第10話 改造人間、高校生に絡まれる。
「どう? 似合う? 似合う~?」
「似合うな。特に肩回りがいい、動きやすそうだ」
結局、あの先端が金槌の棍棒……ピックと言うらしい……を買うことにした。
素手でも問題ないが、いつまでも手ぶらでダンジョンに挑戦していると悪目立ちしてしまう。
それに、手に持って振った感触も悪くなかった。
『スキル』持ちじゃない一般人には重すぎるが、俺には全く問題がない。
むしろ、長持ちしそうでいいまである。
だが、重さが重さなので店員に勧められるまま保持用の肩掛け強化ベルトまで購入してしまった。
総額11万5千円の買い物だ。
この世界に来てから初のデカい出費だな。
そして、今俺達がいるのは2階。
防具関係の売り場で……まりがウキウキしながらプロテクターの試着を繰り返している。
女性の買い物は長いと言うが、生き死にがかかっているから長くてもしょうがない。
「ん~、たしかにひっかかりも少ないし、いいかも! でもこっちもかっけーし……」
かれこれ1時間近くが経過したが、まりは最終候補に残した2つのプロテクターで悩んでいる。
『以前』の俺なら辟易していただろうが、改造されて強靭なメンタルを宿している現在の俺はいくらでも付き合える。
魔物と戦うことに比べたら安いもんだ。
「防御性能は同じくらいだろうし、あとはまりの好みだな」
どちらも、まだ出会ったことのない魔物の甲殻を加工して作られているらしい。
説明文にそう書いてあった。
「そだね~……うむむむ」
フィクションなら肌の露出が多い鎧も見慣れていたが、こちらでは徹頭徹尾生存性を重視している。
特に動脈のある個所と、腹部はどのメーカー品でもきつく保護されているな……当たり前か。
「くろーさ、どっちがいいか決めてよ~! もうあーしわかんない! 考えすぎて熱出そう!」
俺にファッションセンスは皆無だが、防具には関係ないからな……
「そうだな……右の灰色の方がいいんじゃないか? 腕の部分が動きやすそうだし、腹もしっかり囲われている」
『ムラカミ・タートル』というカメの魔物の甲羅を加工して作っているらしい。
ちなみに『ムラカミ』とは『村上島』という場所のダンジョンで初めて確認されたからそう名付けられた。
前の日本では『因島』だった場所だ。
こっちでは村上水軍から取ったんだろうか、あちらでも本拠地だったし。
「んむ~……そだね! こっち買っちゃお!」
ちなみに値段は上下セットで6万円。
高いのか安いのか相場はわからん。
「会計してくんね~。終わったらご飯いこご飯! 近くにうんまいラーメン屋あんの!」
「わかった、それじゃあエレベーター前で待ってる」
女性用の防具コーナーだから、俺一人だと浮いてしまうからな……
「……ん?」
店の方からまりが移動してくるが……速足の上、誰かと揉めている?
なんだ? 列の割り込みかなにかで揉めたのか?
「だっから! あーしはもう他で組んでるからヤダって!」
「はぁ!? アンタあれだけ滅茶苦茶しといて勝手に……!!」
まりに食って掛かりながら追ってくるのは、髪の長い女性だ。
見た感じはギャルって感じじゃないが……随分とご立腹だな。
「ムチャクチャって言うけどさ! あーし無理やりヤられかけてんだけど!? あんなキッショいパーティ、戻るわけねーじゃん!!」
「もっと上手く躱せばよかったでしょ!? ハラダくん大変だったんだからね!」
揉めながらやってきたまりは、買い物袋を持っていない手で俺のコートを握った。
「知らねーし! なんであーしがサルの金玉の心配までしなきゃいけないのさ! あーし、この人と組んでるからアンタらのとこなんかぜって~戻んねえし!!」
ああ、ここに来るまでの話でよくわかった。
あの長髪の女はまりが以前いたパーティの誰かってことか。
「……ッ!」
追いかけてきた女性は、俺に気付くと声を詰まらせた。
まあな、180はあるし……人相も悪いからな、迫力はあるだろう。
「……なにそれ、もう新しい男ひっかけたんだ!」
