第十五話: 正体
大蛇が二人に襲いかかる。絶体絶命、そう思われた瞬間、琥珀と大蛇の間に目に見えない透明な壁が展開された。
凄まじい衝撃音と共に蛇の巨体が壁に衝突する。
「…鏡花ちゃん…?」
呆然とする琥珀の前で鏡花は震える指先を天にかざし、必死に念じていた。
いつもの雰囲気とは違う姿で、瞳には決意が宿っている。
「…黙ってたけどね。実は私の家系、古くから尊の家に仕える術師の末裔なのよ。…尊、いや尊様を守るのが私の本来の役目だったの」
「姉様の守護者…」
「そう、でも私は力が弱かった。だから、幼馴染としてそばにいるのが一番った。
あの人の隣にいたかったから。そして、ずっと見守ってきたんだから」
鏡花は話しながらも結界を維持し続ける。しかし限度があるのか疲れが見え始めていた。
「琥珀ちゃん、その花を持って早く行って。私のことはいいから、尊を助けて」
「そんな…私一人で戻るなんて…」
「いいから行って。…多分、もうこの結界は限界になる。尊に伝えて…いや何でもない。
私のことなんて言わなくていい。ただ早くその花を彼女に。」
琥珀は涙を拭い、背後を振り返らずに走り出した。
大蛇がそれを追おうとするが、鏡花の結界が進めさせない。
(…大好きだったよ…愛してた…ずっと、ずっとそばにいたかった…)
それは一度も本人に伝えられなかった、鏡花の本当の想いだった。
病院に駆け戻った琥珀はなりふり構わずにその花を煎じ、薬液を器に満たした。
しかし尊は眠ったように目を瞑り自力で飲めるような状況でなかった。
琥珀は迷うことなく薬液を自分の口に含み、青白くなった尊の唇に唇を重ねる。
ゆっくりと祈りを込めて、自分の対応と共に薬を彼女の喉へと流し込んでいく。
一度、二度…何度も何度も琥珀は尊に口付けを繰り返した。
すると尊の頬に微かな赤みが差していき、健康的な肌色へ戻っていく。
「っ、ん…」
尊が力強く息を吹き返した。
「姉様…!」
目を覚ました尊を琥珀は泣きながら抱きしめた。
「…琥珀?…私は…。蛇の毒気に当てられて病院まで辿り着いてその後に…」
「はい、病院では何もできなくて鏡花ちゃんと一緒に薬草を取りに行きました。
薬草が効いて、姉様は回復されて…」
琥珀が説明するが声が暗く、尊は異変を察知した。
病室に騒がしくも愛おしい幼馴染の気配がない。
「…鏡花は?鏡花はどこ?」
「…鏡花ちゃんは私を逃すために山で蛇に捕まって…姉様!?」
尊は震える体で立ち上がると、枕元に置かれていた剣を掴んだ。
傷は癒え、毒気も解毒されてはいたが、視界は歪んでいる。
それでも尊は再び山へ向かうしかなかった。
かつて、蛇と対峙したところに到着するが、そこには鏡花も蛇もいなかった。
しかし地面には鏡花の使ったのであろう無数のお札が焦げて散らばり、
彼女のお気に入りだった服の切れ端が残されていた。
そして、大蛇が草木を薙ぎ倒しながら、奥へと進んだであろう道があった。
尊はその道を睨みつけた。




