第13話 改造人間、地上1階を踏破する。
『ハイ・ヴォルト――』
紫電を散らす両拳を握り込み、前方に跳ぶ。
狙いは、こちらに向けて両手をかざす男。
必死の形相で向けた手の周辺の景色が歪んでいく。
『超能力』持ちか!
「しぃ、死ね! 『ロック・パイル』!!」
叫びと共に歪みが収まり、円錐形の茶色い棘が出現。
それは、勢いよく発射され――俺の胸に刺さる軌道で飛んでくる。
どう見ても魔法だが、この世界では『超能力』だ。
『っふ!』
一瞬の着地。
それを、瞬時にサイドステップへ変更。
唸る棘を躱して――着地の瞬間にまた前へ!
『――『ナックル』ッッ!!』
土系らしい超能力を放った男の、放心した顔を――殴る。
「ばめぎゃあツ!?」
インパクトの瞬間に叩きこまれた高圧電流が、男の目から火花に代わって飛び出した。
今の一瞬で脳を焼いた上、頭はもう上半分がない……即死だろう。
「てめえ! このヤロ――」
セーフゾーンで俺に話しかけてきた男がいち早く立ち直り、持っていた槍を突き出す。
推定『身体強化』を乗せて放たれたそれを――左腕で払う。
その勢いで、そいつの右手首がへし折れた。
「――は?」
『『エレクトロ』――『コレダー』ッッ!!』
蹴り上げた右足に、電極が展開。
男の股間に突き刺さり、高圧電力を体内へ撒き散らす。
「~~~~~~~~ッ!?!?!?」
声も出せず、男は全身を痙攣させて焼け焦げた。
「おま、お前! よくもォ!!」
両手斧を持った男が、俺を見て叫ぶ。
斧の先端には……炎が宿っている。
『恩寵品』か。
『襲いに来たんだ、襲われても文句を言うな』
「うるせえ死ねェ!!」
男が斧を振り、先端に宿った炎がこちらへ飛んでくる。
そうやって使うのか、驚いたな。
『『エア・バレット』!!』
燃え盛る炎球は、圧縮空気の弾丸に衝突して消える。
次の攻撃を待たずに、跳ぶ。
左脇の下のベルトからピックを抜いて握り――間合いに入った瞬間に、振り下ろす!
「みゃばッ――」
変身した俺の身体能力をフル活用した一撃は、男の脳天から股間までを一気に引き裂いた。
歪な開きになった男は、一拍遅れて血を噴き出す。
……威力が高すぎるな、これは。
ピックが痛むかもしれんし、変身中に武器使用はやめておこう。
「――くろー! 前ッ!」
まりの声。
「もらったぁああああああ!!」
ロングソードを持った男が走り寄り、俺に向かって振り下ろす。
刃の周囲の空間が揺らいでいる――これも『恩寵品』か!
どんな威力かわからんが、そんな大振りに当たってやるつもりはない。
振り下ろされる剣を横っ飛びで躱しつつ――同時に男の胴に蹴りを放つ。
ボレーキック気味に放たれたミドルが、胴の筋肉の破断と内臓の破裂を感覚に伝えてきた。
「ぎゃばぉ!?!?!?」
男は交通事故めいた勢いで撥ね飛ばされ、水平に吹き飛ぶ。
そして、太い柱に背中を激突させて血を撒き散らした。
腹の部分が爆発しているな……即死だ。
『助かった、まり』
「うぶ……う、うん」
散々魔物を殺してきたが、人間は別腹らしいまりは少しえずいている。
いや、目の前で散々スプラッタを見せつけられてこの反応はむしろ……かなり肝が据わっているか?
