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閑話『少年は全てを見届けた』

 俺の名はグレイ。しがない密偵である。

 一ヶ月前までは水の第三皇子アレクシス様の護衛券、お手伝い要因としてスラムにいたが、今はその任務も終えて水の都アイルに戻ってきている。


 俺はまだ7歳だが、そこそこ優秀だという自負がある。

 だからスラムでの護衛に抜擢された事は別にいいのだが、そこでアレクシス様のまさかの姿を目撃することになるとは思わなかった。






 最初にアレクシス様を見たのは、俺がまだ五歳。アレクシス様が四歳の時。


 正直言うと、第一印象は、子供らしくねーな。だった。

 俺も大概子供らしくないけど、アレクシス様はそれ以上に子供らしくなかった。

 何がって、日がな一日本を読むか、剣を振るうか、勉強するかの生活。表情はずっと無表情だし、笑った顔も怒った顔も見たことがなかった。


 子供なら外で遊び回る年頃だろうに、何故そんな決まりきった生活を送っているのか、どうして表情が全く変わらないのか、とその時は気味悪く思ったものだ。



 そんなアレクシス様が攫われたと聞いたのは、俺が七歳になったばかりの頃。

 それも命令が下されたからだった。

 

「グレイ。水の第三皇子殿下の護衛に行け。」

「え?どこへですか?」

「風の都のスラムにいらっしゃるらしい。」


 俺はそれを聞いて思ったね。

 風の都って、水の都からは真逆にあるじゃねーか!って。


 でも悲しいかな。只の隠密に命令を断れるはずもなく、俺は渋々風の都へ向けて旅立った。

 そして、風の都に着いたのは命令を下された一週間後。

 これでも急いだのだ。普通の人間の足では無理だと断言できるぐらいには!


 更に、俺はそこで目撃してしまった。アレクシス様が笑っているという、あり得ない光景を!


 俺は最初、これは本当にアレクシス様かと疑ったが、やっぱり間違ってはいなかった。

 だから驚きながらも接触を図ると、更に驚くようなことを言われたのだ!

「ああ、君がグレイか。君、ここにいられても困る。何処か別の場所へ行ってくれ。」って。


 もうどうしようもないと思った。二重の反する命令に、どう対応すればいいかと俺は頭を悩ませた。

 すると、何も言えない俺を見かねてか、アレクシス様は譲歩して下さった。


「命令なら仕方ないね。なら、私ではなく、エミリーを守りなさい。影からでも表からでも、方法は君に任せるよ。」


 そう言われて、俺はその時に初めてエミリー様の事を認識した。

 

 それからは、命令通りにエミリー様を守ろうと、先ずは人となりを知る為に接触を図った。

 すると意外な事に、エミリー様はまだ幼すぎる見た目に反して、大人のような考えをする方なのだと知る。

 その癖、それ一つで平民が五年は暮らしていけると言われているパナセを簡単に人に上げてしまったり、勝手に家を抜け出したりと、自由奔放で世間知らずな子供のような言動を取ることもあった。

 でも優秀な事に変わりはないようで、聞いたことも無いような知識で畑を作ったり、料理を作ったりと、色々な事をして驚かせてくださった。


 俺は思うんだが、恐らくアレクシス様はそんな優秀なのに何処か抜けているエミリー様が好きなんだと思う。

 あ、もちろん親愛の方で。


 だからあの無表情もエミリー様の前では微笑みに変わるし、エミリー様が近くにいる時は俺達相手でも笑顔(完璧な作り笑い)でお話される。



 だから俺はエミリー様が誘拐されたと連絡が入った時、真っ先に死を覚悟した。

 だがアレクシス様は驚かれた様子ながらも、取り乱すことなく、的確な指示をしておられた。


 俺はあの時、王者の風格というものを初めて見た。



 それでも、アレクシス様はまだ六歳。

 やっと助け出したと思ったエミリー様が、行方不明になったと知った時は、流石に殺気が漏れるくらいは取り乱しておられた。

 

 ――あの時は本気で死ぬかと思った。


「それにしても、あの方も立ち直り早いよなー。結局、あの時の一通しか来なかったのに。」


 俺はふと、改めて一ヶ月前のことを思い返す。


 エミリー様行方不明事件の一ヶ月後、アレクシス様の元にエミリー様直筆のお手紙が届いた。

 隠密の誰もが気づかぬうちに、その手紙は机の上に置かれて、驚いたのを覚えている。


 だが驚きはそれだけには留まらなかった。

 行方不明になられたと思ったら、ご自分から出ていかれていたらしい。


 手紙にはっきりと書かれているわけではなかったが、内容はそう言っているも同然だった。


 エミリー様にベタぼれのアレクシス様を知っていた俺は、内心ヒヤヒヤしていたが、その手紙のお陰でアレクシス様は無事に立ち直る事ができた。

 流石、エミリー様である。

 

 



 そして現在。

 アレクシス様はエミリー様に相応しくなろうと、勉学に励んでおられるのだが、俺は一言言いたい気持ちで一杯だった。



 ――エミリー様は平民だと思いますので、ご家族の元に帰られただけでは?(まあ、俺達が消息を掴めない時点で、その可能性はほぼないが)


 ――水の皇族が会いに行ったら迷惑になると思いますよ。(それ以前に何処に行ったかもわからないんですが)



 あ、ちょっと副音声がついてしまったけど、言いたいのは副音声じゃない方だからな! 


 ……まあ、どっちが本音かは分かるだろうけど。

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