐ……えっと、あのエリア超えたら階段だっけ?」
「その先に文房具エリアが少しあるがな。概ね間違いじゃない」
「あ、丁度いいからペンもってこ。今使ってんの折れちゃったから」
まあ、その程度なら荷物にはならんな。
……俺も、メモ帳の1冊でも調達しようか。
スマホ、持てないし……
「来るぞ、柱の影!」
「後ろにはいないから、ここでエンゴするし!」
休憩を終えてセーフゾーンを出て、歩くこと数分。
紳士向けズボンエリアの辺りから、鎧が鳴る音が響いてきた。
向こうもこちらを認識したのか、俺達のいる広い通路に踊り出る……盾!
「ガーディアンばかりか、やりやすいな……ある意味!」
1匹目が来るのを待って、踏み込む。
ここのガーディアンは武器を持っておらず、両手で盾を握って攻撃に使ってくる。
だから攻撃せず、俺に向かって横薙ぎに盾を振るまで待って――
「――ぜやッ!!」
寸前で俺が避けたため、空振りになった盾を……握っている手を蹴り抜く!
手首が粉砕され、蹴りの勢いを耐えきれなかった盾がその手を離れた。
「ぬぅあッ!」
ピックを振るい、兜ごと中身を粉砕。
勢いよく倒れたガーディアンは、そのまま死んだ。
……よし、この戦い方がいいな。
新たにこちらへ来たガーディアンが、シールドバッシュの体勢に入る。
この角度だと蹴り剥がせないな……なら!
「ふんッ!」
シールドバッシュを両手で受け止め――盾の上部をそのまま掴む!
「おうりゃぁッ!!」
握ったままの盾を――振り回す!
持っていたガーディアンがぶん回され、続けて来た新手たちを巻き込んで地面に引き倒す。
盾を手元に引き付けると、ガーディアンの両腕が引き千切れた。
……これがいいかもな、この先は。
どうやら俺の両手は、こいつらのシールドバッシュではビクともしないらしい。
地面に倒れたままのガーディアン達の頭を踏み折り、無力化。
残りの1匹は――
「やったし~!」
まりの放ったボルトが兜のスリットに入り、内部を破壊したようだ。
ズボン棚を巻き込んで、そいつは前のめりに倒れ込む。
おお……あの隙間を狙撃か。
まりはやっぱり、射手が向いているのかもしれんな。




