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『初めて知る、数多の事柄』

 突然だが、私は緑茶よりも紅茶の方が好きだ。記憶はないが、それを確信している。


「どうです?どちらが美味しいですか?」 

「は、はい。両方とも美味しいと思います。はい。」


 青薔薇のシンプルなティーカップに注がれた紅茶を飲みながら、私は顔が引つらないように答える。

 美女に案内された部屋で紅茶と緑茶を出されて接待されるという、意味のわからなさすぎる状況に、そろそろ許容量の限界がきそうだ。


(というか、旦那様はこの美女を猊下と呼んでいた。前世と同じなら、猊下っていうのは聖職者の中でもトップに近い地位のはず。なんでこんな所にいて、しかも平民の子供の接待なんかしてるわけ。)


「不思議ですか?なんで自分がこんな対応をされているのか。」

「えっ!?」


 思考を読まれた。

 私が驚いてはっと顔を上げると、そこには楽しそうに目を細めた美女、改め猊下がいた。


「ふふふ。全て顔に出ていますよ。」


 目が合うと、猊下はおかしそうに笑いながらそう言う。

 私はその言葉にデジャヴを感じた。随分前、同じことを言われた。

 あれは確か―― 


「それにしてもマルークが養女を取るとは。しかもまだ年端もいかない子供を。本当に驚きましたよ。」


 他の事について考え込む前に、私はその言葉で現実に引き戻される。


(そうだ。旦那様も言ってたけど、養女について詳しく聞かなくちゃ。)


「旦那様が私を養女にしたというのは、本当のお話でしょうか?」


 少し子供らしくないかとも思ったが、自分より遥かに身分が高い相手だ。この際、年齢は考慮に入れずに話すことにした。


「そうですね、本当の話ですよ。」

「…それは、その……何故なのか、知っていますか?」


 はっきり言って私はお荷物だ。その自覚がある。

 まだ小さいから商家の手伝いなんてできないし、逆に幼いからこそお金がかかる部分もあるだろう。前世の知識があるから、普通の子供よりも手はかからないとは思うが、それでもこの世界の事を知らないという点では、他の子供達よりも劣っているはず。

 メリットとデメリットを考えても、デメリットの方が多いと思うのだ。


「うーん。それについては本人達に聞いた方がいいと思うので、詳しくは教えられません。」


 猊下の言葉にそれもそうだと納得する。気になるなら、他人からではなく本人達から聞いた方がいい。

 人伝の言葉はどこかで歪みが生じるものだから。

 

 私がそんなことを心の中で考えていると、猊下が更に言葉を重ねる。


「でも一つだけ言うとしたら、あの夫婦は生産性のないことはしない、ということですかね。」

「?それはどういう意味ですか?」


 言葉の意味が掴みきれず、私は首を傾げる。


「ふふ。この先は自分で考えた方がいいですよ。」


 私の問いかけに猊下は優しく微笑みながらそう言うと、そこで話題を変えた。


「さて、ではそろそろ見学に行きましょうか。」

「え?ええ?」


 突然の話題転換に若干慌てながらも、猊下が立ち上がるのに合わせて立ち上がる。

 お陰でこれ以上聞き返す事ができなくなってしまい、私は仕方なく新たな話題に乗ることにした。


「見学というのは、学び舎にですか?」


 部屋から通路へ出るのに合わせて、私はそう問いかける。

 旦那様から学び舎について少し聞いてはいたが、何処にあるかや、どれくらいが参加しているのか等の情報は全く知らないのだ。


「そうですよ。エミリアは神話に興味がありますか?」

「えっと…はい。あります。」


 どう答えるか少し悩んだが、結局は是と答える。

 本当は神話というよりも、それに関わるこの国の仕組みに興味がある。八歳までの髪色の変化や、魔法属性によって住む場所が変わるのは何故なのか、とか。

 とは言っても、神話とは関係ありそうな事柄なので、大きくは違わないだろう。

 私はそう思うことにして、猊下の話に耳を傾けた。


「これからの為にも、神話は知っておいたほうがいいですよ。特に神同士の関係は面白いからオススメですね。もし何か分からないことがあれば、私に聞きなさい。とは言っても、自由にできる時間が少ないので、早々会えないかもしれませんが。今日もマルークから数日前に依頼されたようだったので、時間が空くように仕事を調整したんですよ。」

「…調整?それは大丈夫なんですか?」


 それまで大人しく話を聞いていた私は、微笑む猊下の言葉に嫌な予感がして問いかけた。

 普通、平民の子供一人の見学の為に忙しいだろう仕事を調整するだろうか?それとも、私は机に書類が渦高く積まれている執務室のような所を仕事場として想像していたのだが、それほどには忙しくないのだろうか?


 私がそうやって色々な可能性を考えていると、頭上から視線を感じて顔を上げた。するとそこには、出会った中で最高に良い笑顔を浮かべた猊下がいた。


「ふふふ。私の部下は優秀ですから、ね。」


 その一言で私は全てを悟ってしまった。そして心の中で懺悔する。


 こき使われただろう部下の皆さん、本当にごめんなさい。



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