『人間の処理能力には限界がある』
「ここに入ってろ!いいか、騒ぐんじゃねぇぞ!外に見張りがいる。逃げるのも無駄だ。分かったら大人しとけ!」
私とシュリエを小さな小屋に押し込んだ男は言いたいことだけを言って扉から出ていく。
私はそれをポカンと見送った。
いや、マシンガントークヤバすぎでしょ。そんな勢い良く話されたら普通の子供には理解できないし、大人からは思いっきり引かれるよ。
私はこんな状況で、そんなどうでもいい事を考える。
「……ふぇ」
そんな時、極至近距離から今にも泣き出しそうな声が聞こえて、私ははっと我に返った。
「あ……シュリエ。」
横を見ると、泣いているシュリエがいた。
彼女は身体は震え、嗚咽を出さないように口を必死に押さえて、泣いていた。
「ごめん……。ごめんねシュリエ。」
私は謝りながら、そっとまだ小さなその身体を抱きしめる。
こんな状況を私はどこかで楽しんでいた。でもシュリエは違う。少し前に言った通り、シュリエは私と違ってただの子供。それなのに、そんな子供の前で一緒に攫われたはずの私は怯えることもなく、いつも通りに過ごしていた。どんなに心細かったことだろう。
私には想像しかできない。
「ごめんね。怖かったよね。本当にごめんね。」
私はシュリエにひたすら謝り続けた。彼女に励ましの言葉をかける資格なんてないのだから………。
暫くして、シュリエは泣きつかれて眠りについた。
私は膝枕をして、その寝顔を眺めながらこの先の事を考える。
ここに来て今更かと思うかもしれないが、このまま大人しく売られる気は完全になくなった。シュリエの為に。
でもこの現状で無事に脱出する方法なんて私は持っていない。
そう考えると、私達にできる事なんて本当に少ないのだ。
まあだからといって諦める気はない。
私はまずは情報整理(現状把握とも言う)を行おうと決める。
と言っても、さっきの移動中に情報整理はした。現状で確実に分かってることは三つ。
一つ目、私達は今誘拐犯されている。目的はおそらく奴隷売買。
この先どういう手筈になっているかは分からないが、私達はアレク達の助けをおとなしく待つべきだ。下手な動きをして、状況を悪化させるのは良くない。
二つ目、誘拐犯は私達に危害を加える気はなさそう。
私が大声で叫んでしまった時も怒りはしたけど、暴力は振るわなかった。それに、あそこで怒るのは人間として正しい行動である。それが小さな小さな幼女が相手なのはちょっとあれだけどね。
三つ目、これは新しく思ったことだけど、ここに閉じ込められたということはすぐに売られる可能性は低い。でもそこまで猶予があるとも考えにくい。
と、今はこんな所だろうか。
それともう一つ。
アレクとガレンの居場所が気になる。
あの子達も一緒に売られる予定ならまだいいが、既に売られていた場合は救う方法がない。その時は見捨てる事になるのだろうか……。
一瞬そんな最悪な未来が頭をよぎる。
(違う、違うよ。今はそれよりも情報を集めるのが先。いつ売られるのか。ここは何処なのか。)
私が嫌な想像を振り切るように別の事を考え始めていた時―――
――ガヤガヤガヤ
突然外が騒がしくなった。
私はそれに気づくと、状況を知ろうとシュリエの頭を膝から下ろし、小屋の中に置いてあったタオルに乗せる。
そして壁に耳をつけて静かに外の様子を伺った。
「―そい――は――誰――」
「す―――そこ――転が―」
「――女――そ――小屋――入れ――」
「――かい―――た」
断片的にしか分からなかったが、言葉を繋げると、外に女の人が転がっていたという意味になる。
ここが何処かは知らないが、誘拐犯の根城って事はろくな所では無いに決まってる。そんなところに女の人がいるなんて……。
私がそんな風に不快感に表情を曇らせていると、小屋の扉が開かれる。
私は慌てて壁から離れると、シュリエの近くに戻って、開いた扉に視線を向けた。
「おい。…お前。」
扉の場所には私達を攫った誘拐犯がいて、私よりも年上の女の子を肩に担ぎ上げて立っていた。
私は声をかけられた事で、盗み聞きしていた事を怒られるのかと身構える。
それでも無視するわけにもいかず、小さい声で返事をした。
「……はい。」
「……こいつの世話でもしていろ。」
私の言葉にその男はそう言うと、女の子を地面に下ろして去っていく。
私はそれを本日二度目のポカン顔で見送った。
いや、怒れよ。盗み聞きしてたんだよ?なんで怒らないの?
私は頭に大量の疑問符を浮かべながらも、置いていかれた女の子にそ~っと近づく。
「あ、あの〜?」
勝手に触れるのは戸惑われて、少し離れた所から声をかける。
すると、寝ていると思っていた女の子がゆっくりと起き上がり始める。私がその様子を驚きながら見守っていると、女の子がこちらに視線を向けた。
「………………………………シュリエ?」
長い沈黙の後、女の子は寝ぼけた声で一言だけそう呟く。
私はそれに今までで一番の衝撃を受ける。だって、その声は私にとっては聞き慣れたものだったから。
私は引きった笑顔でその人を見返す。
「………もしかして、アレクくん?」
小屋に入ってきた女の子。
その正体は、女装したアレクであった。




