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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第四章

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エピローグ(四)

「でも四人分の布団もないし、どうすればいいんだか」


「それなら大丈夫、寝袋持ってきたからね」


 沙樹は思わずき出した。


「ここまで準備してるんだから、泊めてあげたら」


 ワタルは床に落としたライターを拾い、タバコに火をつけた。そしてフゥ、とため息とともに煙を吐き出した。


「泊まるところがない学生を追い出せないよな。明日の朝いちばんに、布団のレンタルを頼めよ。費用はおれが持つから」


「やったー! ありがとう、兄さん」


 ハヤトを初め、バンドメンバーも口々に礼を言う。満面の笑みを浮かべながらハイタッチをする四人を見ていると、沙樹は自分のことのように嬉しくなる。


「じゃあおれたちは、これで退散しようか、沙樹」


「え? 退散?」


 言葉の意味を沙樹は理解できない。ワタルは吸いかけのタバコを灰皿でもみけし、ソファーから立ち上がってクローゼットのコートを手にした。


「ここはハヤトたちに占領されたから、おれは沙樹の部屋に泊めてもらうよ」


「あたしの?」


「広いといっても、大人の男五人が寝泊まりするには窮屈きゅうくつだから。それにおれがいない方がハヤトたちもリラックスできるだろ」


「あ、そうなの……」


 沙樹は人差し指で頬をかきながら答える。


「そんなあ。プロのバンドについて話を聞きたかったのに」


「解った。それなら明日の仕事あとに時間を取ろう。空いてるメンバーがいたら連れてくるよ。でも今はだめだ。沙樹を送らないといけないからな」


「ラジャーッ! 兄さんたち、くれぐれも芸能記者には気をつけてね」


 ハヤトの忠告にウィンクで返事をして、ワタルは車で沙樹のマンションに移動した。



 ふたりはカウンターテーブルの前に並んで座り、改めて沙樹が淹れたコーヒーを飲む。灰皿にはタバコがおかれ、部屋中にほんのりと紫煙を漂わせていた。


「急に出てきてマンションを占拠せんきょするなんて、ハヤトくんらしいよね」


「そうだな。でもハヤトのおかげで、しばらく沙樹と一緒に住めることになったよ。少しは感謝するか」


 ワタルは沙樹の肩を抱き寄せる。


「あ、ハヤトくんの忠告忘れてる。芸能記者に気をつけてって言ってたでしょ」


 沙樹はカーテンの開いた窓を指さし、苦笑するワタルの腕をすりぬけた。

 窓を開けると冷たい夜気が入ってくる。街灯りに邪魔されてはいるが、夜空は雲ひとつなくきれいだ。

 だがワタルの故郷で見た星空とは比べものにもならない。

 沙樹はあのとき見た、降るような星空を思い出した。


「沙樹、どうしたんだ?」


 すぐうしろにワタルが立っていた。ふりむきかけた沙樹の肩に手をそえる。


「夜の空気はこんなに冷たいのに、もう春の星座が見えるのね。あの騒動は秋の終わりだったのに。いつのまに季節が進んだのかなって」


「時間の流れが速いのかもしれないな。子供のころは、一日や一年はもっと長いと思ってた。それが今じゃ、あっという間だろ。それだけ大人になったってことだよ」


「そうね。毎日忙しいものね、お互い」


 不意に部屋の明かりが消え、星空が少しだけ見やすくなる。沙樹は夜空を見上げ、春の星座を探した。北斗七星のから、うしかい座のアルクトゥルスとおとめ座のスピカをたどる。春の大三角形を作るあとひとつはどれだろう。


「それだけにおれは、一分一秒を無駄にしたくないね」


 沙樹のうしろから耳元でささやいて、ワタルは窓とカーテンを閉めた。


「これで写真に撮られる心配もなくなったよ」


 ふりかえった沙樹に、ワタルはキスをした。



           − 了 −



今回をもちまして『あなたの(イリュージョン)を追いかけて』は完結しました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


web小説よりも一般文芸的な書き方をしていますので、ちょっととっつきが悪いかもしれませんが、読み進めていくうちに電子書籍を読んでいるような感じで読み進められると思っています。


オーバー・ザ・レインボウのエピソードはまだまだ書く予定です。改稿版や新作を、時系列関係なく発表していきますので、ぜひよろしくお願いします。

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