第11話 改造人間、地上1階へ踏み込む。
「行くぞ」
「がってん! 今日のあーしは無敵だし!」
『ガリーファロ拝山』の外壁から非常階段を降り、地下1階に入る。
そして、内部から階段を上がった先……地上1階の部分に、俺達はいる。
現在の時刻は、午後3時30分。
「って、なんかヒト多いね、くろー」
「ここは『初級』だからな。アクセスも悪くないし」
地上1階は、まず広大な……食品売り場になっている。
間違いなく、営業していた時の10倍以上の規模だろう。
そこの棚越しに、何人もの人間がチーム単位で動いているのが見える。
「地下の2階層はあくまで通路。ここから先が本番……らしいぞ。俺も情報でしか知らんからな」
「はえ~、あーしもそうだけど……ね、ね、あの野菜とか食べちゃ駄目なんだっけ?」
まりが見ている先には、まるで出荷されたてのように瑞々しい野菜の数々がずらっと並んでいる。
トマトなんかは水滴すら付いていて、すぐにもかぶりつけそうだ。
「正確には『推奨しない』だ。無事だった奴もいるが『毒』に当たったやつもいる……腹が減ったら俺に言え、食料は多めに持ち込んであるからな」
「うん、そーする……リスクは避けないと、だもんね」
ダンジョン化した建物は、内部にあった物品も含めて保持される。
散々ぶっ壊した駐車場のコンクリートもいつのまにか直り、ここではあの野菜を食ってもいつの間にか補充される。
だが、動物実験や探索者の証言などにより……おおよそ3割程度の確率でひどい食中毒のような症状になる、らしい。
外ならいいが、ダンジョン内でそうなるとどう考えても死ぬ。
セーフゾーンにトイレでもあれば別だが。
「くろー、どんなご飯持ってんの? あーしも弁当あるけど……」
「これだ」
内ポケットから取り出して渡す。
「これ……むっさカロリーあるやつじゃん!?」
「そうだ。ダンジョン内で腹ペコになるわけにもいかんからな」
成人男性の必要カロリーを一箱で満たせる優れもののカロリーバーだ。
俺の知っている名前じゃなかったが、中身は関係ない。
「どんくらいあんの?」
「最低10日分はザックに詰めている」
変身すると一気に腹が減るからな、緊急用だ。
「すげ~……水はあんの?」
「4リットルは確保しているが、ここでも『汲める』からな」
そう、ダンジョン内で『水』だけは安心して飲める。
これは、ここ30年間変わることはない。
なんと備え付けの水道からジャンジャン汲めるんだ。
ダンジョンには水道管からの取水はされていないから、どこから湧いているのかも未だに不明。
だが、ここ30年の調査で水に問題がないことはわかっている。
「だが、何があるかわからん。喉が渇いたら遠慮なく言えよ」
「くろーって超力持ちだよね……わかった!」
ザックは20キロ前後で、ピックは50キロ。
だが、今の所特に問題はない。
改造人間様様だな。
おそらく『身体強化』のかなり高レベルなものと同じくらいだと推測する。
『変身』すればそれ以上のスペックだろうがな。
「よし、行くぞ。情報によるとこの階も最奥に階段がある、今日はそこまで行ければいいだろう」
「あいあいさー!」
さあ、地上1階の探索開始だ。
・・☆・・
「マモノいないね~、くろー」
「正確にはいるがな」
食品売り場エリアを過ぎて、今は通路を歩いている。
さっきまでのエリアでは、魔物と戦っているパーティばかりだった。
前の地球でのネットゲームのように、『横やり』は推奨される行為ではない。
基本的に『早い者勝ち』で、向こうからの要請があって初めて戦闘に参加することが許される。
まあ、ダンジョン内での決まり事なんざ無視してもいいんだが……いたずらに敵を作ってもしょうがないからな。
ただでさえチンピラが多いんだ、これ以上人間の敵は御免だね。
「そういえばまり、学校は大丈夫か? この前の連中とか……」
「全員休んでんよ。ハラダのアホは今度はコークーゲカ? に入院だってさ、ウケる!」
口腔外科ね。
ちょっとだけ強くビンタしすぎたからな……悪いことをしたとは思ってないが。
「そうか、もしも何かあったらすぐに言え。ダンジョン内なら生まれてきたことを後悔させてやる」
「わかった! くろーってば頼りになるし~♪」
殴っても蹴っても心が痛まない敵は歓迎だ。
フラットな精神が標準装備されている俺にとっては、魔物と変わりがないけども。
「まあ、武器の程度からして雑魚だからな」
「それな~。全員の武器で3万って……アイツらダンジョン舐めてんね~」
あいつらからかっぱらった武器はどれも安物だった。
まりと焼肉屋に行ったら三分の一消えたぞ。
話しながら通路を歩く。
売り場と売り場を繋ぐちょっとした通路だったんだろうが……今では幅も長さも青函トンネルに思えてくる。
あれ程長くはないし、左右に死角になる箇所が多いから油断はできんがな。
「……左前方から物音、複数だ。構えろ」
「あーい!」
左手に盾、右手に棍棒を装備したまりが構える。
俺の聴覚をもってすれば、そうそう不意打ちには遭わない。
コートの内側からピックを取り出し、右手に持つ。
――びょう、と風が動く。
「っふ!」
フリーな左手で空を掴む……矢か!
