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五線譜はアオハルを叫ぶ  作者: おりみみ


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第2話 夢見る少女達よ【如月夢】

「ここが今日から私達の部室……!」


 音楽室特有の、穴が細かく空いた防音壁。楽器を紫外線から守る分厚い赤紫色のカーテン。そこから微かに零れる光が、辺りを優しく照らす───


「めっちゃホコリ臭いんだけど!!!」


 ことなど無く、現実は非情。

 新設したばかりの軽音楽部に与えられた部屋は、学校から遠く離れた校庭の隅っこ……防音何処かダダ漏れ確実なボロ部屋だった。


 先週、バンドグループの生演奏に感化されたあーしらは、全員揃って軽音楽部に入部すると決めたんだけどさ、まさかここの高校に軽音楽部そのものが無かったとはね。


 扉を開けて即叫び散らかした獣、空は、早速掃除に取り掛かるのか箒を取り出しては無造作に床を叩いている。


「余計に煙たくなるし。貸して」


 あーしは半ば無理やり箒を取り上げ、端から丁寧にチリを集めて見せる。


「ゆめっちが掃除してるところ初めて見たかも! 超貴重なシチュじゃん」


「いや……あーしも掃除くらいするし」


 日々をダラダラ過ごすのに必要なのは、適度な散らかり具合。

 リモコンをも引き出しにしまう綺麗な部屋でも無く、足場が脱ぎ捨てた服で埋まった汚部屋でも無い。手に届く場所に日用品が転がっている程度が、ダウナーにとって丁度いい部屋なのだ。


「ごめん、僕はこういった細々と物が散漫している場所が苦手で……外で窓拭きの担当をしてもいいかな?」


「うん……部屋は卯月たちに任せて」


 チリトリを二つ両手に持った蒼は、腕をバッテンに交差させて、翼に自信満々にそう言っている。それ、逆に心配になるんじゃないかな。


 あーしと夏を中心にして、早くも一時間。大方部屋が片付いて来た頃。


「やっと終わった……」


 と水拭きが完了した床に腰を下ろす私に。


「よ~し、軽音楽部らしくさ、気分転換にカラオケしよ☆」


 頭上でそんな夏のセリフが飛び込んで来た。


 ……マジで言ってる?

 体力底なしとか、怖ー……お化けじゃん。


「夏、それカラオケ機!? すっご~い! ねぇねぇ何歌う!?」


 目を輝かせる空が、カラオケ機の周りをカバディするかの如く往復し、喜びの舞をしている。

 あぁ、体力お化けがもう一人居たわ。怖。


「いいね。学祭とかで盛り上がるような曲……Whiteberryの『夏祭り』とかどうかな?」


 窓拭きを早い段階で終えていた翼は、三日前に購入していたエレキギターのチューニングをしながらそう提案。


 して、女子高生ならではの意味不明なノリのままカラオケ会が始まり。


「ひっ……ギター上手すぎて、卯月どん引き……空の音痴具合より引くわぁ………」


 空と夏が歌う『夏祭り』に合わせ、間違いは愚か、ひとつの『曲』として成り立たせる程の完成度でベースを引く翼。それはただ音を出す素人の演奏でないことは一目瞭然、音を奏でる姿がそこにあった。


 怖。怖いしマジ。あーしがギターを始めて三ヶ月で辿り着いた領域に、三日でひょいと出来るとか、才能超えてるし。

 でも、その完璧な下地を台無しにして壊す、空の歌声が一番怖いわ。いや、もはや歌声じゃなくて罵声でしょ。


「はーっ、思いっきり歌ってスッキリしたわ。蒼も小鹿みたいに震えてないで歌いなさいよ」


「え、えーと、卯月はいいよぉ」


「良いって言ったわね!? あれ、流行りの『脳漿ライザー宣言』歌いましょ!」


「そう言う意味じゃなくて……あ! 人工の白カメP様の曲を歌うなんてっ、、恐れ入るよ……」


 シワシワと萎んでゆく蒼は、空の圧力に負けて、「べ、別の歌でもいいよね?」と渋々カラオケ機で歌う曲を選曲する。


 もしや、どこか抜けたような淡いポップな曲調に、懐かしくも感じるこのイントロは……!?


「まいにち まいにち ぼくらは てっぱんの───」


「「「「お、およげたいやきくん!?」」」」


 ダメだ……皆色々と怖いけど、この場で『およげ!たいやきくん』を歌い出す卯月が一番怖すぎるし……

 てか、およげたいやきくんを歌っているはずなのに、卯月の声が綺麗過ぎて、童謡っぽさが微塵もないの凄い。途中から割り込んで罵声で歌う空のせいか、完璧超人の翼が即興でたいやきくんベースを弾いてるからかもだけど。


 動揺を隠せない私に、横から夏がにやけながら話しかけてくる。


「なんだか、バンドやって行けそうじゃん?」


「そうだね……皆それぞれ得意分野がありそうだし」


「と・こ・ろ・で~、ゆめっちは何歌うの?」


「あ、あーし? 別に歌わなくても」


「せっかくウチがカラオケ機持って来たんだからさっ、ね、一緒に歌お♡」


「…………」


 先週、あーし達は、世には名の知れていない、無名に等しいバンドグループの演奏に心打たれた。


 でも、あーしは元から決めていた。皆でバンドを組みたいって。

 バンドだけじゃない、バスケのチームでも、ダンスグループだって良い、ただ皆と同じことに励みたかった。


「道、とか」


「道って、GReeeeNの?」


「……そ」


「へ~、ゆめっちって元気が出るような歌が好きなんだ。ちょっと意外かも」


「いいでしょ、あーしがこーゆうの好きでも」


 GReeeeNの道は、勇気と元気が湧いてくる応援歌。その側面、友人達が背中を押してくれる友情ソングでもある。

 4you。空が、夏が、蒼が、翼が、あーしの背中を押してくれるから。


「マイク、取って」


「え?」


「……ほら、およげたいやきくん、四番まであるから。皆で歌う前に終わっちゃうし」


「……へへ、も~ゆめっちは~」


 だから、あーしも少しくらい、皆の背中を押してみたいなって。


 にぃにからチケットを貰ったって嘘をついてしまったこと。皆でライブに行こうと中々言えずに、恥ずかしくなってしまったあーしを許して欲しい。

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