4.白い子供
「インディゴ様。今、その子を“シロ”って呼びましたよね?」
桃色の髪の女性の言葉に、彼らは一斉に振り返った。
驚きと、不信。
突き刺さる視線に、桃色の髪の女性は軽く首を竦める。
「さっき近くに来たとき、そうかなって思ってたんですけど⋯⋯」
目配せされたウサギ頭の少年は、こくりと頷く。
「うん。僕にも⋯⋯そう見えた」
「まさか!」
声を上げる橙色の髪の少女に応える事なく、二人は藍色の髪の男性を見つめる。
無言で肩を竦めると、藍色の髪の男性はその幼子を、人の輪の真ん中に下ろした。
「⋯⋯う?」
首を傾げる仕草に、半端な長さの髪がぱさりと肩を擦る。
その髪も、きょとんと見開かれた瞳も。
虹色の明かりに負けず、確かに白色に輝いて見えた。
「まあ⋯⋯」
感極まった吐息を零して、紫色の髪の少女が膝をつく。
「生きて、いらしたの」
恭しく手を取る紫色の髪の少女に、白い幼子はただ、パチクリとまばたきを繰り返すだけだ。
代わりに藍色の髪の男性が、ゆるりと頭を振って答える。
「わからん。アレを生き延びたにしては、歳が合わないしな。先祖返りかもしれんし、どこかへ落ち延びた者達がいるのかもしれん」
⋯⋯現在、この地には様々な色を持つ一族が存在する。
魔力は父母どちらかの色が受け継がれ、魔力の色は髪と目の色となって顕れる。そして白色の者達も、かつては存在した。
だが、白の一族は二十年前に滅んだとされている。
理由は、至って単純な信仰の対立。
魔力の本質とは、“色”か、“光”か。
灯台守にとっては事実として“光”である。しかし、色加工を生業とする職人たちにとっては“色”としての性質の方が身近であり、草の根の信仰として、色派――パレット教が息づいていた。
それ自体は、大して問題ではなかった。
だが、光派――スペクトル教にとって、白とは三原色を混ぜ合わせて出来る、“光そのもの”である。
逆に、パレット教にとって三原色を混ぜ合わせて出来る色は、黒。白は全ての色を薄める“色なし”だった。
この思想の対立に、新興で少数派であったパレット教の焦燥が絡まり、白は邪悪な存在として、過度に敵視された。
結果、一部の過激派が引き際を誤り⋯⋯
起きてはならない大虐殺が、起きてしまった。
スペクトル教は勿論、その事件によって民衆の支持を失い、処刑された過激派や、信仰を隠さざるを得なくなった穏健派ら、パレット教にとっても。
もはや口にするのも憚られる、忌まわしい出来事だった。
それでも、光派のスペクトル教にとって“白”は福音である。紫色の髪の少女は、夢見るように目を細めた。
「神が、わたくし達の元に“白色”を遣わしてくださったのかもしれません」
「いやー、それはさすがに⋯⋯」
「おじさまは神を崇める御心が足りないのです」
ぴしゃりと言い切る紫色の髪の少女の横に、銀髪の青年が立つ。
「そんな事より、コイツは親についてどう言ってるんです? 何か聞き出せないんですか?」
「“そんな事”? “コイツ”??」
冷ややかに問い詰める銀髪の青年。
絶対零度に冷え込む、紫色の髪の少女。
その二人を前にして。
白い幼子は、逃げた。
「「あっ」」
「あーっ! 登らないで登らないで!! なんで僕!? なんで僕なのーっ!?」
「顔が毛むくじゃらだからだろうなぁ」
「なんですかそれーっ!?」
背中によじ登られて叫ぶウサギ頭の少年をよそに、しっかりとその頭に抱き着いた幼子は、満足げに息をつく。
「アンタ、その被り物取ったら?」
「取れないよ!? 被り物じゃないもん! 素顔だもん!」
「あー、はいはい」
モメる桃色の髪の女性とウサギ頭の少年を眺めながら、青い髪の少女が、つっと銀髪の青年の傍に寄って囁く。
「シルバーさん。とりあえず、しばらくあの子に近付かないでください」
「なんでだ」
「怖がられてます」
「俺が何をした!」
「出会い頭に脅したでしょう?」
「話し掛けただけだ!!」
両サイドから青色と紫色の少女に非難され、銀髪の青年は歯噛みする。
それを横目に、緑色の髪の男性が顎をさすった。
「ふむ。仕事をサボって何をしていたかと思えば、“白色”の保護に動いていた訳か。お前さん、どこでそんな情報を掴んだのだ?」
「サボった言うな。まあ⋯⋯ちょっとしたツテでな」
「何をおっしゃってるの!? サボりはサボりですわ! どういう事か、もっとちゃんと説明してくださいませ!」
眦を吊り上げる橙色の髪の少女に、ふむ。と頷いて、藍色の髪の男性はその場に胡座をかく。
つられるように、銘々がその近くに腰を下ろした。
七人全員の視線が集まったのを確認して、藍色の髪の男性は重々しく口を開く。
「実はこの前、昔の知り合いがわざわざ訪ねてきおってな。ソイツがこの子を連れてきたんだが⋯⋯森で罠に掛かっていたらしい」
「罠」
「森?」
眉を顰められるのも気にせず、藍色の髪の男性は、うむうむと頷く。
「手当はしたが、何しろ“白”だ。扱いに困って、わしを頼ってきた⋯⋯という訳らしい」
沈黙が、部屋に落ちる。
誰も口を開かないまま、一分ほどが経過し⋯⋯
「え? それだけ?」
「おう」
桃色の髪の女性のツッコミに、藍色の髪の男性は元気よく肯定を返した。
頭を抱えた緑髪の男性が、深い溜息をつく。
「オイ、藍の。ソイツはどうした? 今どこにいる」
「帰ったぞ?」
藍色の髪の男性の即答に。
緑髪の男性の拳骨が、脳天に落ちた。
「つまり、人の子を罠に掛けてビビった阿呆が家も探さず親の許可も取らず連れてきた子供を、なんっっにも考えずに押し付けられて逃げられた訳だな!?」
「いやまあ、そういう説もなくはないと思わなくもないかもしれない」
「アホー!!!!」
一瞬呆気に取られた後、ウサギ頭の少年が悲鳴を上げる。
「誘拐ですよそれー!!」