「ゴブリン・ソルジャーだな。矢に気を付けろ、盾で頭を庇え、この衝撃だとプロテクターは抜けない」
「トーゼンのように矢掴むよね……わかった!」
まりの返事が終わるくらいに、左斜め前の柱の影から影が躍り出てくる。
地下で遭遇したゴブリンに、少しマシな防具を着せて武装させた……ゴブリン・ソルジャーだ。
前列に剣と盾持ちが5匹、後列に弓持ちが4匹。
「この階に魔法を使う『キャスター』はいないはずだが、油断するな。俺が前に出る!」
床を蹴りつけて、ゴブリン共に向かって走る。
急な接近に、二列になったソルジャーが反応。
後列の弓持ちが、俺に向かって一斉に弓を引く。
なるほど、下の連中よりも肝が据わってるな……さすがはソルジャーと言った所か!
「はぁッ!!」
飛来した矢を素手で叩き落とし、間合いに入る。
そのまま、速度を緩めずに前列の1匹に向かって――横薙ぎにピックを振る。
「ギガギャッ!?」
丸い盾でそれを防御しようとしたゴブリン。
ピックの鋭い先端が盾に突き刺さり――破壊。
そのまま、ゴブリンの頬に突き刺さって反対側から貫通。
振る勢いに抗えず、首がへし折れた。
「ぬぁあッ!!」
ソルジャーを串刺しにしたまま、さらに横へ振る。
剣でこちらを突こうとした別の1匹が、緑色の血で光るピックに側頭部を貫かれた。
「はぁッ!!」「――ギャン!?!?」
ピックが塞がったのを見て、反対側から躍りかかったソルジャーを蹴る。
革製らしき粗末な鎧に足が突き刺さり、背中側から内臓が噴出した。
残る2匹のうち一番外側にいた1匹は――
「よいっせ!!」「ベグィ!?!?」
走り込んだみくの棍棒で、薄い金属製の兜を陥没させられている。
「おらぁ~!!」
そして、左手の盾によるシールドバッシュが炸裂。
もう死んでいるソルジャーは、後方に吹き飛んだ。
俺はそれを見つつピックを死体から引き抜き――最後の前列に振り下ろす。
「ッガギュ!?!?」
兜を陥没させつつ、先端は脳にめり込む。
そのままにしておき――飛来した矢の盾にした。
仲間の死体に矢を打ち込んだ4匹は、慌てて新しい矢をつがえようとして――
「『エア・バレット』!!』
フリーになった左手のひらから放った空気弾で、1匹が鼻を陥没させて吹き飛ぶ。
「ぬんッ!!」
ピックが刺さりっぱなしだった死体を投げ、別の1匹にぶつける。
その軌跡を追うように走り、踏み切る。
「でいりゃあッ!!」
空中で突き出した右足が唸り、口を開けていた1匹の喉に直撃。
骨の折れる音を聞きつつ、そいつを下敷きに着地。
「ギャギャギャ!!」
放たれる矢を深く沈んで躱し、踏み込みながら――ピックを振る。
「ギャビ!?!?」
先端が腹に食い込み、横に裂く。
内蔵がこぼれ、ソルジャーが血を吐いて沈む。
「んっしゃぁ!」
最後の1匹。
まりは放たれた矢を盾で防御しつつ――棍棒を振る。
「――ベンッ!?!?」
首元に叩きこまれた棍棒の一撃は、ソルジャーの首をへし折った。
「くろー! もうテキ、いないよ~!」
「いい動きだ、よくやった!」
仲間の下敷きになって藻掻くソルジャーの首を踏み折る。
……よし、残りは全部死体だ。
「あーし、役に立った?」
「ああ、自分で考えてよく動いたな。防御もしっかりしていて油断もない……いい仲間だよ」
そう褒めると、まりは少し顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「えへへ……あ、こいつらはドコだっけ? 取るのって」
「下と同じく耳だ。見た目は似ているが調べるとわかるらしい……ちなみに1個で4000円だな」
「やったし! 3万6千円! 3万6千円~!」
こういう時の計算は早いな……
1匹殺せば4000円だが、こいつらは群れで出るからな……
生半可な探索者だとここで死ぬぞ。
『初級』でこれならその上はどうなってるんだよ。
「くろー、こいつらの武器どうしよ? 売る?」
「耳より安いらしいぞ、荷物になるから置いて行こう……臭いし」
ゴブリンってはどいつもこいつも臭いな……
魔物だから仕方ないが、どうにも慣れない。
出る時は虚空から出現するらしいんだから、無臭であってくれよ。
「あいあーい」
しかしまりは臭いも気にせずによく働くな……いいことだ。




