第五話: 琥珀とデート
週末に尊は琥珀を連れて近くのデパートを訪れることにした。
琥珀を外に慣れさせるためと、琥珀の服を用意してあげたかったからだ。
「尊様、あのガラスの箱の中に宝石がいっぱいあります。キラキラ光って眩しい。これならきっと王様に献上できますね」
「あれは宝石店。あんまりキョロキョロしないで、迷子になっちゃう」
デパートの中の現代のきらびやかな光景に琥珀は子供のように目を輝かせている。
尊はそんな琥珀とはぐれないよう、自然な動作で彼女の手を握った。
「…尊様の手、あたたかいです」
「はぐれたら大変だから。ほら行こう。」
尊は照れ隠しに少し早歩きになりながら、お目当ての若者に人気の洋服が並ぶレディースフロアへと向かった。
「これなんて琥珀に似合いそう」
尊が手に取ったのは淡いラベンダー色のワンピース。ふんわりとした裾が琥珀の透明感を引き立てるに違いない。
「これを私が来ても良いのですか?まるでお姫様が着るような美しさです」
琥珀は目を輝かせ、大切そうにワンピースを胸に抱いた。
「サイズ合うか調べるために試着しよう。靴は脱いでね」
尊は琥珀を試着室へ押し込み、カーテン外で待機する。
中からは「ふんぬっ」「ひゃっ」という小さな悲鳴や衣擦れの音が聞こえてきて不安になる。
「あの尊様、助けていただけますか…」
消え入りそうな声に尊は失礼とカーテンを少し開けた。
そこには背中のファスナーが中途半端な位置でとまり、肌を大胆にさらしたまま、
必死に背中に手を伸ばす琥珀の姿があった。
「…っ、前向いてて。直してあげるから」
尊は動揺を隠すように琥珀の背後に回った。
狭い試着室の中、至近距離で漂う琥珀の体温と少女特有の甘い香り。
尊の指先が琥珀の柔らかな背中に微かに触れる。
「あ…尊様の手、すごく熱くて、くすぐったいです…」
「…はいはい。動かないで、ファスナー閉めるから」
尊は噛んでしまったファスナーを慎重に外し、上まで引き上げる。
指先が琥珀のうなじに触れると二人の間に甘く痺れるような緊張感が走った。
試着室から出てきた琥珀は、まるでフッション誌から抜け出してきたキッズモデルいやモデルのように今風に整っていた。
「どうでしょうか…?」
「…あぁ、可愛い。すごく似合ってる。」
尊の直球の感想に琥珀が顔を赤らめる。
会計のためにレジに向かうと店員が微笑ましく二人を見つめていた。
「仲の良い姉妹ですね。妹さんにとてもお似合い。お姉さんセンスいいですね。」
「いえ、その…」
尊が誤魔化そうとした瞬間に琥珀が尊の腕にギュッとしがみついた。
「はい、尊様はとっても大切で大好きなお姉様です!」
琥珀は一点の曇りもない満面の笑みで言い切った。
「おっ、おねぇさまって!?」
不意打ちのお姉様呼びに尊はキュンとなってしまった。
お目当ての服は手に入れたので、帰る前にデパートのフードコートでアイスを食べることに。
尊は琥珀のために色とりどりの味が楽しめるアイスを買ってあげた。
「お姉様、これは冷たいのに天上の味がします!」
琥珀はアイスの美味しさに感動しているようだが、新調したばかりの服を汚さないように気をつけている。
「あの、私もお姉様のアイスが食べたいです。」
琥珀が上目遣いで尊を見つめる。
「…はいはい、わかったから、ほら、あーん」
「あーん。ぱくっ。ふふ、お姉様の味、とても美味しいです」
尊はパクッと一口に食べる愛らしい妹をみて顔が真っ赤になる。
(いや妹じゃないか)
「変な言い方しない。あとそのお姉様ってもうやめていいよ」
「えー、せっかく仲良い姉妹って呼ばれたのに。…続きはお家ですね?」
「家でもやめて恥ずかしい。」
残念そうにしつつも、どこか確信犯的な笑みを浮かべる琥珀だった。
デパートからの帰り道、尊は隣を歩く自慢の妹ではなくて琥珀を横目で見ながらふと戦慄した。
(一体、お姉様ってどこでそんな言葉が出てきたのか)
PCとスマホの検索履歴調べておこう、そう心に決めたのだった。




