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第12話 改造人間、新たなチンピラを畳む。

 腕時計を確認……午後6時半、か。


「先がどれくらいかな……」


 今しがた倒した鎧を着込んだスケルトン。

その頭蓋骨から魔石を取り出し、革袋に入れる。


「相手にボーグあっとめんどいね、くろー」


「地下1階とは違うと言うことだな」


 地上1階に出る魔物は、ゴブリン・ソルジャー、稀にゴブリン・チャンピオン、そしてこの『スケルトン・ソルジャー』だ。

ゴブリン・チャンピオンは地下2階から出るが、上へ行くほど出現率が上がる。


「でさあ、ほんとに全部持ってってくれんの? あーしも手伝うよ?」


「構わん、気にするな。これくらいは軽い」


 スケルトン・ソルジャーの持っていた剣をまとめ、ロープでグルグルと固定。

そのまま、ザックの側面にあるカラビナに固定する。


 二束三文なゴブリン・ソルジャーの剣と違い、こいつらの持っている剣は高い。

相場だと1本5000円程度になる。

魔石も地下1階のモノと比べて1000円高い5000円買い取りだし、こいつらは1匹あたり総額1万円の儲けだ。

武器として優れている……というわけではなく、材質がいいらしい。

こいつらには、地球上に存在しない鉱物がわずかばかり含まれているのだ。

なお、ゴブリン・チャンピオンの大剣はただの鉄くずなので1000円くらい。

ゴブリンとスケルトンで格差があるなあ。

チャンピオンの方が大分強いのに。


「あ! くろー見て見て! あれセーフゾーンじゃね?」


 まりが指差す方に見えるのは……普通のフードコートだ。

何人か、先客がいるのが見える。

あの寛ぎようは間違いない。


「だな、ダンジョンは広くなるっていうのにサイズは通常サイズらしい」


「体育館くらい広くしといてほしーし!」


 そんなに広くても困るだろう……



・・☆・・



「さて、中間の収支報告だな」


 フードコートの端に陣取り、小声で話す。

周囲に気を配っているが、こっちを気にしているような連中はいない。


「ゴブリン・ソルジャーの耳が20個、スケルトン・ソルジャーの魔石と剣が10個ずつ……合計で、18万円だ」


「っし! あーしたちどんどんリッチになってくね~!」


 ミネラルウォーターを呷ったまりは、疲れを感じさせない様子で微笑んでいる。

改造人間たる俺は元々ほぼ疲れないが、コイツもタフだな。

『身体強化』のスキルが育っているのかもしれん。


「ああ、これからも稼ぐぞ……油断はせずに、な」


「わかってるし!」


 こちらを見る目に嘘はない。

やはり、妹のことがあるからやる気も違うってわけか……


 まあ、実質1人パーティの状態だからな。

ダンジョンの滞在や魔物を倒した時の……いわば『経験値』は、どうやらまりにだけ適応されているフシがある。

転移してこれまで、散々魔物を殺してきたが……身体能力に変化はない。

俺はこの世界にとっても、ダンジョンにとっても『異物』らしい。


「上に行けば行くほど恩寵品は出やすくなるが、その分魔物も強くなっていく……気を引き締めて行くぞ」


「がってんだし!」


 ……ぬ。

こちらに近付いてくる男がいる。

椅子に座りながら右手を開き、コートの裾に隠す。

だいたいの『セーフゾーン』ではスキルに制限がかかるらしいが、俺のは自前の能力だから問題はない。


「――よぉ、アンタら2人か?」


 声をかけてきたのは、30代ほどの男だ。

筋肉質に発達した体……『身体強化』保持者だな。

女性に比べて男性は体に出る割合が大きい。


「ああ、そうだ」


「よかったらこの先一緒に行動しないか? ここまで2人で来るなんて腕も立ちそうだし……」


 表面上はにこやかにしているが、俺を前にしてまりを確認する数が多い。

改造人間の動体視力を舐めてもらっては困るな。


「すまん。その申し出は有難いが、しばらくは2人で行く予定なんだ。それにここに来るまでに疲れていてな……少し進んで引き返すかもしれん」


「おう、そうか……わかった。また会ったら話、聞いてくれよ」


 『俺が弱っている』という情報を伝えた瞬間に、目に昏い喜びが浮かんだ。


「ああ、それじゃあな」


 男は仲間たち……合計6人の所へ戻っていく。

そして、何やら相談をしているようだ。


「まり、しばらく黙っていてくれ」


「ん、わかった」


 まりが口を閉じたので、両耳に神経を集中する……

ざわめきが一気に大きくなり、俺の耳に声が届く。


「よさそうじゃね? 男の方、素材かなり持ってるよ」「あの女、乳もでけえし」「持ってる装備も結構高いぜ、あれ」「やっちまうか、ひひ」


 ……なんとまあ、思った通りすぎると萎えるな。

