『初めて体験、高価な宝石』
カラーストーン。
美しく多彩な色を持つ宝石。中には何千万を超える高額で取引される物も存在する。
「こちらが注文の品でございます。」
案内された奥の部屋で、三十代ぐらいの赤髪に緑色の瞳を持ったまだ若い男の店員が、どこからか取り出してきた箱を開くと、そこには青紫色の宝石が一つ納められていた。それはちょうど窓から入る太陽の光が当たり、神秘的に輝いている。
「こちらがご注文の20ctのアレキサンドライトです。当店が取り扱っている大きさですとこれが最大になります。」
「20ctか……」
「…あの、何か至らない所でもございましたでしょうか?」
「いや、これだけあれば十分だ。」
店員と旦那様がそんな会話を交わす横で、私は記憶の中からアレキサンドライトについての知識を引っ張り出す。
アレキサンドライトは、太陽のようにバランスの良い自然光下では緑色に、赤色の成分が多い白熱光下では赤紫色にカラーチェンジする美しい宝石。六月の誕生石にも含まれている。
私はそこまで思い出し、改めて店員が言う所のアレキサンドライトを観察する。
「こちらはご希望通り、ネックレスでよろしかったでしょうか?」
「ああ、間違いない。ネックレスは今ここで娘に直接着けてやってくれ。」
「はい、かしこまりました。…お嬢様、こちらに。」
あれ?
気づけば、店員と旦那様の会話は思いもよらない方向へと向かっていた。
というか、このアレキサンドライトは私へのプレゼントらしい。初耳である。
「?お嬢様?」
「…あ……」
この状況を理解する為、頭をフル回転させていた私は、店員に再び促された事で縋るように旦那様へ視線を向けた。
とてもではないが、プレゼントに20ctのアレキサンドライトを受け取る事はできない。養子についても何だか聞きにくくて先延ばしにしていたのに、それを解決する前に宝石を貰うなんて!
「エミリア、行っておいで。アレキサンドライトを着けた姿を私達に見せてくれないかい?」
「う、でも…。」
何だか断りにくい。
旦那様、そしてその横で黙って様子を見守っている奥様の優しい視線に、私は益々どうすればいいのかわからなくなった。
「お嬢様、参りましょう。」
うろたえる私を見かねたのか、店員がそんな助け舟を出してくれる。私は深く考える事なく、その提案に乗っかった。
……いや、乗っかってしまったのだ。
「ではお着けしますね。」
店員がそう言ってアレキサンドライトのついたネックレスを箱から出す。
私は目の前で揺れるそれにやっと我に返った。そして激しく後悔する。
何で断らなかったの!いりませんってはっきり言うべきだったのに!
「終わりました。すごくお似合いですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
今更後悔してもどうしようもない。
私は首元で揺れる一粒の宝石を見ながら心の底からそう思った。
「ではご両親にもお見せしましょうか。」
「……どうしても、見せなくてはいけませんかね?」
往生際が悪い上に、こんな事を店員へ言っても仕方ないとわかっている。店員も子供のわがままに困った表情でなんと言えばいいのかと考えているようだし、迷惑をかけてしまっている。
わかっているのだ。それでも、言わずにはいられなかった。
「見せるのはお嫌ですか?とても似合っていらっしゃいますよ。」
店員が私の目線に合わせるように膝を折る。その拍子に、緑色の瞳が赤色へと変化したのが見えた。
「えっ!目が…」
気づけば先程までの暗い気持ちはどこへやら、私は驚いて声を出していた。慌てて口元を押さえたが、もちろん店員に声はバッチリ聞こえていたようで――
「目、ですか?……ああ。もしかして色が変わってますかね?」
「え…ええ。」
「あぁ、やっぱりですか。大丈夫ですよ。そんな心配そうにしなくても。これは体質です。私は光の当たり具合で目の色が変わるんですよ。」
店員が少しだけ真剣な表情になって仕組みを教えてくれる。
私はその内容に驚きはしなかった。前世でも光のあたり具合で目の色が変化する人がいると聞いたことがあるし、この世界にいてもおかしくはない。確かに珍しいだろうが、特段驚くほどの事でもないだろう。
私は一瞬でそう結論付ける。
「すごいですね!色が変わるなんていいなあ。」
心のまま、素直に感想を述べてみた。私にはこういう場面で気の利いた一言なんて言えない。まだ子供なのだし、発言から逃げる事も許されるだろう。
「…ありがとう。」
「?」
私が心の中で誰に向かってか分からない言い訳をしていると、声が小さくて聞き取れなかったが、確かに店員が何か言ったような気がした。
どうしたのだろうと首を傾げて問い返すも、店員は何でもないと誤魔化してしまう。
「さあ、本当にそろそろ戻りましょう。」
些か強引にそう促されてしまい、私は何を言ったのかが少し気になりながらも、それ以上の追求を諦めて店員に従った。




