『事件に巻き込まれた時の反応は人それぞれ』
私はこの世界には本物の神様がいると少し信じかけていた。だが、今日をもって、本物の神様は存在するのだと断言することにしよう。
「おい!貴様らどこの組織の者だ!この地区で誘拐を働くことは禁止されているはず!その子達を放せ!」
かっこいい。
ジーンの声を聞いた時、私は本気でそう思った。
他にも考えた事はたくさんあったはずなのに、その時の私にはその感想しか浮かばなかった。
だけどその存在に安心できたのは
私達だけ。
誘拐犯達は安心感なんて持てるはずもなく、慌てた様子で内緒話をしだす。
とは言っても、抱えられてる私達にはその話の内容はしっかりと聞こえてきたのだけれど。
「やばい!おい!ずらかるぞ!」
「えっ?でもあいつもガキですぜ?捕まえなくていいんすか?」
「馬鹿野郎!ありゃどう見ても九歳以上だ!早く逃げるぞ!」
これが誘拐犯達の会話。
この内容に私は、私は少し疑問持った。
どうして九歳以上はダメなのか?とか、ジーンが九歳以上って断言できるのは何で?とか、色々と。
でもその時はそれを誰かに聞ける状況ではなくて、渋々聞くのを諦めた。
その上、そうこうしている内に、誘拐犯達が二手に別れて逃走を開始した。
突然の動きに思いっきり身体が揺らされて、私は少し気持ち悪くなりながらも、慌ててジーンの方へ視線を向けた。
二手に別れられたけど、ガレン達を抱えてる方に行くのだろうか?それとも私達の方?ジーンはどちらを追いかけるの?
そんな不安と期待がない混ぜになったなった気持ちで、私はジーンを見つめる。
だがそんな私の心配などどうでもいいというように、ジーンは迷わず私とシュリエを抱えている誘拐犯の方を追ってきた。
私はそれにダメだと分かっているのに喜んでしまう。
だって、私達の方に来たということは、ガレン達は見捨てられたという事で……。
私はつくづく自分勝手だなと、自嘲気味に口元を歪めた。
だが、私が自己嫌悪に陥っていられたのもそこまで。
このままでは追いつかれるとでも思ったのか、そこで誘拐犯がとんでもない行動に出たのだ。
『飛ぶ風』
そう誘拐犯が呟くと、一瞬胃がせり上がる感覚がして、気づいた時には身体が空に浮いていた。
これには流石の私も黙ってはいられない。
「…き、きたあぁぁぁ!」
あ、もちろん別の意味でね。
「空に浮く魔法来たぁぁぁ!!」
「はあ!?」
途中誘拐犯の驚いた声が聞こえた気がしたが、私は構わずに叫び続ける。
まさか誘拐され中に新しい魔法が見れるなんて思わなかった。これは予想外の幸運!
私は今にも踊り出したい気分のまま、キラキラとした眼差しで誘拐犯を見上げた。
誘拐犯は私の視線に一瞬たじろいだようだったが、なんとか持ち直すと私を睨めつけてきた。
「……っ!おい!お前うるせえよ!黙っとけ!」
「………っ!」
私は至近距離で大声で怒鳴られて一瞬体を震わせた。
うわっ。びっくりした。
確かに自分でも騒ぎすぎたと思ったけど、そこまで怒ることなくない?
私はいきなり怒られた事を不満に思いながらも、この状況だから顔に出ないようになんとか表情を作る。
でもそこでふと、シュリエが怯えている様子が視界に入った。
私はそれにはっとして、不本意ながら誘拐犯に頭を下げた。
「ごめんなさい!もうしません!」
「………ふんっ!」
誘拐犯はまだ怒っていたようだったが、シュリエの為に必死に謝る私に、何とか気を静めてくれたらしい。
私は一先ず、それにホッと胸を撫で下ろした。
そして少し反省する。
シュリエがいる事を忘れてはいけなかった。私と違ってこの子は普通の子供なのだ。何故か誘拐に慣れているかもしれない私は比較的……いや、全く怯えていないが、私の軽率な行動でシュリエにまで被害が及んでしまったら、一生後悔する自信がある。
私は魔法についての感想は今度からは心の中で叫ぼうと決意する。
そして、少し落ち着く為に数回深呼吸を繰り返すと、私の心に段々と余裕と冷静さが戻ってくる。
すると不思議な事に、今まで見えていなかった事も見えてくるようになった。
………あれ?そういえばジーンは何処に?
私は周りを見渡して、やっとジーンがいなくなっていることに気づく。
え?いつからいなくなってたの?気づかなかった……。もしかしてこの誘拐犯が魔法使ったとき?
今思い返してみても、魔法が使われた事しか記憶にない。ジーンはもちろん、それ以外の事もあまり覚えていなかった。
私は自分のポンコツさ加減に頭を抱えたくなった。
しかしいつまでそうしていても状況は変わらない。
私はその事は一旦忘れて切り替えて、過去の事よりこの先の事と、気合を入れ直す。
さて、ではまず、先送りにしていた現状把握から始めましょうか。
あ、一応言っておくけど、決して現実逃避ではないからね!これは必要なことだから、早くしておかなくてはダメだからやるの!
そう心の中でそう言い訳をしながら、私は誰にともなく宣言した。




