第15話 改造人間、ギャルに囲まれる。
「お、今日はダンジョンに行かんのか南門原」
「ああ、買い物の予定がある」
豊平に名刺を貰った翌日の朝、食堂に行くと瀬戸がいた。
「そういえばお前さんのパーティメンバー、随分とかわいこちゃんのようだな」
「……耳が早いな」
噂ってのはすぐに回るな、本当に。
「いくら『初級』とはいえ、派手に稼いでるからそりゃあ目立つよ」
「そうか」
恐らく、『特区庁』の内部の誰かが情報を流しているな。
公務員の職業倫理とか服務規定はどこに行ったんだよ。
「いいねえ、女で腕が立つ探索者は貴重だぜ?」
味噌汁を白飯にぶっかけ、かき込む瀬戸。
俺もそうやって食っているが、これで4杯目だ。
「でもよ、大丈夫か? 『初級』はかわいこちゃんにはちと辛いぜ……民度が」
「何回か襲撃されたが、まあ……『説得』でわかってくれたよ」
言葉の裏に気付いたのか、瀬戸が歯を見せて笑う。
「ソツなくやりやがるな……あのよ、ガリーファロ踏破したらやっぱ手伝ってくれ」
「……苦戦しているのか?」
たしか、マンション型のダンジョンに潜っていたはずだが。
「今は10階層で……死ぬほどじゃないが、ジリ貧だな。前衛の突破力が足りねえ……腕の立つ奴がもう何人か欲しいんだよ」
「なるほどな……ともかく、ガリーファロを踏破してからだな」
瀬戸は知っているが、他のパーティメンバーは知らない。
慎重にならねば。
「わーってるって。こっちは低階層で安全に金稼いでるよ……ウチとこはいいぞ、男女混合だがギスギスしてねえしな」
「それはいいな」
パーティが解散する理由はまず第一が『誰か死ぬ』
そして、おそらくその次が人間関係……もしくは『男女間のもつれ』になるからな。
「男は俺以外全員嫁さんがいるし、女も変な連中じゃない。お前さんがナンパでもしなけりゃ安全だ」
「金もないのに女を口説けるかよ」
ここへ来てからほぼ毎日稼いでいるのでそれなりにあるが、一生遊んで暮らせるほどではない。
馬鹿正直に開示するまでもないだろう。
「はっはっは! 違いねえ! それじゃ、考えといてくれよ」
白米を味噌汁で流し込み、瀬戸は手早く去って行った。
……まあ、一度は組んでみるのもありかもしれん。
『変身』を開示できるかはまた別の問題だが。
『出自』?
そいつはまりに無理だ。
「まあ、とにかくまずはガリーファロだな」
沢庵を齧り、そう独りごちた。
・・☆・・
「ハラダの馬鹿まだ来てないのウケる~!」
「なんかさ、入れ歯になったらしーよ? ウチの兄貴がハラダの親父とおんなじ会社だからさ、昨日聞いた!」
「ふひゃひゃひゃ! 入れ歯!? 高校生で入れ歯~!? マジかよぶははははは!!」
女三人寄れば姦しい、とはまさにこのことか。
『迷宮商会』近くの喫茶店で、ピザトーストを齧りながら考えている。
時刻は夕方の6時。
早目の夕食というか……なんだろう、遅めのオヤツか?
