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五線譜はアオハルを叫ぶ  作者: おりみみ


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6/11

第6話 その空は快晴か、曇天か【睦月空】

 ヤバイわよ!


 夢が作った曲が良すぎて、、、


 ヤバイわよ!!


 私たちのそれぞれの得意パートや曲調の切り返し、リズム感や歌詞のかっこよさ……どこを取っても。


「ど、どうだった?」


「ヤヴァイわよ!!!」


「きゃっ!? ……マジ、驚かすなし」


 猫のようにビクつく夢は、案の定なのか、私以外の皆からも驚きと歓声に攻められている。


「ゆめっち凄いじゃん! 我慢した甲斐があったしっ、最高にアガる曲で超嬉しい!」


 特に夏は顔を真っ赤にして喜んでるわ。拳をグーにして両腕をブンブンと振っちゃって。


「シーッ、そ、そんな褒めんなし……あーしはギターやってたのもあって、コード進行とか初歩的なことは出来たし、これくらいはまあ」


 夢は夢で頬を赤らめてるわ。もっと誇らしげにしても良いと思うんだけどな、私なら歩く人という人に自慢して回るのに。


 ていうか、


「せっかくなんだし歌いましょうよ! 私たちがこの曲を歌えばもう、最強よ!」


 そうと決まればまずは話し合いと調整。誰がどう歌うか、どう合わせるか、注意するべき点を絞り、テーマを築く。


 ある程度固まったところで、試しに一通り演奏してみる。

 最初こそ上手くはいかない。しかし、パズルのピースが徐々に集まるように、私たちが描きたい画が完成して行く。


 楽しい。

 オリジナル曲が、私たちの個性を、思いを、さらに高く伸ばしてくれるようで心地いい!


 気づけばあっという間に最終下校時刻に近づいて、六月の長い昼も夕焼けに差し掛かっていた。


「みんなお疲れ~、はい、ジュース持ってきたよ」


 翼が両手に袋で持ってきた缶のオレンジジュース、私の大好きな『なっちゃん』だ。「ほい」と翼が私の頬に、水滴の滴る冷えた缶ジュースを押し付けて来るものだから、少し変な声を出して驚いてしまった。


「ありがと、でもどうしたのこれ?」


「顧問の先生が奢ってくれたんだ」


「そっか、後でお礼言わなくちゃね……って」


 ……え?


「私たちの顧問っていたんだ……全然部室に来ないから存在を知らなかったんだけど」


「ホントたまにしか顔出さないからね、あの先生。知らないのも無理ないよ」


 そして夢たちにも同じように笑顔と押し付けジュースを振りまく翼。ぐびぐびとジュースを飲んでいた私は、そんな翼を眺めている時に、ふと気づいたことがあった。


「翼、ネイルしてるじゃん」


 私のセリフに、夢も「え?」と声を漏らし、興味津々に翼の手のネイルを観察し始める。

 なっちゃんを涼しげな顔で飲んでいた翼は、「良くグラスネイルに気づけたね」と口にした後、次第に上機嫌なドヤ顔になった。


「ウチがネイル教えたんだ~。一本ネイル、初めての人にめちゃオススメだよ!」


「実は卯月もしてみました~」


 いつの間にか先駆けしている卯月が、水色のネイルを見せびらかして来る。もしかして、ネイルしてないのは夢と私だけ?


「ズルい、ズルいわ! 私にもその一本ネイルやらの仕方を教えてよ夏!」


「えぇ、じゃ、あーしも試してみようかな」


「もちろん良いよ~。爪に合う合わないあるから、まずは薄めに塗るところから始めよ☆」


 キャッキャとしながら、歌とネイルと締めのジュースを満喫した今日。そして明日、明後日と、夢が作詞作曲した曲を歌いながら日数を重ねて行った。



 地獄の関門こと期末テストも終わり、午前中に授業が終わるようになった夏休み手間の七月。


 私たちのバンドの専用YouTubeアカウントに、夢の作詞作曲した曲を歌った、念願のミュージックビデオをアップロード。

 一枚絵のイラストは私が担当、編集は翼が頑張ってくれて、超~満足な仕上がりに。ちなみにイラストは、私たちモデルのキャラクターが、青空と草原を背景に青春を謳歌しているような構図で描いたわ。完璧すぎてニヤニヤが止まらない!


 再生回数も絶好調で、初投稿にしては異例の一万を超えることが出来たわ。夢たちの奇跡の路上ライブ動画が、再生回数に拍車をかけたんだとか。

 夢の、そして私たちの曲が世界の皆に届けられたことが、こんなにも嬉しい事だなんて……


 そして、ごく普通な日常風景、いつものように部室に集まって、雑談をしたり歌ったりとしていたある日。


 特大びっくりニュースが飛び込んで来た。


「有名なボカロPから、コンポーザーとしてユニットを組みたいって依頼が来たんだけど」


 夢が開くノートパソコンに映った、SNSのDM画面。そこには私たちのミュージックビデオの称賛の声と共に、ユニットを組みましょうとの文が丁寧に書かれていた。活字アレルギーな私にとってはとても難解だし……


「コンポーザーって何よ?」


「作曲家。曲を作って貰って、それを歌う」


「え、え!? 凄い事じゃない! で、誰なのよそのボカロPは!?」


「ほら、カラオケで歌ってた『脳漿ライザー宣言』の」


「人工の白カメP!!?」


 驚く私の声と同時に、画面をマジマジと見ていた蒼が奇声のようなものを発するわ。なんてったって私と蒼は、CDを購入している程の人工の白カメPのファンなのだから。


「でも……」


 と夏が言葉を続けるよりも先に、翼が口を開く。


「依頼者からは、ユニットを組みたいと書かれている。これは単なる音楽提供じゃない。コンポーザーとボーカリストが手を組んで、ひとつのアーティストとして活躍しようという申し出だ。かの有名なバンド、YOASOBIやヨルシカのようにね」


 それってつまり……


「人工の白カメPとお仕事出来るってこと!? ええ、すっご!!」


「まあ、凄いことは凄いよ。僕もこれでもまだ心の整理が出来ていないくらいには驚いている。でもね」


 翼は少し間を置くように、ふぅとしてから続けた。


「組む人数は一人、僕たち五人から一人を選びたいとの事だ。そして、向こうが推薦している人物は、空、君だんだ」


 部室に居る皆の視線が、自然と私に集まる。

 向こうが、推薦……?


「直々に私と組みたいって言ってるの!!? え!? そんなの組むに決まってるじゃない!!!」


 大興奮する私とは対照的に、目と口を大きく開けて、呆気にとられている翼。周りの皆も同じような反応を取っていた。



 私は、全然理解していなかったんだ。

 この選択が、私たちのバンドから、誰かが一人抜けることを意味することを。

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