第十二章 五冊の事件
県警本部に置かれた合同捜査本部では、《哭島五人失踪事件》という一括した事件名が廃止された。
代わりに、五つの事件番号が付された。
山岸遼死亡・遺体遺棄事件。
小野寺岳所在確認・個人情報保護案件。
高瀬未央死亡事件。
藤村亮介列車内救護義務違反事件。
佐久良心春列車内死亡・証拠隠滅事件。
海で目撃された最初の白い布包みも、潮が落ちた翌日に回収された。中に入っていたのは汐崎千広の舌で、身元は鑑定によって初めて確定した。
あの時、列車の窓から見ただけの全員が「あれは舌だ」と思った。結果だけ見れば当たっていた。だが、当たったことと、証拠があったことは同じではない。
二階堂はその一文を、報告書の注意事項へ残した。――意味が先にある時、人は未確認のものまで正解に見える。
同じ部署だけでは扱えない。
採石場事故は労働・施設管理。
家出児童は福祉と本人保護。
無理心中は殺人事件。
列車内の二件は運行と救護、安全設備の責任。
五冊のファイルは、別々の捜査班へ運ばれた。
真壁は、その光景を哭島駅のホームから見ていた。
復刻列車の運行は中止されている。
展示車両から五骸童子のパネルは外されたが、代わりの写真は置かれなかった。
「展示を作り直さないんですか」
駅員が二階堂へ訊いた。
「捜査中の事件を、急いで一つの説明へ戻さない方がいい」
「何もないと、忘れられませんか」
「空白があることを表示してください」
二階堂は短い文案を渡した。
《ここに展示されていた五骸童子の物語は、複数の異なる事件を一つへ統合したものでした。現在、各事件を個別に調査しています》
名前は並べない。
写真も同じ大きさへ揃えない。
一人は生きており、公開を望んでいないからだ。
九条は五冊のファイルが別々の車へ積まれるのを見た。
「同じ列車には乗せないんですね」
「行き先が違うからな」
真壁が答えた。
二階堂は線路の分岐器を見た。
一本だった線が、駅の先で複数へ分かれている。
「最初から、こうすればよかった」
「最初から分かれていたんです」
九条が言った。
「誰かが、同じ線路へ載せただけです」