「は~!? アンタみたいなシリガルと一緒にすんなし! くろーはあんなサルよりも100倍イイ男だし、あーしのこと助けたのに変な事とか全然しなかったんだかんね!」
だいぶヒートアップしてるな、まり。
ダンジョンと違ってここは外だ。
話しぶりからして相手も探索者だろうが……喧嘩にでもなったら面倒臭いことになる。
警察に職務質問でも受けたら、ただでさえ怪しすぎる俺は根掘り葉掘り調べられるだろう。
探索者同士の喧嘩なら、一般人相手のように重い罪にはならんらしいが……
「落ち着けまり。話の通じない相手に関わるな」
「ふみゅぐ」
肩に手を置き、宥めるように撫でる。
頭を叩くよりはマシなんだろうか……この世界のセクハラ基準はわからんからな、気を付けよう。
「彼女から話は聞いている……すまんが、俺達はもう行く。お互いに関係ないんだ、もう関わらないでくれ」
「なっ……偉そうに! アンタ何様だよッ!」
パラレルワールドの改造人間様です……ま、冗談はさておいて。
「まりのパーティメンバーだ。大事な仲間がボロクソに言われてるんだ、偉そうにもするさ」
一歩足を踏み出す。
そして、若干強めに睨む。
「――失せろ、二度は言わん」
そう言うと、女性は一瞬唇を噛み……踵を返して歩いて行った。
「ガッコでも二度と話しかけんなよボケナス~!」
まりが追い打ちで叫んでいる。
声がデカいよ……周りからすごく見られて落ち着かんのだが。
「……アレが、以前言ってたパーティメンバーか」
「うん! あーしをレイ……アレしようとした男のセフレ? みたいなもん」
ああ、ツキシマとかいう女だな。
改造されてから記憶力は抜群だから、覚えていた。
「外では行動に気を付けろ、探索者は喧嘩一つでも重罪になる。相手が探索者でも面倒だぞ」
「うん! 外だとダッシュで逃げてる! スキルのおかげであーし、50メートル5秒台だもん!」
この世界の陸上記録はすごいことになってそうだな……今度調べてみよう。
「それでいい……ダンジョンの中なら殴り倒せばいいから、随分簡単なんだがな」
「くろーってばカゲキ~!」
俺に対する評価ポイントが謎過ぎるんだが。
「んじゃ、行こ行こ! ムカついてるから今日は大盛りにするし~!」
大盛り宣言をし、歩き出すまり。
切り替えが早いな……さすがは探索者、とでも言うべきか。
・・☆・・
「ずるぞぞ……んでさ、あーしが金玉蹴とばしたサルのチリョウヒ払えって言ったんだよ? ありえんくね~?」
「災難だったな、それは」
『迷宮商会』ビルから歩いてすぐのラーメン屋、『濱長屋』
九州系豚骨ラーメンの有名店らしいが、やはり俺には聞き覚えがない店名だ。
「んぐんぐ……ぷは! オネーサン! カエダマバリカタ~! くろーは?」
「同じものを」
「ごめんオネーサン、バリカタ1つ追加で~!」
『全部乗せチャーシュー麺大盛り』の麺を啜り、替え玉を注文するまり。
健啖家だな……俺も同じものを頼んだが。
豚骨ラーメンの味は前の日本と変わらんな……紅ショウガと高菜を入れるとなお美味い。
「どちらにせよ、ダンジョン内のことは刑事も民事も不介入だ。払ってやることはない」
「あったりまえっしょ! あのカスに払う金なんかねーし! へえ……ゴマ入れんの?」
「ああ、ニンニクもいいがこれも美味いぞ」
替え玉が来る前に味変をしておこう。
入れ放題の薬味がある店はいいな……
「あーしもやろっと。ビヨーにいいらしいし~」
まず豚骨ラーメン大盛りの時点でな……言わんが。
「あ、くろーさ……あんがとね? あん時、庇ってくれて」
「パーティメンバーとして当然だよ。気にするな」
あのままだとビンタでもしそうだったからな、こいつ。
面倒ごとは『外』では避けるに限る。
「んふふ……なーんか、うれしいし! あ、来た! 食べよ食べよ~」
『お待たせしましたワン♪』
犬型配膳ロボットが替え玉を運んできた。
ネコ型じゃないんだよな、この世界では……
・・☆・・
「おい! まり!!」
ラーメンを平らげて、俺達は電車に乗り……いつものダンジョンへやってきた。
今日買った装備の試運転に、軽く地下2階を周回するつもりでな。
10万以上使ってしまったから、ゴブリンで稼ぎたくもあるし。
