第1話 星月夜すら霞む銀河の空【睦月空】
だらしない!
友達四人を自部屋に招き入れたらこれ。
ポテトチップスの袋や炭酸水が、まるで怠惰のお手本のように無造作に床に置かれ、そこを囲むように横になる課題サボローが四体群がっているのだ。
チップスを囲んで何する気?
芋を媒体にサボロー究極体の錬成でもしているのかしら?
「ダラダラ過ごすなら、さっさと出て行きなさいこのスカポンタンッ! 私のパァ~フェクトな部屋が台無しよ!」
自室に響く声に、また獣が吠えていると言わんばかりにゆっくりと顔をこちらに向けてくる怠惰達。
「空、僕はそのスカポンタンって少し古いなって思うんだ。そうだね……夏、ギャル語で馬鹿ってなんて言うんだい?」
「そんなのバカ一言でいいじゃん。それより、ほら、デコったネイル触ってみてよ」
「誰がバカよ!? こう見えても私、睦月空様は超超、超~伸び代があるんだから。可能性は無限大ッ、銀河系よりも広いのよ!」
胸をグッと張って主張しようも、ネイルに盛り上がる女子高生の鏡に、視界に映らないは愚か、聞く耳を持とうともしない。この美声が聞こえないとはなにごとだ!
力作に自惚れる、弥生夏。その目に痛いくらい煌びやかに輝く赤い爪を、崩れないよう慎重に触って楽しむ皐月翼。
そんな二人を横目で羨む少女がため息ひとつ付く。
「凄いなぁ……卯月にはまだ早い所業だよー……」
己の名である卯月蒼を一人称に持つ蒼は、いつにも増して暗いオーラを全開にして項垂れる。そのままだと頭付近にあるポテトチップスの袋と合体しちゃうわよ。
「あおっちも絶対似合うって! 一緒にネイろ!」
「部活動もろくに決まらない卯月に、イケ女なことは出来ないのー。あぁ、このまま卯月は帰宅部レールに乗って終電迎えちゃうんだぁ……」
そう、私たち五人は中学から仲良く全員同じ高校にJKデビュー。
無事安寧のセーラー服を手に入れたと思えば、事前補習だの部活だのとガミガミ教師に責められるのだ。仕舞いには、入学したての高校一年生に、大学志望は何処ですかって……んな早く将来設計出来るかっての!
ウザい教師を思い出した腹いせに、「終電~帰宅部~帰宅部~」と蒼に煽り散らしてみると、「空も部活決まってない癖に……」とクスッとして嫌味を返された。
小さなプロセスごっこをする蒼と私に、苦笑いする翼と隣で爆笑気味のギャル。
腹筋と戦い終えた夏が、涙を手で拭いながら言う。
「帰宅部も悪くないと思うけどな。あ、ちなみにウチはバスケ部かテニス部かで迷ってんだよね。んーでもダンス部もいいかも。も~決まんないよ、つばっち!」
「まだ一週間の猶予があるし、大丈夫だよ。僕は吹奏楽に定めてるけどね」
つばっちこと翼は、身体を猫のように擦りつけてダル絡みするギャルに対して、地味に部活決めマウントを取る。
イケメン女子な翼には、どの楽器も似合いそうだ。
もう綺麗な美部屋からカオスな部屋と化したところに、一石を投じる言葉。
今まで足を壁に掛けて逆さまになりながら、黙々と夏から借りた漫画を読んでいた者が口を開く。
「吹奏楽と言えば、にぃにからチケット貰ってたんだけど」
私以上に人の部屋で寛ぐその姿は仏。座禅を組まずとも、悟りを開かんとする自然体には恐れ入る。でもパンツ一丁はやめようね如月夢様。
男の居ない部屋だからって、女の子な以上気品のひとつやふたつは大事にしなくちゃ。
「チケットって何のよ」
ま、それは別としてチケットは気になる。
「ライブ。地下のやつ。あーしは行くの面倒いから、興味あればあげる」
「ハイハイハーイ、興味ありまーす!!」
蒼を押し切って手をピシッと挙げる私に、夢は天井を仰いでいた足をバックに突っ込んでは、器用に親指と人差し指にチケットを挟んで渡して来た。
チケットを受け取った私を囲むようにして、サボローだった者達が興味津々と覗き込む。
「地下でライブって超燃える~って感じ! え、しかもバンドグループ、ウチらと年齢あまり変わらないじゃん! すごっ!」
「このチケット一枚でちょうど五人まで行けるみたい……卯月、ワクワクしてきた」
「ちょ、二人とも重いんだけど!」
重しに容赦ない奴らの隣、じーっとチケットの内容を読んでいた翼が言う。
「これ、開催日時、今日みたいだね。時刻まで……あと一時間も無い」
「「「「………………え?」」」」
ライブを観に行くとか行かないとか、そんな事を決めかねて居れば、時間がただ浪費するばかりだ。それは百も承知で、私たちは後先考えずに身体が動いていた。
急いで夢にスカートを履かせて、母に頼み車で駅まで、電車で現地へ、タクシーで開催場へ。
ここまで行動に移せた思いは何処から働いたのか、もはや運命としか言い表せない程に、しかしライブを目の当たりにしてそれは確信に変わる。
開催時刻はとっくに過ぎて、観客のアンコールによって延長に入った最後の演奏に、滑り込む形で扉を開けた。
身体の髄に響き渡る、地響きのようなエレキギターとドラムの低音。少規模な観客にも関わらず、視界が、ステージが、バンドグループのハスキーな歌声と共に揺れる。
私の瞳はきっと、誰も見た事ない輝きを放っていたに違いないわ。澄んだ空を覆い尽くす、星月夜すら霞んでしまうような。そう、銀河系にすら劣らない!
輝きを瞳に宿すのは私だけじゃない。夢も、夏も、蒼も、翼も、それぞれの瞳が熱くも美しく輝いていた。たった三分間にも満たないライブが、私達の人生を変える大きな分岐点になったのだ。
決めたよ、私。
全ての青春をぶつける、とっておきの部活動が───




