第四話: 幼馴染の登場
大学の講義終了を告げるチャイムと同時に尊は手早く荷物をまとめて、教室を後にする。
最近の彼女は放課後の寄り道を一切しない。以前なら図書館や公園内の散策に行った時間が今はすべて自宅へ待つ琥珀のために割かれていた。
「…あ、待ちなさいよ尊!」
背後から飛んできた鋭い声に尊は振り返る。
金髪にツインテールを揺らし、派手なミニスカートとニーソックスを完璧に履きこなした美少女、八咫鏡花がそこに立っていた。刺さる人には刺さる姿だが、尊は小さい頃からの付き合いで見慣れていた。
「最近、学校終わるとすぐに帰るね。一緒に遊びに行こうよ」
「うーん、今はちょっとね。また今度」
「ちょっと、またそれ! …怪しいわね」
鏡花は不満げに頬を膨らませるが、尊はそのまま足早に去っていく。
教科の瞳に探るような鋭い光が宿った。
鏡花はこっそり後をつけて尊宅へ向かった。
尊はアパートに戻ると室内では琥珀がテレビのぐるめ番組を見て、「これが噂のスイーツですか!」と目を輝かせている。
その平和な空気を切り裂くように激しいノック音が響いた。
「尊、入るよ。今日はもう逃さないから」
「え、鏡花!?」
間もなく扉が勢いよく開く。そこにいたのは苛立っていることを隠さないほど鋭い眼光の鏡花だった。
彼女の視線が部屋で固まっている琥珀に突き刺さる。
「…女。しかも小いや中学生くらい?妹じゃないのは間違いないよね。」
「これには深いわけが」
「尊様、こちらの方は?」
琥珀の様付けが火に油そそぐ。
「サ、サマ? 小学生くらいの子に様って呼ばせるってあんたまさか…
この破廉恥、青少年健全育成条例違反!」
「いやいや、勘違いしないで。全て話すから。」
尊は鏡花を落ち着かせて、石を拾ったあの日から、琥珀が生贄となったことまで全て話した。
教科の実家は尊の家系とも繋がりがある。常人なら信じない話も彼女なら理解してくれた。
「ふーん、石の中からねぇ」
鏡花は納得したように腕を組んだが、琥珀を見る目はまだ少し厳しい。
「でも尊、この子をどうするつもり?ずっと隠し通せるわけでもないし、あんたの両親に助けて貰ってもっとマシな保護施設とか」
「まあそうなんだけどね…」
「嫌です!私は尊様と一緒にいたい!」
琥珀は叫ぶように言った。
「尊様は石の中に閉じ込められた私を割って救ってくださった方です。このご恩を返すまでは私は離れません。」
「ご恩ってもしかしてふしだらなことじゃないわよね」
鏡花が釘を刺すようにツッコミを入れる。
尊はあの日の検索履歴が一瞬頭をよぎった。
「いやいや…多分そんなことないよ。でもいきなり離れ離れも悲しいし、もう少し見守ってたい。」
鏡花は尊と琥珀を見比べた後に深いため息をついた。
「わかったよ。じゃあこの件は黙っておいてあげる。」
「ありがとう。さすが幼なじみ」
「ただし!」
鏡花は尊の胸ぐらを指差し、顔を近づけた。
「私も時々、ここにこさせてもらうわ。二人の様子が気になるし、尊がこの子に独り占めされるのは気に食わない。」
「わかった。好きにして」
尊は観念したようにうなづく。
鏡花はフンと鼻を鳴らし、琥珀に向き直った。
「いい、琥珀ちゃん、尊は昔から世間知らずだから、私がしっかり監視してあげるからね。」
「はい、鏡花様、よろしくお願いします。」
「…様はやめなさいって。鏡花でいいわよ。」
こうして、狭いワンルームに三人の乙女の想いが渦巻いた賑やかで少し危うい日常が本格的に幕を開けた。




