第七話: 追手
鏡花と遊びに行った日から、週に2,3回は尊の部屋に入り浸るようになった。
最初は琥珀の監視という名目だったが、持参する有名店の和菓子屋スナック菓子の力は絶大だった。
琥珀は当初鏡花を警戒していてたが、現代の味覚に手懐けられたようで、今では鏡花と普通に接する仲になった。
琥珀は現代の生活に徐々に慣れ、今となっては独り立ちすべく努力しているようだった。
尊もそろそろ自身の両親にも連絡し、戸籍など市民として生きる権利を与えるようにしないとと考え始めていた。
そんなある日の昼さがりのこと。
大学が休講だった尊はPCで調べ物をし、琥珀はタブレットで動画サイトに夢中になっていた。
コン、コン
控えめだが、玄関扉を叩くノック音がした。
今時ノックするのは怪しい輩に違いないから、尊は無視をすることにした。
ノックは次第に音が大きくなる。琥珀が不安そうに尊を見る。
「気にしないで。どうせ訪問販売とかだから。」
尊がそういうと琥珀はタブレットの方を向いた。
ピンポーン
今度は呼び鈴の音がした。モニターを確認した尊は思わず息を呑んだ。
画面越しに立っていたのは、ボロボロの古着を纏い、顔を深いフードで覆った「物乞い」のような人物。
全身から漂ういかがわしく、禍々しい気配が画面越しからも伝わってきた。
関わり合いを持ちたくないので当然の如く無視を決めこむことにする。
ガチャガチャ!
すると今度は無理矢理でも玄関扉を開けようとする音がした。
鍵は閉まっていて開かないが、琥珀が怯えて尊に駆け寄る。
琥珀の怖がる姿を見て、尊は無法者の行動に流石に苛立ち、玄関に向かった。
「何かごようですか?これ以上そこにいるなら警察呼びますよ」
落ち着いて尊がいうと扉の向こう側は静かだ。
しかし扉の向こうのものは何らかの術を用いたのか、ガチャっと音がしたと思うと鍵が外れた。
そしてあっという間に扉が開き、異様な気配が部屋に流れ込んだ。
「…返せ。贄の子…返せ…」
掠れた、しかし獣の唸りに似た声。そのものはそう言うやいなや、
跳躍し、尊の頭上を飛び越えて部屋の奥へと侵入した。
「きゃあぁぁぁ」
琥珀の叫び声が上がる。訪問者は琥珀の掴んでいるようだったが、
人間の手ではなく猿のように毛むくじゃらの手に見えた。
「琥珀に手を触れるな!」
尊はその訪問者の首元に勢いよく手刀を当てる。
首元に当たった感触はあるが、服が邪魔をしているのか手応えが硬い。
訪問者が振り向く、フードが脱げ落ち、顔面が顕になった。
赤黒い顔に金色の瞳、全身剛毛の猿のような顔つき、と言うより猿そのものだった。
「キィぃぃ」
猿は唸りをあげるが、尊は気にせず前に出て間髪入れずに眉間に拳を叩き込む。
ゴンッ!
「ウキィぃ」
猿は急所を当てられて悶絶しながら床を転がり、部屋の端に追い込まれる。
尊は琥珀を守るようにその前に立ち、睨みを聞かせる。
さらに追撃できるように徐々に猿を詰めていく、
猿は怯えきり、涙を流しながら、玄関に向って勢いよく逃げ去っていった。
「ふぅ」
尊は拳の力をゆめて、大きく息を吐いた。
琥珀は腰を抜かしたように座り込んでいた。
「今のは一体なんだったんだ。猿みたいだった」」
「…村で聞いたことがあるんです。山神様は猿を手下に従えていると…」
「贄の子を返せって言ってたし、琥珀が解放されたことを敏感に察知して、猿をよこしたと」
「はい…」
尊は膝をつき、琥珀の目線に合わせてその肩を抱き寄せた。
「姉様…あの怖くて…」
「安心して。私の目が黒いうちはあなたには手を出させないから」
そう言って、尊が微笑むと琥珀は安心したように尊の胸に顔を埋めた。
「姉様はとてもお強いんですね。ああも簡単に追い払うなんて」
「まあね、家柄というかね。昔取った杵柄というか」
「…ずっと守ってくださいね」
琥珀は安心したように目をつむっている。
尊は満更でもなく琥珀を抱きしめながらその柔らかな髪を撫でた。