これは、いつここを離れても狙われそうだ。


 耳への集中を解き、目を開く。

意識しないと聴覚が増幅されないのは地味にありがたい。


「……まり、連中はチンピラだ。お前を狙っている」


「うっそ、マジで?」


 まりは両腕で体を抱こうとして……男たちの視線に気付き、腕を下ろした。


「ど、どうしよ……くろー」


「……本当なら、お前に聞かせたくはなかったがな……襲ってきたら、殺す」


 そう言った瞬間、まりが目を見開く。


「俺達を襲い、装備を剥ぎ、お前を犯すつもりだ。話しぶりからして『初めて』じゃない……何度もやっているな、連中」


「……エッグぅ」


 ああ、エグいな。


「探索者は最底辺の職業だ。ああいう手合いもいる、というか多い……同行しても隙を見て襲ってくるつもりだったろうな」


 まりは目だけをせわしなく動かしている。


「くろーはさ、その……殺すの、平気?」


「いや、いつだって怖いし、嫌だ。だが、殺さなきゃ殺されるからな……やるしかない、魔物と同じだ」


 本当は改造人間メンタルの所為で全然怖くもないし罪悪感もないが、そう言っておく。

まりには健全な精神性でいて欲しいからな。


 男たちがニヤつきながら席を立つ。

ああやって、どこかに潜んで待ち伏せる気だろう。

……隠し方が下手だな、矢が見えたぞ。


「俺なら殺される『だけ』で済むが、お前は違う」


 びくり、とまりが体を固くする。


「そんな顔をするな、俺に任せておけ……仲間は守る、必ずな」


 ぎち、と手を握り込む。


「う、うん……信じてるし、くろーって強いもんね……」


「慣れろ、とまでは言わんが覚悟はしておけ。人間の方が魔物より恐ろしいこともある……」


 そう言って立ち上がる。


「ここで待っていろ、始末を……」


「あーしも行く……!」


 ザックを背負い、ヘルメットを被ったまりも立ち上がった。


「こ、殺すのはできるかわかんないけど……くろーにだけ、させらんないよ」


「……言い分は立派だが、足が震えてるな」


「にゃぶ」


 ヘルメット越しに頭を軽く叩く。


「――安心して後ろにいろ、決してお前に手出しはさせん」


 首を回し、まりの表情を見ずに……セーフゾーンの出口に向かって歩き出した。


「かっけえし……」


 聞こえてるぞ、まり。



・・☆・・



「――来る」


 セーフゾーンを出て、しばらく歩く。

通路が終わり、両側には広大なドラッグストアエリアが見えて来た。

食物と同じように、薬品も一定確率で毒が混じっているから誰も手を出さない。

絆創膏や包帯、湿布でさえそうだ。

ダンジョンで信用できる摂取品は、『水』だけだ。


 そんな中――俺の改造された聴覚が、左右の棚の影で動く音を確認した。


「盾を構えて急所を守れ。お前の動体視力なら大丈夫だ……スキルは育っている」


「……うん」


 魔物相手とはまた違うのか、まりの声に緊張が乗っている。


「あの、がんばって? くろー……」


「ああ、任せろ」


 人殺しを応援されるとはな――弦の弾ける音!


「っふ! っは!!」


 棚の化粧品の隙間から放たれた矢を、左右2回の掌底で払い落とす。

これは……クロスボウのボルトか!


 すぐに、棚の影から男たちが顔を出す。

全員武器を持った4人……矢を放った奴らは、まだそこにいる。


「……なんのつもりだ」


 俺がそう言うと、話しかけてきた男が表情を歪める。


「ずりいじゃねえか、そんないい女連れてよ。だから俺達に譲ってもらおうと思ってな」


 犯行予告、お疲れ様……だな。


「そうか……わかった」


 進み出て、左手を腰に。

多少のイラつきを乗せて――右手で空をなぞる。

『α』の形に。



「――着、甲ッ!!」



 光が走り、展開した装甲板。

そこに、再度ボルトが命中して――へし折れた。


「――なんッ!?」


 驚愕する男を前に、すっかり装甲に覆われた両手を――左右、別々の方向へ。


『『エア』――』


 両拳の装甲板が展開。

肺の一部に埋め込まれた強靭なコンプレッサーが、瞬時に取り込んだ空気を圧縮。

体内を通って、腕に。

腕から拳に。


『――『ストライク』ッ!!』


 両拳表面の発射口から空気弾が発射され、クロスボウ持ちが潜む棚を――円形に、撃ち抜く。


「っぎ!?」「ぎょ!?」


 それは、クロスボウを構えていた2人の顔面にそれぞれ命中し――その両目を潰した。

死んではいないが、これで狙撃はできまい。


「お、お前――」


 両拳を握り込む。

即座に、その周囲へ稲妻が発生した。


『――死ぬ準備は、できたか?』


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