『初めて学ぶ、異世界の特殊』
エルトラーナ大陸。
そこには国家が一つしか存在せず、領土が九つの都に別れていた。
そして各都には特徴ごとの呼称があった。
神の都ディア
大陸中央に位置し、遥か昔に神々が降り立ったと言われる地。
各都を治める帝王及び成人済みの皇族の住む宮殿と、九歳〜十五歳の貴族のみが通う学院がある。
太陽の都ジュア
光属性持ちのみ入国可能で、外からは砂漠の国と呼ばれている。雨がほとんど振らず、中央には小陽宮という教会がある。
月の都モーネ
闇属性持ちのみ入国可能で、外からは雪の国と呼ばれている。年中吹雪が吹き荒れ、中央には小月宮という教会がある。
国境には大きい山脈が聳え立つ。
炎の都フィアン
スポーツ競技が盛んで、お祭り好きが多い。その為、年中何かしらのお祭りが開催されている。
水の都アイル
国土の多くが湖であり、海洋貿易の中心地となっている。
大地の都アイナ
農業が盛んで、国内の三割の食料はここでできていると言われている。
風の都リーフ
鉱山が多い為、鍛冶が盛ん。大陸で唯一のスラムがある。
光の都との間には低い山脈が横断している。
光の都ルス
立地が良い為、商人が集まりやすく、商業が盛ん。
中心には白陽宮という大聖堂が聳え立つ。
闇の都ザラーム
光の都と同じく中心には黒月宮という大聖堂が聳え立つ。
そして各都に住めるのは、それぞれの都の名を冠した魔法属性持ちのみ(但し成人済み)。
例えば、光の都なら光属性持ちのみ。風の都なら風属性持ちのみ、といった具合に――
「……何じゃこりゃ。」
私はそう呟いて、読んでいた本をパタンと閉じる。
…殆ど初耳の事ばっかり。大陸に国が一つって何。都が九個って何。しかも帝王が九人って何。…意味わかんない事だらけじゃん!
私は心の中で叫んで頭を抱えた。
数カ月だ。私がこの世界で過ごしたのは数カ月。
それなのに、そんなに時間があったにも関わらず、私はこの世界の事を余りにも知らなかったらしい。
地球とは全然違う統治体制。しかも意味のわからなすぎる居住制限付き。
もうっ!どういう事なの!この世界はどうなってるのー!!
私は混乱が頂点に達して、心の中で絶叫を上げた。
魔法があるのは嬉しいが、それが何かを縛る道具になっているとは考えたこともなかったのだ…。
「一体どうしたんだい?こんな所で。」
部屋の隅で暗い影を背負って壁の方を向いて座り込んでいると、後ろから声をかけられた。
私が慌てて振り返ると、そこには旦那様がいた。
「旦那様…。」
私は何を答えればいいか分からなくて暗い声を出す。
だがそれだけでも私が落ち込んでいる事は十分に伝わったのだろう。旦那様はおやっと片眉を上げて、私に目線を合わせるように屈み込んだ。
「何があったのか話してご覧。」
そう言って向けられる優しい微笑みに、私はおずおずと口を開いた。
「…この本を…読んだんです。」
そう言って私が差し出したのは、『子供版―エルトラーナ大陸集』と書かれた一冊の絵本。
先程の九都について書かれていたのもこの絵本だ。
「ああ。これを読んだのか。…どうだい?面白かったかな?」
「あ、…はい。面白かったです。でも、知らない事ばかりで、少し情けなくなってしまって…。」
「そうか。でもそれは仕方のないことだ。君はまだ三歳なんだから、知らないことの方が多いに決まっているじゃないか。」
落ち込む私を励ますように、旦那様が頭を撫でる。
私はされるがままになりながら、それも一理あるなとその言葉に納得する。
光の都に入国…入都?したのが今日から丁度一週間前。
それ以来私は旦那様の商家でお世話になっているのだが、ここに来て初めて知ったことは他にいくつもあった。
例えば、旦那様の言うように私が三歳児だという事。
今の私の髪色は白ではなく、金。
初めて聞いた時はまさにファンタジーだと思ったのだが、どうやらこの世界では八歳までは、誕生日になると必ず髪色が変化するらしい。
そして、それは八柱の神を象徴していると言われている。
一歳では闇の神チェルーナで黒。
二歳では光の神リュミエールで白。
三歳では太陽の神シュトラールで金。
四歳では月の神ルゥーナーで銀。
五歳では大地の神ローシェンで茶。
六歳では水の神ルーシェルで青。
七歳では風の神フォーリッジで緑。
八歳では炎の神ハシュールで赤。
これらを初めて聞いた時は理解するには時間がかかりそうだと思っていたが、自分の身にも実際に起こったことなので案外受け入れるのは簡単だった。
それにこの話を最初に聞いたのは口頭でだが、後で絵本がもらえたのも良かった。お陰で早く理解するのに一役買った。
そしてここに来て改めて実感したのだが、アレクの所で文字を教わっていてよかったと思う。
文字を知らなかったら、今で尚、自分のことに関してわからない事の方が多かっただろう。
――だってこの世界は特殊にすぎるのだから




