『性格は環境で決まるって言われてる』
「じゃがバタ♪じゃがバタ♪じゃがバター♪」
私は出来上がった料理を前に、自前のじゃがバターの歌を口ずさむ。
まあ歌とも呼べないお粗末なものだが、ここにはそれをバカにしてくるような人はいないので別にいいのだ。
「おい、何だその歌?音痴か?」
「そっれな〜。聴いたことない歌だし、下手だよなぁ〜。」
……訂正。バカにしてくるアホ共がここにいた。
というか、この世界にも音痴なんて言葉があるのか。作ったのは誰だ!?怨むぞ!
私はそう思いながら、アホ共――マルクとガレンを見上げる。見下す、ではないのが少し悔しい。
「ほっといて。そっちこそ、片付けは終わったの?」
私はムスッとした表情でそう言い返した。
「あ"?それならほら。」
ガレンは得意げに洗ったばかりの木製の調理器具を指さす。
「うぅ。洗ってくれてありがとう。じゃあそろそろ食べよ。」
私は言い返したいのをぐっと抑えて、お礼を言った。
本当は黙って引き下がるなんてしたくないけど、料理は冷めないうちに食べる派なので、今回は私が大人になるしかないのだ。
でも、私の考えとは裏腹に、空気を読めないない奴はどこにでもいるわけで……。
「あ〜れ?もう歌は歌わなくてもいっいっの〜?」
だから私はマルクにそう言われた時、危うく怒鳴りそうになった。
まあ理性で何とか抑え込んだが、まだ幼女な私の顔には青筋がでている気がする。
「う、歌?」
私は頬を引きつらせながらも必死で笑顔を保つ。
マルクはそんな私を見て、小バカにするように言った。
「そっ!う〜た。歌わないっの?あのへんなう〜た。」
「あ、歌わないよ。ははは。何言ってるの?それよりほら、早くじゃが……ジャモバター食べよう!」
私はマルクの言葉にますます頬を引きつらせる。
我慢だ。我慢。頑張れ自分!
「えー?面白かったのに?歌えっよ〜。」
マルクがニヤニヤと笑う。
「嫌だよ!それよりもほら!食べてみて!」
そろそろ我慢の限界が来ていた私は、一口大に切っておいたジャモバターを無理やりマルクの口に突っ込む。
話題をすり替えて、この会話を終わらせるために。
睨まれているが、流石に一度口に入れたものは吐き出さないらしい。グレイに良く躾けられているのだろう。性格は悪いけど、最低限の礼儀は守れるみたいだ。
「どう?美味しいでしょ?」
マルクを少し見直したした私は、笑顔の圧力をかけながらジャモバターの感想を求める。
それに押されたのかは分からないが、それでやっと口の中の料理に意識を向けたらしいマルクは、突然何かに驚いたように食べる事に集中しだす。
そして暫くして、礼儀正しく全てを飲み込んでから口を開いた。
「……美味しい。何で?」
思わず漏れたというようなその言葉に、私は気を良くする。
「当たり前でしょ?私が作ったんだから!食べたいならもっと食べていいよ!」
ジャモバターを差し出すと、それを見たマルクは迷う事なく手に取ると、詰め込むように食べ始めた。
私はその勢いに少し引き気味にながらも、自分の作ったものを美味しいと言って食べてくれるのが嬉しくて、それを静かに見守った。
そんな私の目の前に、一つの影がさす。
その影は、ジャモバターを指差して「それ、あたしにも頂戴!」と言った。
影の正体、それはシュリエであった。
「え、うん。あげる。いっぱい食べていいよ。」
私は少し驚きながらも、勢いよく頷いてジャモバターを差し出す。
まあ元々あげるつもりだったので、何の問題もないのだ。
そして私はシュリエがジャモバターに齧り付くのを確認すると、残ったもう一人、ガレンにも視線を向けてそれ差し出した。
「はい。食べてみて。」
「………ありがと。」
ガレンは小さくお礼を言ってから、それを口に含む。
すると少し表情が緩んだ………ように私には見えた。
そして少し意外に思う。
ヤンキーっぽい見た目に反して、中々に礼儀正しい。これもグレイの教育の賜物?
………何か段々ガレンが可愛く見えてきたかも…。
私はそう考えて、直ぐにそれを振り払うように頭を横に振る。
そして気を取り直すように、残ったジャモバターを一つ食べてみた。
「…うん。美味しい。」
私は味わったあと、しみじみと一言そう呟く。
流石私。記憶だけの初料理でも、ここまで再現するなんて。
身体が覚えていて簡単にできたし、私の前世は以外に料理をしてたのかな?
私は見た事もない前世の自分に思いを馳せた。
そんな時、私の身体に突然の異変が起こった。
一瞬足の力が抜け、気づけば地面に膝をついていたのだ。
「ふぇ?」
私は驚いて変な声を上げる。
でも異変はそれだけでは収まらず、立て続けに酷い吐き気が襲ってきた。
それには我慢できず、口を抑えながら蹲る。
……苦しい。気持ち悪い。苦しい。気持ち悪い。苦しい。気持ち悪い。苦しい。
全てが唐突で、何一つとして対処できないまま、吐き気と必死に戦う。
やばい我慢できない。このままじゃ人間の尊厳が失われる!
私がそう思ったときだった。
「えぇっ?ちょっ〜!?ど、どうしったのー!?」
「っ、おい!シュリエ!外から誰か呼んでこい!」
「えっ!?う、うん!」
周りでマルク、ガレン、シュリエの慌てた声が聞こえてきた。
私はそれに一種の光明を見出そうとし、直ぐに落胆する。
生憎、彼らの言葉にはそんなものは存在しなかった。
それどころか逆の事を私は願う。
人を呼ぶのではなく、出来れば皆出ていってほしい。
でも今は口を開けば全てが失われるから、直接言う事はできないのだ。
そんな絶望的な状況の中で、私は長く吐き気と戦い続ける事になった。




