第6話 その空は快晴か、曇天か【睦月空】
ヤバイわよ!
夢が作った曲が良すぎて、、、
ヤバイわよ!!
私たちのそれぞれの得意パートや曲調の切り返し、リズム感や歌詞のかっこよさ……どこを取っても。
「ど、どうだった?」
「ヤヴァイわよ!!!」
「きゃっ!? ……マジ、驚かすなし」
猫のようにビクつく夢は、案の定なのか、私以外の皆からも驚きと歓声に攻められている。
「ゆめっち凄いじゃん! 我慢した甲斐があったしっ、最高にアガる曲で超嬉しい!」
特に夏は顔を真っ赤にして喜んでるわ。拳をグーにして両腕をブンブンと振っちゃって。
「シーッ、そ、そんな褒めんなし……あーしはギターやってたのもあって、コード進行とか初歩的なことは出来たし、これくらいはまあ」
夢は夢で頬を赤らめてるわ。もっと誇らしげにしても良いと思うんだけどな、私なら歩く人という人に自慢して回るのに。
ていうか、
「せっかくなんだし歌いましょうよ! 私たちがこの曲を歌えばもう、最強よ!」
そうと決まればまずは話し合いと調整。誰がどう歌うか、どう合わせるか、注意するべき点を絞り、テーマを築く。
ある程度固まったところで、試しに一通り演奏してみる。
最初こそ上手くはいかない。しかし、パズルのピースが徐々に集まるように、私たちが描きたい画が完成して行く。
楽しい。
オリジナル曲が、私たちの個性を、思いを、さらに高く伸ばしてくれるようで心地いい!
気づけばあっという間に最終下校時刻に近づいて、六月の長い昼も夕焼けに差し掛かっていた。
「みんなお疲れ~、はい、ジュース持ってきたよ」
翼が両手に袋で持ってきた缶のオレンジジュース、私の大好きな『なっちゃん』だ。「ほい」と翼が私の頬に、水滴の滴る冷えた缶ジュースを押し付けて来るものだから、少し変な声を出して驚いてしまった。
「ありがと、でもどうしたのこれ?」
「顧問の先生が奢ってくれたんだ」
「そっか、後でお礼言わなくちゃね……って」
……え?
「私たちの顧問っていたんだ……全然部室に来ないから存在を知らなかったんだけど」
「ホントたまにしか顔出さないからね、あの先生。知らないのも無理ないよ」
そして夢たちにも同じように笑顔と押し付けジュースを振りまく翼。ぐびぐびとジュースを飲んでいた私は、そんな翼を眺めている時に、ふと気づいたことがあった。
「翼、ネイルしてるじゃん」
私のセリフに、夢も「え?」と声を漏らし、興味津々に翼の手のネイルを観察し始める。
なっちゃんを涼しげな顔で飲んでいた翼は、「良くグラスネイルに気づけたね」と口にした後、次第に上機嫌なドヤ顔になった。
「ウチがネイル教えたんだ~。一本ネイル、初めての人にめちゃオススメだよ!」
「実は卯月もしてみました~」
いつの間にか先駆けしている卯月が、水色のネイルを見せびらかして来る。もしかして、ネイルしてないのは夢と私だけ?
「ズルい、ズルいわ! 私にもその一本ネイルやらの仕方を教えてよ夏!」
「えぇ、じゃ、あーしも試してみようかな」
「もちろん良いよ~。爪に合う合わないあるから、まずは薄めに塗るところから始めよ☆」
キャッキャとしながら、歌とネイルと締めのジュースを満喫した今日。そして明日、明後日と、夢が作詞作曲した曲を歌いながら日数を重ねて行った。
地獄の関門こと期末テストも終わり、午前中に授業が終わるようになった夏休み手間の七月。
私たちのバンドの専用YouTubeアカウントに、夢の作詞作曲した曲を歌った、念願のミュージックビデオをアップロード。
一枚絵のイラストは私が担当、編集は翼が頑張ってくれて、超~満足な仕上がりに。ちなみにイラストは、私たちモデルのキャラクターが、青空と草原を背景に青春を謳歌しているような構図で描いたわ。完璧すぎてニヤニヤが止まらない!
再生回数も絶好調で、初投稿にしては異例の一万を超えることが出来たわ。夢たちの奇跡の路上ライブ動画が、再生回数に拍車をかけたんだとか。
夢の、そして私たちの曲が世界の皆に届けられたことが、こんなにも嬉しい事だなんて……
そして、ごく普通な日常風景、いつものように部室に集まって、雑談をしたり歌ったりとしていたある日。
特大びっくりニュースが飛び込んで来た。
「有名なボカロPから、コンポーザーとしてユニットを組みたいって依頼が来たんだけど」
夢が開くノートパソコンに映った、SNSのDM画面。そこには私たちのミュージックビデオの称賛の声と共に、ユニットを組みましょうとの文が丁寧に書かれていた。活字アレルギーな私にとってはとても難解だし……
「コンポーザーって何よ?」
「作曲家。曲を作って貰って、それを歌う」
「え、え!? 凄い事じゃない! で、誰なのよそのボカロPは!?」
「ほら、カラオケで歌ってた『脳漿ライザー宣言』の」
「人工の白カメP!!?」
驚く私の声と同時に、画面をマジマジと見ていた蒼が奇声のようなものを発するわ。なんてったって私と蒼は、CDを購入している程の人工の白カメPのファンなのだから。
「でも……」
と夏が言葉を続けるよりも先に、翼が口を開く。
「依頼者からは、ユニットを組みたいと書かれている。これは単なる音楽提供じゃない。コンポーザーとボーカリストが手を組んで、ひとつのアーティストとして活躍しようという申し出だ。かの有名なバンド、YOASOBIやヨルシカのようにね」
それってつまり……
「人工の白カメPとお仕事出来るってこと!? ええ、すっご!!」
「まあ、凄いことは凄いよ。僕もこれでもまだ心の整理が出来ていないくらいには驚いている。でもね」
翼は少し間を置くように、ふぅとしてから続けた。
「組む人数は一人、僕たち五人から一人を選びたいとの事だ。そして、向こうが推薦している人物は、空、君だんだ」
部室に居る皆の視線が、自然と私に集まる。
向こうが、推薦……?
「直々に私と組みたいって言ってるの!!? え!? そんなの組むに決まってるじゃない!!!」
大興奮する私とは対照的に、目と口を大きく開けて、呆気にとられている翼。周りの皆も同じような反応を取っていた。
私は、全然理解していなかったんだ。
この選択が、私たちのバンドから、誰かが一人抜けることを意味することを。