4時に駅でまり、サッコ、ユッコと合流して、まずは『迷宮商会』へ。
そこで買い物を済ませ、解散するにはまだ早いとここ……全国チェーンの喫茶店、『マエダ珈琲』でだべっている。
女子高生に囲まれて、なんとも居心地が悪い。
それと、例の男はやはり強く殴り過ぎたようだ。
まあ、失ったものが歯だけなのでこれで懲りて欲しい所だな。
もう一度襲ってきたら、今度失うのは『命』になる。
「そーそー、くろーもカッコいいプロテクター買ったし、今日はいい買い物できたね~」
「ああ、そうだな」
俺は買い物をする予定はなかったが、まりに言われたんだ。
『強いのはわかってんけど、私服はナメられるんじゃね?』と。
たしかに、俺は自前の改造皮膚のお陰で防具を買う必要がない。
それに、変身すればより強靭になる。
だが……外から見れば、俺はロングコートに私服でダンジョンに潜る男だ。
まりの言うように、外見で舐められる。
今までの襲撃者も、おそらくそのせいで襲い掛かって来ていたんだな……今更ながら気付いた。
よって、女子高生3人にああでもないこうでもない、色が悪い形が悪いなどと言われつつ……着せ替え改造人間と化した。
まりはクロスボウ用の固定装具とボルト入れを即買いしたので、だいたい1時間は俺の防具選びに費やされることになったのだ。
そこそこの防御力を持つ、灰色のプロテクター……まりが『色がオソロだし!』だと喜んでいた。
まあ、変身すれば関係ないが……これで俺も一応格好がついたな。
「くろーさん、シュッとしてっからなんでも似合うよね~!」
サッコ……黒髪でピアスジャラジャラ女が笑う。
あ、今気付いたが舌にも開けているな……飯食う時に困らんのか?
「しかも強いかんね! まりってばいいナカマ見つけたじゃん!」
金髪巻き毛のユッコも笑っている。
この2人にはハラダたちがビンタで吹き飛んだ話は伝わっているからな。
「へへへ、2人にも見せたかったし! ハラダが歯ァまき散らしてギュンって横回転すんの! ダンジョンでスマホ使えたらゼッタイ動画撮ってクロスに流すのにな~!」
この世界で一番のシェアを誇っているらしいSNSか。
俺はスマホが持てないので、伝聞でしか知らん。
俺としてはダンジョン内で電子機器が使えないのは大歓迎だ。
変身姿を撮影されなくて済んでいるからな。
「万バズはカタいっしょ~! 聞いてるだけでおもしれーもん! ぎゃはは!」
しかしサッコは笑いのハードルが低いな……
漫才でも見たら笑い死にするんじゃないのか。
「ね、ね、くろーさん。ぶっちゃけどれくらい儲かってんの~?」
ユッコが興味津々で聞いてくる。
「きのーで100万稼いだし! ね、くろ~?」
「……まあ、な」
周囲に視線を飛ばしたが、周辺の席には客も店員もいない。
まり、一応周囲は見えてるようだな……
「マッジ!? すげーじゃん探索者……いいな~!」
「駄目駄目、あーしら2人は強スキル持ってねえかんね。潜ったら死ぬだけだし」
ユッコに比べ、サッコは現実的だな。
この世界では、学校教育の一環として希望者にはダンジョンへの適正に対する検査が受けられる。
2人はそれで知ったんだろうな。
「ウチが『精密作業』で、ユッコは……なんだっけ?」
「『毒物耐性』、しかもアルコール限定……キャバ嬢にでもなれってか~?」
戦闘向きじゃないが、それでも何もないよりはいいじゃないか。
この世界、結構『スキルなし』って人間がいるらしいし。
ダンジョンに潜って戦い続ければ、後天的に発生したりスキルオーブなどの手段で後付けもできるが。
まあ、戦闘に向いていない場合はそこに行くまでに死ぬかもしれんが。
「サッコはいーよね、彫金師になるんしょ?」
「なれたら、ね。今も片手間で仕事はうけてっけど……この世界もきびしーし」
ああ、アクセサリー関係の仕事か。
なるほど、『精密作業』向きだな。
「あーしはくろーと『エリクサー』見つけっから! お金もそりゃ欲しいけど、まずはポーションかな~?」
「そうだな、それを目指そう」
