5.会議は踊る
クッションに頬杖をつき、桃色の髪の女性は黄昏れていた。
「終わったな⋯⋯」
「勝手に終わらせないでくださいませ! まだ何も始まっていませんわ」
腰に手を当てて睨み付けてくる橙色の髪の少女に、桃色の髪の女性は困った顔を向ける。
「そうは言うけど、白の立場に立ってみろよ。もう和解の余地なくね?」
「私達は保護しただけですわ」
「アンタさ⋯⋯自分の“色”が理由で殺されそうになって、逃げて隠れて暮らしてて。生まれた子供が自分の色を受け継いでて、しかも突然行方不明になったら。どうなったって想像するよ?」
橙色の髪の少女は、顔を強張らせる。
「⋯⋯でも、無事ですのよ」
「何もするつもりなかったって、信じてもらえりゃいいけどな。“まだ”無事なうちに辛うじて“間に合った”と思われたら、仕舞いだろ?」
物憂げな桃色の髪の女性の溜息に、橙色の髪の少女は青褪めて沈黙した。
その肩に、ふわりと温もりが落ちる。
橙色の少女の肩に優しく手を置いて、紫色の髪の少女は微笑んだ。
「考え過ぎよ、二人とも。何も心配する事はないわ」
「そうか?」
「ええ。だって、インディゴのおじさまが引退なさるこの時に、“白”の御方が灯台に現われたのよ? これこそ神のお導きというものだわ」
紫の瞳を輝かせる少女に、桃色の髪の女性は、溜息を噛み潰して、こめかみを揉む。
「で? 死んだと思われてるのをいい事に、このままここで使ってしまえって?」
あら。と、紫色の髪の少女は、さすがに困ったように眉を下げた。
「そういうつもりではなかったのだけれど⋯⋯」
「同じ事だろ」
「でも! この世界には光が必要ですわ。選ばれし色を持って生まれた者は、世界の為に尽くす義務がありますのよ!」
「落ち着いて、オーちゃん。わたくしはただね、昔、白の一族が灯台守の座を逐われた⋯⋯それが間違いだったのだと思うの」
割って入る橙色の髪の少女を押さえて、紫色の髪の少女は、視線の先に白い幼子を探す。
「白の一族を、灯台に迎え入れましょう。きっとお喜びくださるわ」
目を細める紫色の少女に、女性は桃色の頭をゆるりと振るう。
「アタシらは、政治に口を出せない。白を放逐したのは、色派との衝突を避ける為の政府の判断だ。そう教わっただろう?」
「そうだけれど⋯⋯」
「ねえ!!!」
唐突な怒声に、彼女たちは一斉に振り返る。
「なんで手伝ってくれないの!? 見てないで助けてよぉ!!」
「「「⋯⋯⋯⋯」」」
半泣きで訴えるウサギ頭の少年をつくづくと眺めて、桃色の髪の女性は首を捻る。
「いや、何してるのか分かんないんだけど」
「降りてほしいけど、降りてくれないんだよ!」
嘆くウサギ頭の後頭部には、肩車の体勢でぴたりと貼り付く白い幼子。
膝を揺さぶってみたり、後手に腕をつついたりしている少年だが、白い幼子は知らん顔だ。
「ねぇ、降りて〜」
「や。」
「“や”じゃなくてさぁ!」
「や!」
実力行使で降ろそうとしている少年だが、頭の後ろを手探りして引き剥がすのは容易ではない。
「助けて〜」
「だから。頭脱ぎゃいいじゃん」
「脱げないってば!」
「知りませんわ。ご自分でなんとかしてくださいませ」
「ふふっ、そこまで白の御方に好んでいただけるなんて、光栄な事よ?」
「あああ」
途法に暮れるウサギ頭の少年に、桃色の髪の女性がやれやれと立ち上がる。
「ほーら、こっち来な?」
「やーっ!!」
「いだだだだ!! 取れる取れる! 耳が取れる!」
「何やってるんですか、もう⋯⋯」
呆れた様子で、青い髪の少女が寄ってきた。
「お説教は終わり?」
「いえ⋯⋯」
問い掛ける紫色の髪の少女に、青い髪の少女は、ちらりと後ろを振り返る。
そこには、ちんまりと座り込んだ藍色の髪の男性と、膝詰めで怒濤のように叱り続けている緑髪の男性。そして、一歩下がってそれに耳を傾けつつ、藍色の髪の男性が発言する度にキレて怒鳴る、銀髪の青年の姿があった。
「私は、なんだか馬鹿らしくなってしまって。信じられます? 預けられたのは一月も前。例の人は、東の森の方らしくて⋯⋯しかも、罠にかかった時のケガで、二週間も療養してから連れて来てるんですよ?」
「三ヶ月と、一月と、半⋯⋯四ヶ月半?」
「子供連れの旅なら、もっと長くかかっているでしょう? 半年近く、行方知れずになっているのね」
「罠に掛かる前に何もなかったら、だろ? そもそも一人で罠に掛かってるのがおかしくね?」
暗澹たる沈黙が落ちる。
その微妙な間に、ウサギ頭の少年がぽつりと呟いた。
「⋯⋯あの。そろそろほんとに助けてほしいんだけど」
白い幼子を引っ張る桃色の髪の女性。
それに抗いウサギ頭の耳を引っ張る白い幼子。
それにより、中腰の姿勢で踏ん張る事を強いられた少年の図が完成していた。
尚、少年の膝は大分震えている。
「⋯⋯仕方がないですね。ピンクさん、そのまま」
「え」
青い髪の少女は顔色一つ変えずに、無防備に伸びた幼子の脇に手を伸ばした。
「はい。こしょこしょこしょー」
「!? ひにゃははははは!」
ひとたまりもなく、悶絶した白い幼子はその手を離した。
そのまま逃げようとジタバタするのを抱き込み、桃色の髪の女性はなだめるように、ぽんぽんと背中を叩く。
「アンタ、そんな剽軽な事できたんだねぇ」
「ええ、まあ」
澄まし顔で答える青い髪の少女に、歯を見せて笑う桃色の髪の女性。
その横で、もっと早く助けてほしかった⋯⋯と床に伸びている、ウサギ頭の少年がいた。




