『初めて訪れる、宝石店』
「――ではそういうことで。」
そう締めくくり、旦那様と店主の話し合いが終わる。二人の会話は約三十分ほど続いていたが、私も飽きてきた頃だったからちょうど良かった。
というか、三十分も話し合う事があるっていうのが地味にすごいと思うが、取りあえず今はそれは置いておこう。
「奥様、二人は何で宝石の話をしてたの?」
私は突然すぎるかなと心配しながらも、奥様に気になった事を問いかける。
盗み聞きのようになってしまい少しバツが悪いが、普通通りの声量で二人が話すから、その内容に赤い宝石やら青い宝石やらが頻繁に出てきたのが聞こえてしまったのだ。
宝石と聞けば、気になるのも仕方ないだろう?
「あら、宝石に興味があるの?」
「ええ、まあ…少しだけ。」
嘘は言ってない。
奥様の質問はおそらく、女子が観賞用や着飾り用とかに使う宝石として興味があるの?という意味だろう。
だが私はそちら方面ではなく、値段的な意味で興味があるのだ。
最近自分自身の事がやっと分かってきたのだが、私はオシャレとかそういうのに興味が持てない。てか面倒臭いと感じてしまう。
これは些か女子として終わっているような気がするし、私を着飾るのが好きな奥様に申し訳ないので、決して口に出しては言えない本音だ。
「なら少し宝石商に寄りましょうか?」
「えっ?いいんですか!?」
奥様が思いもかけない提案をしてくる。私は思わず食いつくように大声で問い返す。
「このすぐ近くに一店あるのよ。お得意様だし、子供でも入れてくれると思うわ。」
「お得意様?」
「そうよ。私というよりも、商会、ひいては旦那様のだけれどね。」
いや、それでも十分に凄いんですけど。
「じゃあすぐ行きましょう!」
「ええ。あなたもいいですか?」
「ああ、構わないよ。エミリアも楽しみにしているようだしね。」
旦那様が微笑みながら私を見た。それで初めて自分が奥様の袖を握っていた事に気づく。
慌てて手を離したが、袖を引くなんて子供っぽい行動で少し恥ずかしい。
「ふふ。さあ行きましょう。」
そんな私の心情を知ってか知らずか、今度は奥様が私の手を握る。これは行きも同じだったはずなのに、今はこんなに恥ずかしい。
私は少し顔が赤くなっているのを感じながら、腕を引かれるままに店から出る。
「ありがとうございました。」
少し素っ気なさを感じる、でも奥様の話でシャイなだけだと知った、店主の声を聞きながら、私は外で一生懸命恥ずかしさに耐えていた。
宝石店は、雑貨屋から右に五つの店を通り過ぎた場所にあった。
外装からでもわかってしまう高級店の空気に、少し入るのを戸惑った私の背を旦那様が押す。
「さあ、ここで立ち止まっては商売の邪魔になってしまう。入ろうね。」
そう言われたら、入るしかないじゃないか。
私は恐る恐る店内に足を踏み入れた。
『いらっしゃいませ。』
複数の店員さんが並んで私達を出迎える光景に、私は突然の事で驚いて足を止めた。
「こ、こんにちは。」
後退りそうになるのを耐えて、小さい声で一言だけ挨拶をする。
聞こえてないかと思ったけど、笑顔で頭を下げてくれたので、その心配はなさそうだ。
というか、何で店員さんが揃ってるの。これじゃまるで私達が来るのが分かってたみたいじゃない。
私はそんな当然の疑問を持つが、それに答えたのは旦那様であった。
「今日は急に娘にカラー石を見せると決まってね。先触れが前日ではなく、当日になってしまってすまなかった。」
私がこの言葉を聞いた時、真っ先に思ったのは、これ私のせい?ということだった。
旦那様も言っていたし、普通こういう所には先触れとかいう使いの人を出してから訪れるのが常識なのだろう。それが私の突然のお願いで、今日急遽決まってしまった、と。
それは旦那様と奥様にも、宝石店の店員さんにも申し訳なさすぎる!
私は何だか引け目を感じてしまう。
「いえいえ、ルーエンティ様にはいつもお世話になっていますからね。別にこのくらいのお願いは構いません。」
「そうか。なら早速で悪いが、頼んでおいた物を見せてくれ。」
「はい。ではご案内します。こちらへ。」
だが私の思いとは裏腹に、既に何らかの話し合いは終わっていたようで……。
今更いらないと言える雰囲気でもなくなっていた。
「さあ私達も行きましょう。」
後に引けなくなった私は、奥様にも促された事で、もう開き直ってしまおうと決意する。
「はい!行きましょう!」
そう言って、店員が案内し、旦那様が向かう店の奥に向けて、私は元気よく一歩を踏み出したのであった。