ざっと調べたり聞いたりしたが、ポーション系の『恩寵品』はどうやら『中級』以上のダンジョンか……一部の特化したダンジョンでしか出ないらしい。
効果の弱いものでも、オークションの最低価格は2~30万から。
飲むだけで傷を癒し、身体の抵抗力を上げるからな……貴重だ。
「まずはガリーファロの完全踏破。その次だが……ハイツ拝山を考えている」
「マジ!? ウチが住んでたとこじゃん」
サッコが声を上げた。
世間は狭いな……あそこはごく新しいダンジョンのはずだ。
「そうなのか?」
「そう! 中学ん時、気が付いたら家族全員パジャマのまんま道に立ってたんよ! マージ驚いたし!」
ああ、ダンジョン化するとそうなるからな……中の一般人は。
「アンタ大変だったよね、あん時」
「ガッコにパジャマで来たからビックリしたし!」
ユッコにまりも知っているようだ。
この3人の付き合いは大分古いんだな。
「それなー! すぐに新しいマンションに移れたけど、あっこ気に入ってたのに……」
ダンジョンが儲かっている関係上……当然、政府からの補助金は出る。
当事者ではないが、瀬戸が教えてくれた。
なんでも、前に住んでいた所と同じランクの住居に……日用品や家具を買い替える金も潤沢に与えられるとか。
景気が良くていいな、こっちの日本。
「んじゃ、あーしらはユッコのカタキウチも兼ねてハイツでがっぽり稼ぐし!」
「まり! アンタそれなんのカタキウチにもなってねーじゃん! ぎゃははは!!」
サッコは笑い上戸だなあ……
「あ、くろーさんグラス空じゃん。まだ何か飲む?」
「すまん、ジンジャーエールとポテト盛りを頼む」
「はーい。2人は同じのでいー?」
「「よろ~」」
ユッコ……本当に向いているのかもな、キャバ嬢。
気配りが地味に上手いなあ……
・・☆・・
「南門原さん」
「……ああ、今帰りか?」
宿泊所に向かっていると、支所から戸河内さんが丁度出てくるところだった。
時刻は……9時半、残業か?
いや、この世界の支所は24時間営業だから違うか。
まり達にカラオケにまで連行されていたから遅くなってしまった。
歌えと言われたが、冗談抜きに知っている曲が1曲もなくてな……つくづく、違う日本にいると認識できたよ。
童謡や、昭和……ではなく聖和初期の歌謡曲は少し知っているのがあったが。
ダンジョンが発生する前後で、かなり世界が変わったようだ。
なので、おとなしく聞き役に徹することになった。
ああ、当然だが代金は全部俺が払った。
稼いでいる以前に、大人だからな。
さすがに女子高生にたかるほど落ちぶれてはいない。
「はい、今日は昼勤務でしたので。南門原さんは……買い物ですか」
「そろそろプロテクターの一つも買わねばと思ってな」
大きな買い物袋を提げているから一目瞭然だろう。
「……」
周囲を見て人気が無いのを確認し、戸河内さんが寄ってくる。
なんだ? 内緒話か?
「南門原さん、貴方が拒めばスキル検査は絶対に受けることはありません。何を言われても気になさらないでくださいね」
「……つまり、そういう動きがあるってことか?」
こくり、と頷く彼女。
「スキル検査は、専用の機器とスキル持ちが揃っていなければ行えません。そして、支所の機器は巨大ですので……『検査室』に入らなければ大丈夫です」
「穏やかじゃないな、そんなに気にすることか?」
うお、ジト目になった。
「通常の探索者なら別ですが……南門原さんは有能な探索者ですし、スキルの開示を拒否する方自体が珍しいですから。支所長などは『絶対にレアスキルを持っているに違いない』と豪語しておられます」
「……あのハゲ野郎。そんなに出世がしたいか」
権力欲強そうな雰囲気だったからなあ……仕方あるまい、今度は強引に断ろう。
そして、とっとと別地区のダンジョンに移るのも手だな。
ここは俺の知っている大阪府中部だけあって、大小様々なダンジョンがある。
瀬戸の手助けは……どうするかな。
今度考えようか。
「私から言えるのはここまでです。それでは」
「すまない、助かる」
戸河内さんが去っていく後姿を見ながら、面倒なことになったと息を吐いた。