そんなわけで地下2階に足を踏み入れたワケだが……すぐに、後ろから声をかけられた。
「アンタに下の名前で呼ばれるスジアイねーし! サル!!」
振り向いたら、そこには……さっきの女、ツキシマと……その他に3人の男がいた。
サル、と呼ばれて顔を赤くしているのは坊主頭でガタイがいい男……なるほど、あれがハラダか。
まりは気付いていなかったが、俺は尾行されているのをだいぶ前から認識していた。
それを黙っていたのは……ここで釘を刺しておこうと思ったからだ。
「うるせえ! お前、誰に断ってチーム抜けてんだよ!? 抜けるんなら違約金払えよな!!」
「アンタの金玉のチリョーヒの間違いっしょ!? やーだ! やだし!」
まりは、俺が思ったよりも実力があった。
恐らく連中も、その戦闘力を手放したくないらしい。
あるいは肉欲的な意味も含めて。
「まりは俺とパーティを組んでいる。文句があるなら俺が相手になろう」
ざり、と前に出る。
連中は一瞬怯んだが、俺が丸腰な上にプロテクターもないことに気付くとやる気を出した。
「くろー! あーしも!」
「駄目だ、お前は『手加減』が苦手だからな。うっかり殺しそうだ」
別に殺してもいいが……勢いでそうなると、コイツが気に病むかもしれんからな。
「てめえ! 舐めてんじゃねえぞゴラ!!」
坊主頭になんかこう、車に轢かれたような痕がある男がいきり立って向かって来た。
ハラダじゃないな、武器は……マチェットか。
近接戦が得意そうな感じだな。
「舐める必要はないな、かかってこい雑魚」
「んだゴルァ!!」
男は激高し、こちらへ走り出す。
棍棒を抜くまでもないな。
「死ね――」
走り込んだ勢いで振り下ろされるマチェット。
それを、体をズラして躱し――同時に、腹にビンタ。
「――ぶっごげぇ!?」
男は体をくの字に曲げ、反吐を吐きながら5メートルほど飛び……駐車場の柱に激突。
意識を失い、そのまま崩れ落ちた。
「てっめ、なにしやがん――」
そのまま一足で集団に踏み込み、ハラダの横にいた男の胸をビンタ。
「ばぎゃっ!?!?」
肋骨が折れる感触を残し、そいつも後ろへ吹き飛び――遮蔽物がなかったので、10メートルほど転がった。
「……は? な、なに……」
一瞬で仲間が2人無力化され、パニックになっている様子のハラダ。
「どうした? かかってこないならこっちから行くが?」
「ば、て、てめ! ふざけんな!!」
ハラダは激高し、握っていた斧を俺に向かって振ろうとして――
「ぎゃんッ!?!?!?」
顔面に炸裂したビンタで、後ろに吹き飛びながら6回転ほどした。
ああ、手加減を間違えてしまった。
歯がだいぶ減ってるな……
「っひ、ひゃあああああああッ!?!?!?」
最後に残ったツキシマは、悲鳴を上げて逃げ出した。
よかった、女を殴るのは好きじゃないし防御力が低そうで心配だったんだ。
逃げるなら別に逃げても……
「ふんにゅら~ツ!!」「――ぎゃんッ!?!?」
まりが珍妙な掛け声で軟式ボールらしきものを投げ、ツキシマの背中に直撃。
彼女は悲鳴を上げ、バランスを崩して何回転もして……止まった。
……ボールなんかどこに持ってたんだよ。
「超すっきり! くろーもめっちゃかっこよかったよ!」
「そりゃ、どうも。今のは?」
「チカン対策のゴムボール! 100均で買ったんよ、5個入り!」
この世界の100均は随分安いな……
まあ、とりあえず、問題はコレで片付きそうかな……?
「腹ごなしにもならんかったが、帰るか」
「あいあい……コイツらどうしよ?」
「知らん、殺す程強く殴っていない。起きたら逃げるだろう、ここは入口近くだし」
「だね~! んじゃーさ、近所のサ店寄ってこ寄ってこ! スッキリしたからパンケーキ食べたいし!」
まだ食う気なのか……
現役高校生探索者の胃袋は化け物だな……
「ああ、慰謝料代わりに武器は貰って即売り飛ばそう」
「臨時シューニューじゃん! やたっ!!」
さすがに、襲って来たチンピラの懐事情までは心配してやらん。
これで少しでも補填できればいいな、棍棒の代金。




