第十三話: 再戦
実家から持ち出した霊剣は鞘に収まっていてもなお、尊の手に微かな振動を伝えていた。
剣が向かうべき方向を示してくれる。
進むべき道は山のさらに奥、清流が流れる川づたいだった。
尊は迷いなく、険しい道なき道を進んでいく。
川のほとりにたどり着いた尊の足が止まった。
そこには鱗を月光に光らせ、静かに眠る大蛇の姿があった。
しかし付近には琥珀の姿はない。嫌な予感がした。
蛇の傍には琥珀が大切にきていたワンピースの切れ端、脱ぎ捨てられた靴が落ちていた。
蛇の口には琥珀結んでいた帯のようなものが無慈悲に垂れ下がっている。
尊は確信した。唇を血が出るくらいに強く噛み、怒りを押し殺し、殺気を抑える。
一呼吸おいて尊は蛇に静かに近づく。
そして肉薄すると尊は全身の力を霊剣に注ぎ込み、剣の示す蛇のお腹を一刀両断で切り込む。
ギャァぁぁぁぁ
蛇は大きな叫び声をあげる。腹部を深く切り裂かれた蛇は苦悶に身を与すりながら、
尊へと襲いかかる。鋭い牙が尊を狙うが、それを回避し、すれ違いざまにさらなる一撃を叩き込んだ。
大蛇の巨体が剣によって短く切り刻まれていく。
キシャァァァ
追い詰められた大蛇が口から緑色のガスを大量に吐き出した。
尊は咄嗟に腕で口元を覆ったが、皮膚を焼くような毒気が全身を襲う。
意識が遠のきそうになる。
(…まだだ。琥珀を助け出すまでは倒れるわけには行かない…)
尊は最後の力を振り絞り、大蛇の最も膨らんだ腹部を渾身の力で一文字に切り裂いた。
吐き出す黒いち血ともに、切られ断面から何かが滑り落ちる。
「…琥珀!」
尊は駆け寄ると、それは粘液に塗れてはいるが、琥珀だった。
飲み込まれてから、時間が経っていないようで綺麗な姿だ。
彼女の手にボロボロになったお守りのお札が握りしめられていた。
お札が発する霊力が彼女を守っていたのだ。
「姉様…?」
琥珀が力無く、しかし確かに瞼を開いた。
尊は彼女を強く抱きしめた。
「よかった…本当に良かった」
半身を失い、戦う気力を失った蛇は、懲り懲りとばかりに山奥の深い闇へ消えていった。




