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あなたの幻(イリュージョン)を追いかけて  作者: 須賀マサキ
第四章

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エピローグ(三)

 そのときスマートフォンに着信が入った。ワタルは着信音を気にすることもなく、沙樹にキスをする。

 ところが発信者も負けていない。留守番電話に切り替わったらすぐにかけ直してくる。

 しつこさに負けたワタルは沙樹から離れた。


「ワタルさん、出た方がいいんじゃない? 急用かもしれないよ」


「そうだな」


 ワタルは沙樹の肩を抱いたまま、空いた手でテーブルにおいたスマートフォンを取り、発信者を確認する。なるほど、しつこいはずだ。


「どうしたんだ、こんな遅い時間に……。これから? 今どこにいる?」


 このタイミングで押し掛けられるとは思わず、ワタルは我知らず立ち上がった。


「よ……よろしくって。おい、ちょっと」


 通話を終えたワタルはソファーに座り直し、深いため息をついた。


「だれから? 仕事関係?」


「ハヤトだよ。バンド仲間と一緒に、最寄り駅まで来てるって。あと十分もすれば到着だよ。でもこの時刻だと……」


 ワタルは出窓においた時計を見る。


「どうやら終電で来たみたいだな」


「ハヤトくんたちが? こんな遅い時間にわざわざ来るなんて。この近くにホテルなんてあったかな」


 沙樹の問いかけにワタルは首を横にふった。

 コーヒーを飲んで頬杖をつくワタルを残し、沙樹はキッチンに立った。

 コーヒーメーカーをセットし、自分が買いおきしているクッキー缶を棚から出す。

 ちょうどコーヒーができたタイミングで、ハヤトたちが到着した。


「兄さん、こんばんは」


「遠くからよく来たね」


 涼しい顔をしているハヤトと違い、バンド仲間は恐縮しながら部屋に入る。それぞれキャリーケースを引っ張っていた。


「あ、沙樹さんもいたんだ。もしかしてぼくたち、邪魔しちゃたかな」


「そんなことないよ。会えて嬉しいもの。明日の件で上京したんでしょ?」


 沙樹はコーヒーとクッキーをテーブルにおいた。


「明日の件って?」


 ワタルはコーヒーカップを持ち、ソファーを移動しながら問いかけた。


「あたしの作った企画が通ったって話したでしょ。地方限定で活動しているインディーズ・バンドを紹介するって番組」


「覚えてるよ。確か一回目のゲストがハヤトたちのザ・プラクティスに決まったって言ってたな」


「そゆこと。だからみんなで上京してきたんだ」


 ハヤトが自慢気に答える。


「でもどこに泊まってるの? この近くにホテルなんてあったっけ」


 沙樹とワタルにも、心当たりがない。


「ところが一軒だけあるんだよ、これが」


 不敵な微笑みがハヤトの口元に浮かぶ。ワタルは首をかしげながら、タバコを取り出してくわえた。


「どこなの?」


 沙樹の問いかけに、ハヤトは「ここ」と床を指さした。

 一瞬遅れて、ワタルがライターを落とす。


「まさか……」


「そのまさかだよ。四人まとめてよろしくね、兄さん」


「まてっ、おれは何も聞いてないぞ」


「そんなこと言わないでよ。ぼくたち貧乏学生なんだよ。リビングの隅で雑魚寝ざこねするから追い出さないでっ」


 両手を合わせ、上目遣いでハヤトが頼み込む。あとの三人はその後ろで、肩をすぼめてうつむいた。


「何もワタルさんちに泊まらなくても、宿泊費と交通費は出すってことになってるのよ。この際だから、いいホテルに泊まるかと思ったのに」


「でも一泊だけでしょ。ぼくら春休みだし、せっかく上京したんだから、東京を観光したいんだ」


 なるほどね、とつぶやいてワタルは腕を組む。


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