↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/49

『不安は常に付きまとう』

 私が考えた囮作戦の内容は簡単。

 その一、シュリエと分かれる。そのニ、誘拐犯の所に戻って、挑発してこちらに来るよう仕向ける。

 その後は一応逃げれる所まで逃げる予定だ。

 


「シュリエ、いい?私は一緒に行けないけど、シュリエは一人で真っ直ぐ進むのよ。」


 私はシュリエに目を合わせて、しっかりとそう言い聞かせる。

 森の中にシュリエを一人にするのは不安でしょうがない。でも野生動物と誘拐犯のどちらが危険かなんて私には判断できない。


 だからここで別れる道を選ぶのだ。


「シュリエ、怖いと思ったらこれを使って。中が何か分からないから、使う時は投げて。」

「うん。わかった。」


 私はアレクから貰ったよく分からない石をシュリエに渡す。

 自分で持っていてもおそらく使わない。危険な状態に陥ったら、石の存在なんて忘れる自信がある。


「じゃあまたね。絶対に寄り道はダメだからね。」

「うん。」


 私は最後にそう言い残すと、通ってきた道を戻った。


 






 

 青々と生い茂る草木。清々しい空気。そして空に浮かぶ月。それらを見ながら、私はため息をつく。


「はあ。ここ、どこだろう。」


 森で遭難。よく聞く話である。

 そして、現在の私の置かれている状況でもある。


「えーっと、確か引き返した後、通ってきた道を戻ったと思ったけど、もしかしてあの時点で方向間違ってた?あれ?私って方向音痴?……いやいや。森でなら誰でもこうなるよね。うん。」


 私は自分を無理やり納得させると、この後のことを考える。


「ここでこのままというのは餓死一直線。もう、この際誘拐犯でもいいから誰か見つけてくれないかなー。」

「ほう?それなら攫っていいのか?」

「ほへぇ?」

 

 一人だと思って愚痴っていたら、返事が返ってきた。

 私が驚いて振り返ると、そこには男が一人いた。それも知り合い。いや、知り合い未満の人である。

 

「えっと、誘拐犯さん?」


 私は恐る恐る声をかけた。間違っていたら失礼だが、ほぼ本人だと確信している。


「へぇ。俺がいた事には驚かないのか?」


 やっぱり。


「はい。驚きませんよ。だってさっき攫うとか言ってたじゃないですか。」

「ははは。そういえば言ったな。そんな事。」


 誘拐犯は愉快だと笑った。私はそれに微笑みで返す。

 犯罪者と二人っきりという状況なのに、私に不思議と怯えはなかった。

 それよりも、もっと強い高揚感。不安や寂しさ。そんなものよりも、もっと強い高揚感が身体を支配していた。


「どうして私を攫ったんですか?」


 今なら分かる。この人は犯罪者の目をしていない。この人の目は、確固たる信念を持った人の目だ。

 思い返せば、あの時もおかしかった。

 部下に指示できる程の地位にいる人が、誘拐現場を見られた時に迷わずこちらに走ってくるだろうか。普通は逃げるはずだ。

 一人ならともかく、こっちには私も合わせて三人いたのだ。子供は確かに高く売れるだろう。だけどあの時私は大声を上げていた。それを考えれば、危険な賭けであったはずだ。

 

「もう一度聞きます。どうして私を攫ったんですか?」


 笑顔のまま何も話さない男に、私は再び同じ問いかけをする。

 これで話してくれるとは思っていないけれど、何も知らないままでもう一度捕まる気はなかった。


「……それを聞いてどうするつもりだ?」

「そんなのわかりませんよ。でも、私は答え合わせがしたい。私の推測と、あなたの答えがあっているのか。もう何も知らないままでいるのは嫌なんです。」


 これは紛れもない私の本心。

 答えを聞いたとして、その後に特別な何かをするつもりはなかった。それでも、聞きたいのだ。

 この男は、私の何かを知っているような気がするから。


「へぇ。推測ねぇ?…なら、それを話してみろよ。それを聞いてから俺も話すか決める。」


 男が心底楽しそうに言った。

 最初とは大分印象が変わってきたが、これがこの男の本当の姿なのだろう。

 

「……わかりました。これはあくまで私の推測ですが、あなたの目的は最初から私だったのではないですか?最初にシュリエを捕まえたのは、その目的を悟らせないようにするため。その証拠に、あなたはシュリエではなく、私を追ってきた。小屋を逃げ出した時、そして森に入った時。直ぐに私達を捕まえなかったのは私が一人になるのを待っていたから。アレクがいなくなった時に態と姿を現したのも、私を焦らせて、一人になるように仕向けるため。違いますか?」

「………はははっ!正解だよ!大正解!でもそこまでわかってるんだ。他に何が聞きたい?」

「……私の事を。」


 私は小さくそう答えた。 

 私は私を知らない。私という人格が入る前の、この身体のこと。そして入った後の、エミリアという存在。

 私が私になる前。記憶のない過去。覚えていない前世。


 その全てが私を否定する。

 ずっと我慢してきた。でももう無理だ。一人になるとふと考えてしまうのだ。


 覚えていない、知らないというだけで、私はここに存在していいのかすら不安になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。