8.使えない白
「で、どーすんだ?」
「オイ、地が見えてるぞ」
やさぐれた銀髪の青年に、藍色の髪の男性がツッコミを入れる。
「⋯⋯失礼。それで、どうなさるつもりですか? インディゴ様」
ゴホンと咳払いして取り繕う青年に、生暖かい視線が注がれる。
呆れたように首の後ろを掻きながら、藍色の髪の男性は口を開いた。
「どうもこうも、わしは灯台に預けるつもりで来たんだが?」
「はあ!?」
「待ってください」
銀髪の青年がたちまち憤慨するが、青い髪の少女が横から手を挙げる。
「家が無理なら、神殿から通うのが規則でしょう? 神殿に行くべきじゃあないですか」
「ん?」
「白色は隠すとしても、藍の後継者である事まで秘密にする必要はないと思います。きちんと灯台守としての立場を得る方が、誰にとってもいいでしょう?」
「いや、そもそも藍を継がせるつもりなんぞ無いが?」
藍色の髪の男性がさらりと放った台詞に、沈黙が落ちる。
「⋯⋯え?」
「言っただろう? わしも成り行きで預かっただけだぞ」
思わず、七人は顔を見合わせる。
「でも、“白”ですもの。全ての色を補う魔力をお持ちの方が、今、現われたのです。神の思し召しというものではありません?」
小首を傾げる紫色の髪の少女に、藍色の髪の男性は腕組みする。
「う〜む⋯⋯」
「何かあるのか? はっきり言え」
「それがなぁ⋯⋯」
緑髪の男性の催促にも答えを渋り、藍色の髪の男性は、ちょいちょいと、白い幼子を手招きする。
きょとんとした顔で進み出た白い幼子の前に、藍色の髪の男性は掌をかざして見せた。
「同じようにやってみるんだぞ? ほれ」
伸ばした腕を魔力が流れ、大きな掌に藍色が灯る。
幼子は大きく頷いて、ぱたぱたと腕を振るった。
「う!」
「いや、振らんでいい振らんでいい。こうだ、こう」
その手首を掴んで止め、藍色の髪の男性は繰り返した。
掌の上に蟠る藍色が濃くなり、色の塊になっていく。
「こー!」
「違う。アクションはいらんから、魔力を感じ取って集中をだな⋯⋯」
「しゅー!」
「シーロ。これだこれ、こう!」
「もういいそれ以上濃くするな。まぶしい」
緑髪の男性に肩を掴まれ、藍色の髪の男性は、やっと止まる。
輝くほどに濃くなっていた藍色が、薄まり、揺らぎ⋯⋯やがて、掌に吸い込まれて消える。
やれやれ、と溜息をつく緑髪の男性。
藍色の髪の男性は、気まずそうにそっぽを向いた。
「あ〜⋯⋯まあ、その。こういう感じでなぁ」
「え、あの。えっと⋯⋯つまり、その子⋯⋯魔力、使えないんですか⋯⋯!?」
恐る恐る口に出したウサギ頭の少年に、藍色の髪の男性は無駄に爽やかな笑顔を浮かべた。
「うん。」
紫色の髪の少女が、ふらりと倒れた。
「「ヴァイオレットさん!?」」
「落ち着けって。貧血だろ? 頭低くして寝かせときな」
「ごめんなさい⋯⋯少し落差が大きかったかしら⋯⋯」
ウサギ頭の少年と青い髪の少女が狼狽えるが、桃色の髪の女性は慣れた様子で支えながら、自分のクッションを指差す。
それを拾って、ぽいと投げる銀髪の青年。
ただ橙色の髪の少だけが目もくれず、ダンッ!と足を踏み鳴らして藍色の髪の男性に詰め寄った。
「なんでそんなのを連れて来たんですのッ!!?」
「いや、なんでと言われてもな。箇条書きで考えてみろ」
箇条書きで考えるってなんだ。と緑髪の男性が呆れているが、藍色の髪の男性は極めて真剣な面持ちで、人差し指を立てる。
「まず、“白”なのは見れば分かる」
「はい」
橙色の髪の少女は、真剣に頷いた。
「色派は見た目で分からん。過激派度合いも不明。この子を人に見られるだけでも危うい」
「はい」
「こんな元気な子供を隠して育てるとか無理。というか、元気でなくとも衣食を調達している時点で普通にバレる」
「はい」
「まあ、布を被っておけば素性は隠せるかもしれんが⋯⋯じゃあなんでそんな怪しい子供を育てているんだという話になるだろうな」
「そうですわね」
「魔力が使えないから灯台守にはできない。本当に保護されるだけになる。となると、白色である事を明かすしかない」
「はい」
「で、だ。光派を頼るにしろ、政府を頼るにしろ⋯⋯“魔力すら使えない白色”の存在が公になるのって、マズくないか⋯⋯?」
引き攣った笑顔を作る藍色の髪の男性に、橙色の髪の少女は沈黙する。
傍らで聞いていた緑髪の男性は、額に手をやって嘆息した。
「それは、マズいな。“白は色なしの欠陥品”⋯⋯パレット教過激派の再燃だ」
「そんなっ」
「名誉挽回可能な他の白色を見つけるか⋯⋯或はその子供自身が魔力を扱えるようになるまで、隠し通すしかないな」
「⋯⋯それで、なぜ灯台に?」
これ以上もないくらい眉間にシワを寄せる銀髪の青年に、藍色の髪の男性は、へらりと笑う。
「いやー、寄り付く人間が限られいて? それが光派ど真ん中の灯台守で? 万一色派にバレて襲われてもなんとかしてくれそうな、最強守護職の管理人さんが二人もいて?」
集中した視線を浴びて、銀髪の青年は頬を引き攣らせる。
「これはお任せするしかないだろう! という訳で、この子は銀と金に託した! わしは灯台守引退するから後よろしく!!」
ずいっと前に押し出された白い幼子が、ぽかんと銀髪の青年を見上げる。
青年はただただ怒りに肩を震わせ⋯⋯
「丸投げかクソジジイ!!!!」
「びーっ!!!!」
部屋を震わす怒声と絶対拒否の泣き声が、灯台に轟いた。