「あがあああ! たす、助けて!」
「ショウジぃ! タクヤぁ! 目が、目が見えねえ~!!」
ともかく、うるさいクロスボウ持ちも片付けるとしよう。
声に魔物が惹かれても困る。
・・☆・・
「タイリョーだね、くろー……だいじょぶ?」
「腹が、減った……むぐ、むぐぐ」
床の上には、連中の使っていた武器が並べられている。
先程の惨劇現場から、これだけ回収して少し移動してきた。
防具は俺の攻撃によって使い物にならんし、連中の財布にはカードしか入っていなかった。
あとは、クロスボウ持ちの近くに落ちていた魔物の素材を入れた大きいザックしかない。
少し顔を青ざめさせていたまりは、今は落ち着いているように見える。
「んぐ……俺が怖いか?」
4つ目のカロリーバーを飲み込み、聞く。
これで成人男性2日分のカロリーを摂取したが、変身分がやっと補填された感じしかしない。
変身状態は燃費が悪い。
「……ビックリしただけ。だってさ、アイツラほっといたらあーし……ヤられて死んでたし」
殺されるかどうかはわからんが、装備を剥がれて1人になった女が生き残れるほどダンジョンは甘くない。
まりは、そこもしっかりとわかっているようだ。
「くろーは悪くないし、ダンジョンはジコセキニンだし」
「そうか」
きゅ、とコートの裾が持たれる。
「むしろありがとうだし! やっぱくろーは頼りになんね!」
そして、肩がポンと叩かれた。
つくづく、まりは探索者向けのメンタリティーをしていると思う。
思考の切り替えが早い。
改造される前の俺よりも、おそらく大分強靭だろう。
「んでさあ、これどうすんの?」
「クロスボウはまりが持ってくれ。かなりモノが良さそうだから儲けものだ」
細部がしっかりしていて、安物の雰囲気はない。
この前『迷宮商会』で確認したが、遠距離武器は総じて高い。
クロスボウはたしか、安いモノでも10万円台からだった。
「やた! トビドーグ使ってみたかったんよね! これならあーしももっと戦えるよ~!」
クロスボウ持ちは、弦の替えと補修用品を持っていなかった。
もう1丁を部品用にバラすか……
前の世界では一時期自転車修理店で働いていたから、それくらいはできる。
「斧、剣、槍に……ナイフか。どうする? 俺はいらん」
「あーしも今んとこコンボーだけでいいかな? 斧はちょい重いし……ナイフだけいいもんだったら持っとく?」
「そうするか……よし」
不要な武器をまとめて布で包み、ロープで固定。
片手で持ち上げる。
「もう7時過ぎだ。門限は大丈夫か?」
「だいじょぶ、ママは今日妹と病院に泊ってるから」
前にも言っていたが、検査入院か何かだろうか?
「そうか、しかし遅くならないようにそれなりに急ぐか……クロスボウの使い方を教えてやる、ついでに試射もしていこう」
「はーい!」
クロスボウのボルトは全部で40本……これは高いモノじゃないし、入れ物も買い足して潤沢に持っていた方がいいな。
なに、連中の武器が売れればカスみたいな金額だ。
ウキウキとクロスボウを点検するまりを見ながら、俺はそう考えた。
・・☆・・
「くろー! 残りはソイツだけ~!!」
「応」
後方からまりの声。
俺の目の前には、こちらを睨んで唸る……ゴブリン・チャンピオン。
周囲に散らばるゴブリン・ソルジャーは、俺が殴り殺したものとまりがクロスボウで撃ち抜いたものが半々ほど。
「グロウァアアアアア!!」
涎を撒き散らし、走ってくるチャンピオン。
「ちょいや!」「――ッベェ!?!?」
気の抜ける掛け声と同時に、チャンピオンの右目にボルトが突き刺さった。
そいつは、そのまま動きを止める。
敵の目の前で狼狽するとは正気か?
「ぬぅッ!」
走り込み、握ったピックを――腹部に叩きつける。
変身せずとも威力十分な一撃は、強靭なハズのチャンピオンの腹部に穿孔して切り裂いた。
まろび出る内蔵、噴き出す血液。
「ギブギャアアアアアア!?!?」
痛みに再度動きを止めたチャンピオン。
その側頭部に、引き抜いたピックが深々と突き刺さった。
「――ッビ!?!?」
一瞬震え、チャンピオンは白目を剥いて後ろに倒れ込んだ。
「やったし! くろー! 5万5千円だし! うっひょ~!!」
現金な奴だ……だが、クロスボウの命中率は中々のものだった。
『身体強化』は動体視力にも適応されるらしいな。
意外な才能かもしれん……
表立って言う気はないが……襲って来た連中様様だな。
だが、まりのメンタルには気を配っておこう。
見た感じは大丈夫そうだが……
「くろー! あっこ階段! 階段あったし! ショトカ開通だよ~ッ!!」
……大丈夫そうだな。
「これで次から2階だね! 行っちゃう? 今から行っちゃう~???」
「今日はもう遅い、電車がなくなるぞ。お前、明日も学校なんだから」
「んぎゅう~……ガッコ、行かないと駄目ェ?」
地上2階への階段が目の前に見える。
その脇には、外へ出る非常階段の扉も。
「どっちにしろ荷物が多すぎるから一旦帰るぞ。あと、せめて高卒はしておけ」
「え~? じゃあくろーは?」
あ……俺、この世界だと幼稚園卒以下になるのか……
「……高卒はしておけ」
「ね~、コーコー出てんの~?」
……答えは沈黙にかぎる。




