9.『日没』
ポーッ⋯⋯と。
遠い笛の音が、灯台守たちが集う部屋に響いた。
銀髪の青年が身を翻し、窓のような形で設けられた軽石の戸を開ける。
ポーッと、もう一度。
今度はより鮮明に届いた笛の音に、灯台守たちは立ち上がり、一斉にフードを下ろした。
それを確認し、一つ頷くと、銀髪の青年は石笛を取り出す。
ピィイ、と。
吹き鳴らされた笛の音が、灯台にこだました。
戸の外――内壁と外壁の狭間の、遥か下まで続く薄闇に、笛の音は吸い込まれていく。
そうして、わずかな静寂の後。
ポーッと、また一音。その底深くから、笛の音が返って来る。
銀髪の青年は戸を閉めると、灯台守たちへと向き直った。
「始めてください」
その一連の動作の間に、灯台守たちは幾つもある柱の突起へと、革紐を結わえ付けていた。
その端を掴み、等間隔に並んで柱を囲むと、順に一音を唱えていく。
「ダー」
「エル」
「リー」
「ワズ」
「トー」
「メヴ」
「スー」
隣から隣へ、音を受け渡していくように。
一際高く、七人の声が重なる。
「「「「「「「ダー」」」」」」」
揃えた声の余韻が消える頃。分厚い掌が、おもむろに革紐を引いた。
―――星は巡りて 陽が沈む
―――来たれ 黄昏 星の空
低音が刻むリズムに合わせて、ゆっくりと歩が進められる。
革紐がピンと張り⋯⋯ゆっくりと、柱が軋んだ。
―――巡れ 我らの星の灯よ
―――瞬く星から 露が降る
六色の歌声がそれを追い掛け、一つに唱和する。
それぞれの歩みもまた続き、太い柱がじわりと動き出した。
―――露を受けて 地は潤い
―――輝く星影 夢を見る
―――眠れ 我らの星の灯よ
―――夜告げ星が沈むまで
微かに軋みを上げながら、柱が回る。
その物々しさに慄き、うろうろしている白い幼子に気が付いて。
手早く距離を詰めた銀髪の青年は、ふわついていた幼子のフードを強く引き下ろした。
「び!?」
「静かに。大丈夫だ、大人しくしていろ」
腕をばたつかせて離れようとした幼子の背後で、柱が燦然と輝き出す。
正確に言えば、ずっと七色の光を投げ掛けていた、透明な結晶体が。これまでとは比べものにならない強さで光を放つ。
押されるように、白い幼子は青年にしがみ付いた。
銀髪の青年はじっと佇み、ただ一人目隠しで覆った眼で、輝く円柱と、巡る灯台守たちを見つめている。
繰り返される、唄と、歩み。
回る柱。
光は強まり続け、徐々に室温が上がっていく。
やがて、カチン⋯⋯と何かが噛み合う音がして、円柱の回転が止まった。
床の跳ね上げ戸が開かれ、灯台守たちが次々に飛び込んでいく。
きょとんとそれを眺めていた白い幼子は、そちらへ向かう銀髪の青年につられて歩き出した。
銀髪の青年は下を確認すると、一声かける。
「インディゴ様」
「んお?」
銀髪の青年は迷わず、白い幼子をつまんで落とした。
「⋯⋯みょー!?!?」
勿論、下にいた男性がしっかりと受け止めるが。
憤慨した白い幼子の威嚇の声は、当分止みそうにもなかった。




